第14話はじめての全力解放!(がんばるぞ~!)



 突然に決まった術師との決闘。


 まさか赤ちゃんの俺がいきなり対人戦をやることになるとは思わなかったが、



「ちなみにウタ、やる気はある?」


「びぎゅもたぁ(炎上中だ)」



 当然やる気ならマックスだった。


 当たり前だ。

 娘と奥さんを道具扱いして傷だらけにするような野郎、一発殴らなきゃ気が済まんからな。

 俺のプニプニ赤ちゃんハンドが唸るぜ。



「なっ……そんな赤子が私の相手だと!? ふざけているのか大文字ミズホ!」


「いいえぇぇ、わたくしは本気よ四条イラガ。それともこの子が怖いわけ?」


「馬鹿を言えッ!」



 DVカス親父術師ことイラガは怒鳴ると、俺を見てニィィッと嫌な笑みを浮かべた。



「なるほど、大文字家の生後間もない遺児がソイツか。……あぁいいだろうッ、やってやろうじゃないか! 呪術界の未来のために、ゴミのような家の血は絶やすべきだからなぁ!」



 呪力を纏って構えるイラガ。

 対して俺も、背骨未成熟グニグニボディを捻らせ、ユキネさんの腕から脱出。

 決闘の地に(べちゃっと)降り立った。



「ぎょうむていししょぶん……(まだ立てないんだよなぁ俺。『反発強化』で重力弾かないと)」


「ちょっ、ちょっとウタくん大丈夫なの!?」



 うじむしのように地を這う俺をユキネさんが心配してくれる。



「アナタが普通の赤子じゃないことはわかったわ。でも、お父様……あの男も二等術師のベテランよ? そんなやつと赤ちゃんなのに戦うなんて……」


「びぎゅもたぁもんだい。こっこうしょう、『いれい』のかいにゅう(大丈夫だ、安心しろ)」



 俺はミズホのほうをちらりと見る。

 なんかウィンク飛ばしてきた。

 かわいい。

 ユキネさんは「歳と状況考えなさいよアイツ……」とぼやいてるが。



「ぜんてんぽに、きょうせいそうさ。さらにかんけいのあったほけんがいしゃにも、ちょうさのめすが(ユキネさん。俺は自分の実力がどれくらいか知らない。だが家を出るとき、ミズホは俺と戦うことになる相手を『ウタより弱い』と言っていたんだ)」



 そして。

 あのイラガってやつは、『何者かに連絡を受けてこの場所にやってきた』と言ってたんだ。

 つまり、



「ひがいしゃにむけ、しゃざいかいけん。さらにばいしょうきんのしはらいもけんとう(このイラガって奴こそ、ミズホが用意した倒すべき相手ってこった。ユキネさんとそのお母さんを、救うためにな)」


