第8話はじめての自主訓練!(がんばるぞ!)



「かどかわ!!!!!!!!!!!(防御力MAXを目指すぜ!)」



 一日の終わり。

 たっぷりと呪術界の連中を呪って呪力を上げまくった俺である。


 このまま六時間寝たらまた修行だ。

 そのために英気を養うべきだが、



「ごるふ、ぼぉる!(その常識を破壊する! ここはあえてさらに修行するぜ!)」



 赤ちゃんの身だがまだまだ元気いっぱいなのだ。

 眠気も我慢できる程度である。



「とよた(思えばこの身体はハイスペックだな。もう生まれてから三か月近く経つが、なかなか疲れないし病気もしないぞ)」



 もしかしたら体内でアツアツな呪力のおかげかもしれないな。

 というわけで、



「しゃちょぉのむしゅこからのらいん!(呪術教練書だ)」



 母に貰った書物である。


 使用人のクレハさんは「読めるわけないでしょう! そんなものより絵本とか……このままじゃ情緒教育が……!」とか心配してくれてたが問題ない。



「みずはらいっぺい(俺はまともだよ)」



 いい子に育っているはずだ。

 母上も「ウタさえいればもうどうでもいい……!」って一日300回呟くくらいに孝行息子できてるみたいだしな。

 瞳孔は相変わらずグルグルに開きっぱなしだが、まぁ大丈夫だろたぶん。



「ちゅーこしゃで(つーわけで)」



 教練書をぺらぺら捲っていく。

 普通の赤ちゃんなら読めないが俺なら余裕だ。



「しょんぽしゃぱん、みちゅいしゅみとも、とぉきょうかいちょぉにちどぉ(ふむふむ。『衝撃強化』に『反発強化』に『武装強化』か)」



 このあたりは母も言ってたやつだな。


 書物曰く、


 “呪力とは『何かを呪い傷付ける力』である。ゆえに、与える衝撃を強化し、逆に肉体の反発力・抵抗力を強化し、また生物を傷付ける武具の強化を行うことが出来る”



 とのこと。



「しょぶんかくてい(なるほど納得だ)」



 呪力の特性である『反発強化』。

 肉体の反発力・抵抗力を強化できる、という部分を見てそう思った。



「にっさん(俺の身体があまり疲労せず、病気になったこともないのはそういうことか)」



 人間とはただ座ったり寝てるだけでも疲れるものだ。


 なにせ『重力』というダメージを受け、床に押し付けられ続けてるんだからな。

 その消耗を回復力が上回っているに過ぎない。


 が、



「すずき(反発強化。それにより俺の肉体が重力のダメージを受けづらくなっているとしたら、そのぶん普通の赤子より疲れづらくなる)」



 そして病気しないのも、生後間もなくから呪力をグングン高めているからだろう。


 無意識だったから微々たる効果だろうが、それでも俺は呪力で肉体を強くしていたんだ。



「びぃーえむだぶりゅー!(気付かないうちに超人っぽいことしちゃってたんだな! よし、これからは意識的に『反発強化』を行っていこう。咄嗟の事態からも生き残りやすくなるしな)」



 修行における俺の優先順位。

 それはまず、『生存確率を上げるすべを身に付けること』だ。


 特に赤ん坊なんてちょっとしたことで死にかねないからな。

 急な地震でモノ落ちてきて頭パッカーンとか草も生えない。



「かぶかじょうしょう(じゃ、さっそく『反発強化』を極めていくか。えぇと、修行方法は“肉体に当たる物体を反射するイメージをすること”? またイメージか)」



 ひたすら何かを傷付けるイメージをする呪力増強訓練といい、呪術はとにかく想像力が大事みたいだ。


 そんな訓練、自意識がはっきりする年齢じゃないと普通は無理だな。


 けど、



「ろりこん!!!!!!!!!(俺なら楽勝に出来るな。この反射するイメージってのもあれだろ? なんかそんなキャラいるアニメ見てたわ)」



 というわけで呪力を滾らせつつ、前世に見たアニメを参考に明確にイメージ開始。

 むんむんむん。



 ……さぁしてみたが、果たして『反発強化』できてるのか? 教本には習得かなり難しいとあるが。



「おいだしべや(試しに書物を上に軽く投げてみるか。で、普通なら俺の身体に落ちて痛みを感じる。でも『反発強化』が出来ていれば、本を弾けるわけだ)」



 というわけでポーーイッとしてみると、



「りすとら……かいひ!(お腹に落ちてきて……痛くなーい! 本が不自然に弾かれた~!)」



 おー、これが『反発強化』か。

 なんか一発で出来ちまったな! 難しいんじゃなかったのかよ?



「みずはらいっぺい!?(俺は騙されていた!?)」



 な~んだラクショウじゃねえかよ! たぶん読み手を緊張させて、集中力を引き出すために難しいって書いてたんだな。



「ぱわーはらすめんとッ!!!!!(じゃ、次はもっと重い衝撃で試してみるか~! 現状の反発力がどれくらいか調べて、そこからさらに反発力を上げていこう)」



 いつかはクルマに当たっても平気になるといいなぁ、と。


 そんな想像をしていた時だ。

 急に母が「ウターーーーーーーーーーッ!」と泣き叫びながら部屋に入ってきた!



「きょうせいそうさ!?(どうしたママ上!?)」


「あっ、アナタってば本当になんて子なのぉっ!? い、一日十八時間も修行させてるのに、そのうえで自主訓練までして、『反発強化』を一発で成功させるなんてッ!」



 あーなるほど。

 母上ってば俺の修行シーンを覗き見してて、そんで感動して入ってきちゃったのか。

 しょうがない人だなぁ。



「ばいしょうきん。ひがいしゃたいおう(ほらおいで。また涙を拭ってやるよ)」

 

「ウ゛ダ~~~~~~~~~~ッッッ!」



 泣きついてくる彼女をよしよししてやる。



「これからは母を名前で! 『ミズホ』って呼んで~~~!」


「JAばんく(ミズホ)」


「『ミズホ』よ~~~~!!!」



 はいはいわかったよミズホ。


 ふふふ、俺ってばそんなに好かれちゃったか。

 どうやらちゃんと理想の孝行息子が出来てるなぁ。




「――うっわぁぁ……」



 あ、なんだよ使用人のクレハさん?

 なんで「この母子、相性が最悪に良すぎる……」とか蒼い顔で呟いてるんだよ。


 相性いいなら、いいんじゃないのか?


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