超巨大生物、出現す。

ひらきみ

第1話 超巨大生物、出現す。

 俺の目覚めは遅い。もうこんな時間か。いくら何でも寝過ぎだろ。昼夜逆転ってやつだ。今は深夜の0時。むっくりと起き上がった俺はイスに腰掛けデスク上のパソコンの電源を入れる。


 この電子の世界だけが俺の居場所だ。さっそく某SNSにログインする。こんな深夜にも関わらずみんな自分の思いを呟いていた。


 俺はフォロワー数たかが三桁の泡沫アカウントだ。だが、これでいいんだ。ネットで有名になったところでどうなる。レスバなんてしても腹の足しにもならない。泡沫アカウントで結構。主に好きなアニメについて呟くのが日課だ。


 お、そうだHAJIME☆君にリプを返すの忘れてた。


HAJIME☆ 

魔法学園の落ちこぼれたちが世界を救う!の二期、自分も楽しみです!


運小太郎

そうだね。作画もっとパワーアップしてると良いけど。


 HAJIME☆君は今時の若いオタクの子で大学生らしい。バイトで稼いだ金でコミケに行ったり声優のライブに行ったりとアクティブなオタク活動を楽しんでいる。好きなアニメ作品について呟いていたところ向こうの方がリプをくれ時おり交流するようになっていった。以前に彼からこう尋ねられることがあった。


HAJIME☆ 

ところで運小太郎さんは何されてる方なんですか?


運小太郎

俺?まあ、しがないリーマンだよ。


 ごめん。嘘です。言えないよなあ。本当は三十路過ぎた引きこもりの子供部屋おじさんのニートだなんて。高校時代にクラスメートからのイジメにあい不登校、そして引きこもりへ。まるでテンプレみたいなクソ人生ルートだ。俺の部屋は一軒家の二階の部屋。最近では親からも疎まれてきてる。特に親父は俺にすっかり愛想を尽かしているようだ。


「キモーい!」

「おいブタ!ブヒブヒ鳴いてみろよお!!」


 俺はデブで不細工でトロかったのでいじめっ子グループの毒牙に容赦なくかけられた。

 

 俺をいじめた男子女子らクラスメート達が何のお咎めも無し。試しに名前を検索したところそのうち何人かは実名で某SNSに登録していた。奴らは普通に就職して結婚して人の親になっていた。俺とはえらい違いだ。


 加害者側が報われ被害者側がひたすら損を被る。こんなことがあって良いのだろうか。この世はひたすら理不尽だ。傑作なのはこれからだ。

 

 俺をいじめたグループのひとりの田所アツシ。奴はこともあろうことに市議会議員選挙に出馬し見事に当選しやがった。奴がテレビの取材で何を語ったって?


「やはり自分はですね。福祉の問題も多々ありますがまずは教育。ここに注視していきたいと思います。いじめの無い社会。これを目指していきたい」


 いじめの無い社会!?オイオイ。てめえがよく言うよなあ!散々、俺をいじめて楽しんでたくせによお!!


 俺は思わず声を上げて笑っちまった。ゲラゲラ笑ってるうちに頰にはどんどん涙が伝っていった。俺はいつの間にか笑いながら泣いてるという何とも奇妙な事態に陥ってしまった。何だ。このクソ社会。クソ人生。全てはタチの悪いブラックジョークみたいじゃねえか。


 こんな辛気臭い回想はやめにしよう。俺は気を取り直してSNSの画面に意識を集中させた。TLでは各々が気ままに自らの想いを呟いていた。これが良いんだよ。みんな好き勝手な事を呟く。この気ままな空間が何とも心地良い。


 そんな風に小一時間ほどTLを漠然と流し見していた俺はだんだんと違和感を感じるようになってきた。


ラムネ麦茶

マジか・・・


菊乃

はあ・・・⁉︎


Taki

いやいや、有り得ないって。


 何だかTLが騒然とし始めたぞ。こういう時は往々の場合、何か事件なんか起きた時だ。こういう事件が起きた時にリアルタイムな反応や情報を共有出来るのがSNSの醍醐味だ。


 急いでトレンドを確認してみるとそこには「巨大生物」や「上陸」や「東京湾」といったこれまで見られなかったワードが並んでいた。


ヨルダン三銃士

なんかヤバイらしい。。


インフレ東京

東京湾でバケモンが目撃されてるって。。


まさお

フェイクニュース?