「なっ、何言ってるのかわかんないけど、大丈夫って気持ちは伝わってきたわ。でももし危なくなったら、私が止めに入るからね!?」



 優しい子だ。

 俺はそんな彼女の頭を撫で――――――るには140cmほど身長が足りなかったので、代わりに足の甲なでといた。


 さてやるか。



「ごるふぼぉる(ボコボコにしてやる)」


「チッ、赤子のくせにやる気のつもりか? このイラガ様をッ、舐めるなよォッ!」



 ついに戦いが始まった。

 イラガは『衝撃強化』で駆けると、一瞬で俺の前に現れた。



「死ね乳幼児ィーーーーーッ!!!」



 そして全力キック。

 奴は一切容赦なく、俺の頭をボールのように蹴るのだが、



「わごんあーる(ってなんだこれかるっ)」


「何ッ!?」



 蹴りは顎をくにゅっと押した程度だった。



「なっ、なんだこれは!? 『衝撃強化』をした蹴りが効いてない!? 貴様なにをしたっ!?」


「えあばっく(何って、『反発強化』してるだけだが?)」



 身体の弾性を概念的に上げる基本技術である。

 しかも咄嗟に使ったもんだから全力じゃないんだが。



「びっぎゅもぉたぁ(うし、もうちょっと燃料じゅりょく注いで使ってみるか。おりゃー!)」


「なッ、ぐぁああーーーーーーッ!?」



 ぶっ飛ばされて地面を転がるイラガ。

 なるほど、気合い入れて『反発強化』するとぶっ飛ばすこともできるのか。



「な……意味が分からんッ。こんな赤子が、『反発強化』を使っただと!? しかもなんだこの技に込められた呪力量は!? おいどういうことだミズホッ!?」



 砂利まみれになったイラガがミズホに吼える。


 それに対し母は、どろっと溶けるような笑みを浮かべて、



「娘さんにも語ったけど、簡単なことよ? 生後一か月弱の段階から、『ごみを呪え呪え呪え呪え』と、一日中教育し続けたの」


「はぁッ……!?」



 まぁそんな感じだな。

 おかげで呪力メキメキ上がったぞ?



「ぁっ、赤子が何かを呪う想像など出来るわけがないだろう!?」


「でも出来たら? 脳の構造デザインがあまりに未熟なうちから、人を呪い続けたら? 果たしてその脳髄はどうなるかしらぁぁ?」


「そっ、それは、幼く未熟なほどに、大脳が呪力生成に特化した形に変化してッ……いや、だがそんな……!?」



 なかなか楽しい日々だったよ。


 呪力を上げるには具体的に人が傷つくイメージをしなきゃなんだが、そこで前世のアニメやらなんやらが役に立った。

 ミズホが隠し撮りしてきたアホどもを、思い出の中のやられ役に置き換えれば簡単だ。


 それで呪力が上がれば上がるほど、死からも遠ざかるわけだしな。

 おかげでやる気全開で呪力上げに励めたさ。



「じぇいえいばんく(ミズホも喜んでくれるしな)」


「きゃーーーッ!? 言葉はわからないけどママのこと想ってくれてるのはわかるわ~ッ! でもじぇいえいばんくじゃなくてミズホよー!?」



 歳も考えずぼいんぼいん跳ねるミズホ。

 そのまま俺を抱き上げて「ワッショーーイ!」とかやり始めた。

 元気ですねぇ。

 


「く、狂った親子めッ! だが、まだ身体から気配が溢れるほどまで呪力は上がりきっていないッ! 今のうちに、殺してやるッッッ!」



 なんらかの印を結ぶイラガ。

 すると、奴の手足が変貌し始めた。



「“変性へんじょう纏束てんそくわれが統べるは畜生の道”。呪力よ巡れッ、『獣身呪法』全力解放!」



 奴の手足の布地が弾ける。

 そこから現れたのは、あらゆる動物を混ぜ合わせたような異形の四肢だった。



「オォォォォォオーーーッ!」



 さらに手足はブクブクッと異音を立て、一気に膨張。

 やがて冗談のような光景が生まれた。



「これぞ我が呪法ッ、『獣身呪法』だ! 呪力を四肢に注いだ分だけ、我が手足は巨大かつ強壮になるのだァッ!」



 俺たちが見上げる先にあったのは、手足だけが十数メートルもの怪獣のように変貌したイラガの姿だった。



「グハハハハッ! 我が全力の呪力を四肢に注いだッ! その赤子とて、今の私には敵うまいッ!」



 奴が地面を踏み締める。

 ただそれだけで土地がひび割れ、周囲に小規模な地震が起きた。

 すごい力と質量だ。



「微塵と砕けて、死ね」



 巨大な足を振り上げるイラガ。

 俺とミズホの近くには奴の妻子もいるってのにお構いなしだ。


「ぁ、アナタッ!?」「お父様!?」


「貴様らももう消えてしまえッッッ!」



 あぁ本当に、腹立つ奴だな。



「ウタ」



 ああ、わかってるさミズホ。



「アイツの鼻っ柱を――」


「ごるふ、ぼぉる(打ち砕いてやるぜ)」



 体内呪力、全力解放。


 瞬間、俺から溢れる極大の輝き。


 それを前に、イラガの顔が驚愕に染まる。



「なっ、なんだこの呪力量は!?」


「とよた(あぁ、今なら何でもできそうだ。それこそ)」



 コイツの獣身呪法とやらも、


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