第4話はじめての母親発狂!(なんてこった!)




「かれはじゃい(無慈悲すぎて草も生えんな)」



 父の死から数日後。

 呪術の名家『大文字』家は没落することになった。


 なにせ唯一の稼ぎ頭である父さんがいなくなったんだからな。


 今後のことを考えて使用人は十人以上から二人に減少。

 あと『呪術総會じゅじゅつそうかい』ってところに上納金を納められなくなったせいで、『退魔七家』ってのから外されて、いくつかの訓練用の土地を使用できなくなったとか呪具ってのを借りれなくなったとか……。

 要するにボロボロって感じだ。



「ちゅいかけんしゃ(さらに)」



 俺は子供部屋から屋敷の庭を見た。


 そこでは美しい母さんが、裸足でぼんやりと歩いていた。


 急いで和服メイドさんが駆けつけ、彼女を屋敷に連れ戻そうとする。



「ごりゅふ、ぼぉる(あれは、ダメだな)」



 彼女は精神崩壊した。

 きっかけは間違いなくあの葬儀の日だろう。



「ほけんじゃいちゃななちゃ……(あの呪術師の野郎ども……)」



 葬儀後、陰口を言っていた連中は母に群がり口々に嗤った。



『お前の夫は歴史に残る恥さらしになったな。雑魚妖魔に未亡人にされた気分はどうだ?』

『さて実家に回収されたらアンタはどうなるかねぇ? 初産を終えた出がらしの身だ、客人用の“一夜のオモチャ”となるかもなぁ?』

『いやいや旦那さんはとても強い術師だったよ? なのに疲れ果てて不覚を取られたとなれば――奥さん、アンタが支えてやれてなかったんじゃないかい?』



 ……そうして母の心は壊れた。


 もう数日、目を虚ろにさせてずっとぼんやりとしている。

 おかげで実家に呼び戻される話はなくなったそうだがな。



「ひゃちょぉのむひゅこ(妖魔も怖いが、この世界の人間もかなり怖いな)」



 呪術師どもがやたらと女性を卑する理由。

 それは『呪力』が男性よりも劣る傾向にあるかららしい。


 そして初産以降の出産では、子に呪法が宿る確率が大きく落ちるとか。


 だから妻を愛するような真似もせず、一度産ませたら用済み扱いか。

 なるほど。 



「たちいりけんしゃ……ッ!(ふざけるな)」



 激しい怒りが胸に燃えた。


 思い出すのはブラック企業で使われ続けた過去だ。

 ヒトをヒトとも思わずに好き勝手しやがって。



「ばいしょうきんせいきゅぅう……!(絶対に強くなってやる。妖魔にも、他の呪術師たちにも負けないために……!)」



 赤子の身にあらざる『激怒』の感情。


 ――そんなものを燃やしていたせいか、俺は不思議と身体が熱くなっていくのを感じた。




 

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