生ゴミ生麦生卵

デマだろう。どうせ。


 次第に皆々がざわつき始めてきた。だがネットの世界は玉石混交。嘘も多い。情報を注意深く精査する事が求められる。そんな中ある投稿が俺の目に留まった。


瑠璃

ヤバいの撮れた


 という簡潔な文章と共に動画がアップされていた。怖いもの見たさで恐る恐る動画を再生する。


 時は深夜。映像は暗い。スマホで撮影されたものらしい。そこには白くほっそりとした撮影者の脚が映し出されたいた。撮影者はどうも若い女らしい。女物のサンダルを履いて走っている。いや必死に逃げていると言った方が妥当か。動画には女の荒々しい息遣い。周囲の人々の悲鳴がはっきりと録音されていた。


 「あっ!」と途中で撮影者の女が転倒するのが見て取れる。映像が反転する。そこの映し出されたのは高くそびえるビル群。そしてそれよりも巨大な何かの存在だった。そのヌメッとした質感。歩行を続ける姿はまさしく生物というより他になかった。「撮ってる場合じゃないって!」撮影者の女のおそらく友人らしい女の声が聞こえる。友人らしい女が撮影者の女を起きあがらせるところで動画は終わっていた。


インベイ田岡

何なんだ・・・これ?


鈴木@ベビーフェイス

AIによるフェイク映像なんじゃねえの?


闇雲キッズ

AIが進歩してるからってこんなにも精巧でリアルな映像作れるか?


 この動画は瞬く間に拡散されていった。今日は金曜日の夜。まだみんな起きていてそれぞれ興奮気味なのが伝わってくる。そんな中さらにこんな投稿が目に飛び込んで来る。

 

NFKニュース

速報 東京湾より何らかの巨大生物が上陸した模様


 紛れもなく公式のニュースアカウントの投稿だ。これまでこの事態に対して信じがたい気持ちを抑えきれなかったがここまで来ると退っ引きならない事態である事を認めざるおえない。


美津子

え、どういうこと?


穴龍コンサバティブ

公式ニュースで間違いないんだよな?


嫁は不干渉

俺は夢を見てるのか?もう信じられねえ。


内閣府

東京湾より何らかの巨大生物が上陸。進行を続けています。付近の住民の皆さんはいち早い避難をお願い致します。


 政府の公式アカウントだ。ここまで来て俺はこれが紛れもない現実であると痛感させられた。

 

NFKニュース

櫛枝総理 緊急会見


 動画付きの投稿だ。俺は迷わず動画を再生した。総理は災害など非常時に着るあの青い防災服を着て現れた。総理は深夜に叩き起こされたのだろう。やつれた表情をしていた。


「えー、東京湾より詳細は不明ではありますが何らかの巨大生物が上陸した模様であり未だ都心部への進行を続けております。まずは住民の安全を第一に避難活動を優先している次第であります」


狂具満

総理の口から巨大生物という言葉が出てくるとは・・・


キョーコ

怪獣ってこと!?


スカッシュ砂糖

一体どうなるんだ?


 みんな騒然としてるな。無理も無い。映画みたいな事が本当に現実に起きてるんだ。


 現代はスマホ社会。みんな一人一人がたいていスマホを持ってる時代だ。つまりその一人一人が記者みたいなもんだ。巨大生物を撮影した画像や動画が次々とアップされてくる。


 ある動画は高層マンションの一室から撮影されたものらしい。窓の向こうでは巨大生物が歩を進めるたびに工事現場の騒音など比にならないほどの凄まじい轟音が鳴り響く。撮影者は女性なのだろう。「ヤバいヤバい・・・!」「何アレ・・・!?」といった音声が録音されていた。


 また違う動画では地面サイドの路上視点の映像だった。巨大生物の足元らしき姿がはっきりと見て取れる。巨大生物が歩を進めるたびに道路上の車の群れがその反動で宙に浮き上がり地面に叩きつけられているのを見るにその重量感がいかほどかを見せつけられる。

 

 ちなみに巨大生物の見た目だがその姿は二足歩行で歩く尻尾のある巨大なクジラのようにも見えなくなかった。そのためSNS上では一部、海洋に放出された原発の処理水によってクジラが突然変異し巨大化したのではないという説がまことしやかに囁かれた。


原発の処理水が原因に違いないよ!これは国際社会に散々止められてきたのにも関わらず捕鯨を続けてきた日本人への天罰に違いない!


