第3話はじめての葬式!(みんなひどい!)



 喪服の集団を見ながら呟く。



「びっぎゅ、もぅた……(どうして、こうなった)」



 俺の初めての外出は、葬式になった。



『――えー、大文字ハジメ一等術師は、二十年以上に亘って妖魔との戦いで奮闘し、多くの成果を』



 父の功績を読み上げる進行役。

 どうやら親父さんはかなり上級の呪術師だったらしい。


 そんな彼の死に、参列者たちはみな涙を流すと思っていたが……しかし。



「……聞いたか? あの人、三等妖魔に殺されたらしいぞ?」

「任務帰りで呪力切れだったらしいとはいえ、情けない」

「名家の恥だな。『退魔七家』の一角が空くぞ」



 少なくない数の人間が、ひそひそと父の棺に嘲笑を向けていた。


 そのたびに俺を抱く母の腕が震える。



「か、かぶかげらく……?(大丈夫か、母さん?)」


「ぁ、あら、心配、してくれてるの? 大丈夫よ、大丈夫……」



 そう呟く母の目は虚ろだ。



「ろすかっとぉ……!(いや絶対に大丈夫じゃないだろ)」



 父が死んだときの泣き叫びようときたらなかった。

 このままじゃ母まで倒れてしまいそうだ。


 それなのに、



「嫁はまだまだ若く綺麗だな。誰か側室に娶ってやったらどうだ?」

「ふむ。美人だが、初産以外は子供が呪法を引き継ぐ確率が落ちるからな。孕ませ甲斐がなくないか?」

「抱き心地はよさそうじゃないか。まぁなんにせよ、あの女は実家に呼び戻されて何かにあてがわれるだろうがな」



 ……最悪だ。


 呪術界の人間らしき連中は、葬儀の場で死んだ男の嫁をはずかしめるような会話をしていた。



「わ、わたみ……!?(なんだこいつら……!?)」



 彼らの隣には奥さんらしき女性達がいるが、みな夫を咎めるようなこともしない。

 ただ人形のように目を伏せるばかりだ。

 そして、わずかでも下劣な会話に眉根を顰めれば、



「――おい貴様。当主である私に、何か言いたいことがあるのか?」


「ひっ!? い、いえ、っ、そんなことはっ!?」


「『いえ』だと? 私の発言を否定するのか? 呪力の少ない女の分際がッ!」


「ひぃいい!?」



 …………重ねて言おう。最悪だ。



「かれはじゃい(草も生えないな。どうやら呪術界は、とんだ男尊女卑社会らしい)」



 前世の日本じゃ考えられない有り様だよ。

 絶対に呪術師の男どもとは仲良くなれそうにないな。



「ふせい(だが)」



 父の棺を見て思う。



「はっかく……!(どうやら俺は、嫌でも呪術を極める必要があるらしい)」



 周囲の悪口でわかったよ。


 実力者だった父ですら、たまたま疲れているときに妖魔に襲われたら死ぬような世界だってな。



「たちぃりちょうしゃ……ッ!(だったら無力でいられるか……!)」



 死なないために、俺は強くなってやる!


 

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