第二章:狂乱、子の才能に狂いし母 ―教育教育教育教育教育教育教育教育!―

第6話恐るべき母子たち(クレハ視点)




『なんて、おぞましく恐ろしいことに……!』



 笑い合う母子を前に、使用人のクレハは戦慄した。



 ――『大文字』家当主の死より早一月。

 夫の死と周囲の心無い言葉で病んだ夫人は、近々病棟に隔離される予定だった。



『このままじゃウタ様に何かしでかすかもしれない。そう思っていたところで』



 予感は的中した。

 彼女、大文字ミズホは子供部屋に乗り込み、乳児のウタへと無理やりに教育を施そうとしたのである。

 しかも頷かなければ首を絞めようとする始末。


 これには悲鳴が出そうになったがしかし。



『なんですか、これは……?』



 ウタは母を恐れることなく撫で、とろかすように彼女を肯定していた。


 一見すれば母親想いの子供が、愛を示しているような光景だが……、



『いや、いやいやいやいや。ウタ様アナタ、それは「魔性」が過ぎる……!』



 ――未亡人ミズホは今、伴侶を失くした悲しみと男性への嫌悪で狂いきった状態である。

 それを一切の恐怖なく、甘く優しく涙を拭われ肯定されてしまったのだ。



『あれは、「効く」。狂った女心に、とんでもない方向に……!』



 クレハは直感する。

 呪術界の男を呪いながら焦げ朽ちるだけだった未亡人ミズホという火薬が、恐ろしい爆弾と化してしまったのを。


 そして何より、



『ウタ様……。アナタはどこか、他の子とは違うと思ってましたが……』



 とても賢く、ほとんど泣かず、穏やかに健やかに過ごしていた赤子。


 乳幼児でありながら顔付きはすでに母の美貌を感じさせるように可愛らしく、その瞳には知性の光が宿っていた。



 さしずめ神童の雛と言ったところか。

 彼はいつか呪術界の天才になるだろう。

 そう思っていたが、しかし。



『天才どころじゃない……。彼はきっと、呪術界を狂わせる「鬼才」になる』



 ――狂った母が呪術の教練書を見せた時、彼はとてもうれしそうに笑った。


 ――狂った母の『強くなって』という願いを、彼は満面の笑みで肯定した。 



 狂気である。



『ウタ様は赤子にして、呪術師として成長することを望んでいる。強くなることを願っている』



 まるで肉食獣のように。

 知性もないような段階から、『遺伝子たましい』自体が強くなることを求めているというのか。



『そんな恐ろしい子供の背中を、狂った女が後押ししたら……!』



 どうなるかわかったものではない。


 使用人クレハは今、呪術界の狂乱の始まりに立っていることを自覚した。

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