おいおいパヨクはこんな時に関わらず反原発、反捕鯨かよ。


とにかく今は非常時だ。右だの左だの言ってる場合じゃない。政治は抜きにして冷静に見守ろう。


NFKニュース

森野官房長官 緊急記者会見

動画を再生

 

 動画の中では小太りで防災服を着た官房長官が会見を行っていた。


「現在、上陸中の巨大生物は未だ都心部に向けて進行を続けており付近住民の皆様につきましては一刻も早い自主避難をお願い致します。また、この巨大生物に関しましてその姿を撮影するなどの行為が相次いでおりますが大変危険な行為でありますので自粛をお願い致します。またマスコミ関係者の皆様につきましては撮影のために巨大生物に接近するという事が無いよう重々お願いを致します」


 そんな矢先だった。早速ある投稿がさらに世をざわつかせる事になった。


TBNニュース

(LIVE)

動画を再生


 何だか嫌な予感がしたが好奇心には勝てず動画の再生をクリックした。  


 動画は生中継だった。どうやら飛行するヘリコプターからの映像らしい。女子アナが興奮気味に叫ぶ。


「今、私は例の巨大生物の頭上におります!何という大きさでしょう!今まさに!巨大生物は歩みを進めております!」


 映像は上空から進行を続ける巨大生物の姿が鮮明に映し出されていた。巨大生物は途中からヘリの存在に気づいたらしくジロリとカメラの方を睨んだ。その視線は何とも嫌な予感がした。明らかに敵意を孕んでいたからだ。


「あっ!巨大生物はどうやら我々の方を見つめているようにそのように思えます!」


 女子アナが叫ぶ。巨大生物はヘリを睨みながら口を大きく開く。巨大生物の口腔内が青白く光る。そこから何かが放たれた瞬間、カメラの映像が激しく光り画面が白飛び状態になる。


「ローターがやられた!!」


 パイロットが叫ぶ声が聞こえる。たちまちヘリ内がけたたましいサイレン音で満たされる。制御を失ったヘリはコマのようすさまじい勢いで回転していくのが見てとれる。


「いやああああああああああああああああああっっ!!!!!!」


 耳をつんざくような女子アナの悲鳴が聞こえ衝撃音と共に中継は終わった。


卵@ケイリー

一体、何が起こったんだ!?


すき焼き大好き

官房長官が撮影はやめろと言った矢先にこれかよ!マスゴミ!


轟々商事

気持ちはわかるけど人が死んでるんだ。闇雲に叩くのはやめようぜ。


NFKニュース

ジャパン放送のヘリが墜落。巨大生物は熱線のようなものを発射した模様


NFKニュース

森野官房長官 緊急記者会見

動画を再生


「現在、進行を続ける巨大生物につきまして東京都新宿区において熱線のようなものを発射した模様であり被害が発生しております。詳細につきましては現在調査中でありますが国民の皆様、マスコミ関係者には撮影の為に巨大生物に近づく行為は大変危険ですのでやめるように重々お願いしたい」


 この日本の状況は海外でも報道がされていた。海外ニュースの公式アカウントではJAPAN BIG MONSTER ATACKと銘打って巨大生物が都市を進行する姿が映し出されていた。


NFKニュース

櫛枝総理、自衛隊へ出動を緊急要請。


Kyuubee

今さらかよ。遅すぎるぜ。


山本幸治@憲政民主党

櫛枝総理が自衛隊に出動を緊急要請。これはもしかすると我が国が軍事独裁国家への歩みを始めるその一歩になりかねない。


海鬼

だからさあ!パヨクと野党はもう黙ってくんない!状況わかってんのかよ!もうそんな事言ってる場合じゃないだろ!


NFKニュース

櫛枝総理 緊急記者会見

動画を再生


「この度、自衛隊に出動を要請。まずは付近一帯の住民の避難が済み次第、作戦を展開。巨大生物の排除に向けて全力を投入する所存であります」


緑@生涯ヴィーガン宣言

巨大生物と言ったって私たちと同じ生き物である事は変わらない。物みたいに排除なんて・・・私は絶対に反対。共生出来る道がきっとあるはず。


Victory2000

ヴィーガンは相変わらず頭沸いてんなあ!共生?出来るわけねえだろ。あんなバケモン。人が何人死んでると思ってんだ!


