第17話はじめての利権掌握!(えぇ~!?)


「ふわちゃん(終わったな)」



 決着はついた。

 

 二等術師イラガは四肢を失いブッ飛ばされて、今や公園の木の根元で虫の息だ。


 ちなみに、



「おンぎゃぁーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!? ウタが呪法使うの通り越してッ、ヒトの呪法コピーしたあああああああああーーーーーーーー!? なにしょれれあぎゃぁーーーーーーーーーーッ!?」



 ミズホもなんか終わってた。

 嬉しすぎたのかとんでもない笑顔とテンションで奇声を発し、そのままボインボインボインボインッと1秒5回くらい地面を跳ねて残像作ってた。


 はは、隣のユキネさんにドン引きされてるや。



「うわこの母親マジやっばッ、ウタくんマジで離れたほうがいいでしょ……」


「みじゅほぎんこう、さーびすはなかなか(飽きなくてなかなか面白いぞ?)」


「えっ、何言ってるのかわからないけど受け入れてる感じ!? 女への度量宇宙かよ……!」



 やったぜ褒められたぜ。



「しんふぉぎあぱちんこのゆきねくりすのえんしゅつえろい(さて、ユキネさんと残像母は置いといて)」



 俺はイラガに視線を戻す。

 驚くことに奴の意識はまだあった。



「うぐぅ……ばッ、ばけ、もの、め、ゲホッ……ころ、殺して、やるッ……この名誉ある四条家の私をよくも……ッ」



 血を吐きながら俺を睨んでくるイラガ。


 普通なら意識吹っ飛ぶ重症してんのにすごいな。

 腐ってもベテラン呪術師ってところか。



「きょうせいしっこう?(まだやる気か?)」



 背中を見せて殺されるのは御免だからな。

 俺の願いはとにかく死から遠ざかることだ。

 そっちがその気なら、俺も付き合うぞ?



「ごるふぼぉる……!(いくぞイラガ)」



 そうしてイモムシみたいな動きで奴に近づいた時だ。


 不意に、イラガを守るように人が立った。



「――ウタ様、どうかお待ちを」



 なんとそれは奴の奥さん、ユキネさんのお母さんだった。



「これ以上は、この人が死んでしまいますので」



 これは驚いた。

 母子ともども散々な扱いを受け、ユキネさんに『女の子に産んじゃってごめんね』などという、悲しすぎる言葉まで出すほど心折れていた彼女である。

 それがイラガを庇うとは。



「大丈夫ですか、アナタ?」


「ぐぅッ、女が私を気遣うとは生意気な……! だ、だが褒めてやろう。たしかに今の私は疲弊しきっていたからな。おい妻よ、私をあのガキから逃がして」


「あぁよかった。とても良い具合に弱っていますねぇ」



 そう微笑む彼女の五指から、イラガの頭部へ『操り糸』のように呪力が伸び、



「“統馭そうぎょ唯識ゆいしきわれが統べるは禁断の檻”。解放『電操呪法』」


「ぐぎッ!?」



 瞬間、イラガの身体がビクッと震えた。

 そして、



「ゎッ、ワタシは、いやだっ、ウタ様にッ、違うッ、敗北とッぁあっ、敗北ト永遠の忠誠を誓いマす!」



 え、えぇぇぇええええ……!?


 なんとイラガの口から、敗北宣言と共にとんでもない言葉が飛び出したのだ。

 こ、これは?



「私の能力は『電操呪法』。呪力の糸から微弱な電流を流すことで、人の神経を操作できる呪法です。まぁ呪力切れで体力も尽きている無抵抗な相手にしか効きませんが」


「き、きさッ、ま!? 夫である、私をッ」



「うぎゅッ!?」



 イラガの首がほぼ九十度曲がった。

 

 な、なるほどぉ。

 要するにコイツは今や、奥さんの操り人形なわけか。



「あぁ……この男を屈服させられる好機を、ずっと付け狙っていました。それこそ老後になるとでも思っていましたが、まさかこんなに早く叶うなんて」



 ……ユキネママさんってば超絶笑顔だ。

 

 手元でイラガが首折れそうになりながら「ゅ、ゆるッ、ゆるし……ッ!」とか涙目で懇願してるが、まったく意に介してない。

 それどころか秒速で肌がツヤツヤになってるんだが?



「これからこの男の四肢を焼きます。永遠に回復しないように。それから呪力を吸い取る囚人用呪具を埋め込み、ずっとずっと瀕死状態で飼うことにします♡」


「に、にんてんどうほうむぶ……!(容赦ねぇ……)」



 実はすんごい怖い奥さんだったな。


 まぁそんな女にしちまったのはどっかのDVクソ野郎か。

 責任もって仲良く暮らせよ、イラガ?



「さてそれに当たって」



 ユキネママ様は俺と俺の隣を見た。


 おおう、いつの間にやら横にミズホがきてらぁ。

 理性戻ってきたのか。



「フフ、ウタの成長が嬉しすぎて脳みそ爆発しちゃってたわ。もう大丈夫よ、ごめんなさいね旦那様ウタ?」


「しすてむふっきゅう(お、もうよさそうだな)」



 笑顔の粘っこさ増してるけどまぁ大丈夫だろたぶん。

 よかったよかった。



「それで、わたくしとウタに何か?」


「えぇミズホ様。ウタ様には本当に驚愕するとともに、心からの感謝を送りたいと思います。そこで」



 彼女ははんなりと微笑むと、



「先ほど夫も隷属宣言した通りですよ。『四条家』、全部もらいませんか?」



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