しきしま

ようやく自衛隊が出動が決まってホッとしたわ。とにかくこれで何とかなるっしょ。


NFKニュース

自衛隊 対巨大生物軍事作戦を展開。巨大生物の進行を食い止める事は出来ず。


まっつん

自衛隊の攻撃が効かない!?


ATARU

マジか・・・終わったな・・・


NFKニュース

速報 櫛枝総理 米国のバーンズ大統領と急きょ電話会談を行う


修羅羅羅羅

何かどうしても巨大生物を排除出来ない場合は米軍主導で核兵器を核兵器を使用せざるおえないって・・・


AFD1099

首都で核兵器使用って・・・


洋々希釈

被害を日本だけに収めたいんだろ。非情なもんさ。


NFKニュース

櫛枝総理 緊急記者会見

動画を再生


「米国のバーンズ大統領と電話会談にて協議した結果、自衛隊と米軍による合同軍事作戦により現在、進行中の巨大生物の排除に全力に当たる事となりました。引き続き付近住民の避難を行う方針であります」


「総理!通常兵器で排除出来ない場合、米軍主導で核兵器を使用するというのは本当ですか!」


 記者の一人が切羽詰った大声が響き渡る。総理は気まずい表情で記者の方を見つめるも何も答えなかった。


内閣府

現在、進行中の巨大生物の進行ルートをマップ上にまとめました。付近住民の皆様は巨大生物が接近する前に一刻も早い避難をお願いします。


 そのマップ上に示された巨大生物の進行ルートを見て俺は思わず背筋が凍りついた。我が家に近づいてきてるじゃないか・・・

 

 階下で異変に流石に気づいたらしく両親が起きてきて騒ぎ出した。夜遅くだというのにお構いなしにテレビのニュース映像の音声が流れ聞こえてくる。


「お父さん何なのかしらあのバケモノ・・・」

「わからん。しかしとんでもないことになったぞ」


 階下からさらにバタバタと物音が聞こえてくる。どうやら荷物をまとめているらしい。階段を急ぎ気味で登ってくる音が聞こえる。施錠され閉まったドアの向こうからお袋の切羽詰まった声が聞こえる。


「タケル!政府の人がすぐに逃げないと駄目だって!」


 お袋がドンドンとドアを叩く。


「うるせえっ!!俺はどこにも行かないからな!!」


 俺は叫ぶ。ごめんよ。母さん。


「母さん!こんな奴もう置いて行こう!もう時間が無い!」


 親父の声が聞こえる。


「タケル!タケル!」


 やがてお袋の声が遠ざかり家の中がしんとするのがわかった。ガレージから車を出す音が聞こえる。ふたりはこんなバカ息子なんて忘れて生き延びれば良い。どうせ最期を迎えるならずっと過ごしたこの部屋で迎えたい。


 それからどれだけ過ぎただろうか。ズゥン・・・ズゥン・・・とこれまで聞いたことないような地響きが聞こえてくる。遂に来たのか・・・奴が・・・


 俺はイスから立ち上がりずっと閉めっぱなしだったカーテンを開く。ああ、こんな風に朝の光を浴びるのはいつぶりだろうか。

 

 俺のいる家の二階の窓から奴の姿ははっきりと巨大生物は眩いばかりの朝の光をバックに歩みを進めていた。ヒュウン!という飛行音と共に戦闘機が飛来し巨大生物にミサイルを次々と撃ちこんでいく。巨大生物は咆哮をあげその口腔が青白く光る。発射された熱線に当たった戦闘機が次々と宙を舞いながら撃墜していくのが見えた。紅蓮の炎に包まれ眩い朝日を浴びながら咆哮をあげる巨大生物の姿はどこか神々しくさえ思えた。俺はスマホを手に取りその姿を撮影し写真をSNS上にアップした。おそらくこれが俺の最後の投稿になる。もういいさ。いっそ終わらせてくれ。全部ぶっ壊してくれ。このクソみたいな人生を。クソみたいな俺の世界を。俺の視線の先では巨大生物が勝ち誇ったかのように空に向かって咆哮を上げ続けていた。





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超巨大生物、出現す。 ひらきみ @hirakimi

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