第2話 ある少女の命日と誕生


王国第三王位継承権をもつ王女は死んだ。


容易く死んだ、あっさりと死んだ、己の悲願を果たす気力を無くして死んだ。


そこにあった王女は亡骸は白き獣によって食べられた。


そこにあった老執事だったモノも、近衛兵だったモノも、強襲部隊だったモノもすべては、その腹に納まった。



だが生き残りがいたのだ。その者たちは増援を連れて帰ってきた。


「なんてこった!あの化け物を殺せ!そして王女の首を持ってこい!」


禿髪の男は叫んだ。


部下たちは武器を構えた。

────────────────────


強襲部隊はいがいにも善戦していた。


いや・・・それも当然かもしれない。

なぜなら彼は王国の屈指の実力を持つ強襲部隊だからだ。


白き獣は追い込まれた。



だが粘る。


「クソ!こいつはまだ死なんのか!」


禿頭の男は苛立っていた。


「落ち着けよ、すでにあの怪物は満身創痍だ。動きも鈍い。それに──」


スカした男が後ろからやってきて小袋を投げた。


禿頭の男はそれを受け取り口を開く。


鼻孔いっぱいに吸い上げられた空気とともに粉が舞い上がり体中に広がる。


「よしいくぞ」


その禿頭に浮かび上がった血管筋が物語るように、

人とは思えぬほどの跳躍を見せて獣を接近した。


「グルゥゥゥゥ!」


獣は叫ぶ。現れた男たちのみせる雰囲気が異様なことは察して。


「血を見せろ!」


禿頭は両の手に持った鋭い斧を振り回した。


獣もそれに応戦するが躱され一撃を貰ってしまう。


「さっきは良くもいいところを邪魔してくれたな!」


スカした男も二対の剣を振り下ろす。


それも命中。


「グアァ!」


威力も上々。


それでも逃げる意思も見せずに獣は応戦し続けた。


幾度となく振り下ろされた斧、あるいは剣は何度も獣から血しぶきを上げさせた。







ようやく静寂が森に帰ってきた。


「ふぅ・・ふぅ・・」

「・・・はぁ・・はぁ」


息の上がった二人は同じ対象を見つめていた。

いまだ息のあるその獣はただ死を迎えるのみとなった姿をしていた。


「まだ息があるなんて信じられねぇよ・・・」

「たしかに・・・もう薬の切れちまった」


二人は勝ちを確信し安堵とともに口を開く。


「さっ!お前ら王女の死体をアイツの腹から引きずり出せ!」


禿頭が命令を下すと部下たちが動いた。



一人が獣の腹に近付き剣を立て、腹を突き刺し破った。


だがそれを成したのは剣ではなく獣の内より現れた”腕”であった。


その細くしなやかで白い魅力的な腕で剣を立てた男の首を掴んだ。


男はもがくが抵抗できず体を揺らし最後は震え息絶えた。



獣の腹が完全に破られて姿を現したのは、

月下の光で煌々と照らされた紅蓮の髪を持つ少女だった。


少女は天を見上げる。


「悲しいわ」


彼女は一人語りをはじめる。


「生まれて間もないはずなのに、産声は喜びに満ちてこそあるはずなのに・・・わらわは悲しい・・・なぜ?」


その紅の瞳に映る景色ではなく、

別のモノを見つけているかのような遠い眼でいる。


「この悲しみは貴方たちを殺せば消えるかしら?」


目の前にいた強襲部隊の一人は悲惨であった。


口から手を一気に押し込まれ背骨を掴まれ引きずりだされたのだ。


その背骨を噴出した血が纏う。


奇麗な赤色の刀身を持つ長剣のような形をとった。


それを振るう。


容易く人が裂ける、それもあっさりと紙のように。


驚くことも死を意識する時間も無い、命を強引に抜き取られるように死んだ。


その光景を禿頭もスカした男も目撃した。


そして


「撤退だ!」


部下たちに命令を下し背を向け森に走り出した。


「そなたたちは逃げ切れるとおもっているのか・・・そうか」


紅蓮の少女は、

地面を濡らす血に触れる、するとそれは動き出す。

ゆらゆらと、意思を持ったように立ち上がった。



それは明々と燃ゆる炎のようであった。



「なんなんだ!なんなんだいったい!?」

「オレに聞くな!」


二人の男は焦っていた。


追い詰められた王女を一人殺すだけの簡単な仕事のはずだった。


だが、その仕事を放棄して撤退している。


理由は明らか、


「あの、あかがみぃ!」

「おい!無駄なこといってねぇで前を見ろまだ追っかけてきてるぞ!」


それは昨日まで・・・いやさきほどまでの手下。

いまは、驚異的な身体能力で馬の速度に追いつく顔のない化け物。


それが自分たちを追い詰めている。


ヒェ・・・ヒェ・・


馬はもうすでにスタミナが尽きかけている。


「くそくそくそぉお!」


男の悲痛な声が森に響く。

────────────────────


「・・・良くやったわ」


労う言葉は態度には明らかに乖離があった。

ひれ伏す元強襲部隊の手下たちを前に紅蓮の少女は見向きしなかったのだ。


「おれたちをどうするつもりだ!」


スカした男が尋ねた。


「なにって・・・なにかしら?」


顎に指を立て考える。


「ああ思い出した。殺すのよ・・うん・・そうだわ」


迫る紅蓮の少女に男たちは慌てて態度を変える。


「まっ待ってくれ!いやください!俺たちは結構いい情報を持ってるんです!それが──」

「あらそう」


紅蓮の少女は禿頭に指を差した。


血が顔をだし糸のように耳の中に入っていく。


「がぁぁああああ!やめでぐれぇぇぇぇえええ!」


その叫び声に反応などせず何かを探しているような表情を浮かべていた。


「もう十分ね・・・」


血が耳の中から体外に排出されその体を離れて少女のもとへ戻っていった。


「それでほかには?」

「え?」

「ほかには殺さない方がいい理由はあるかしら?」


汗が、大量の汗が溢れて落ちる。


「おっおれたちは強い!だからやくに──」


首が飛ぶ夜空を舞い地面に落ちた。


「ヒィ!」

「あなたは?」

「あなた様の!部下になりたいとおもっておりまs──」


鮮血が吹き荒れる。


「さようなら」


紅い噴水が彼女の裸体を洗い流した。


「さて・・・王子を殺しにいかなくちゃ」


月光照らす森の中を紅蓮の少女は歩き出した。


──────────────────────


読んでいただきありがとうございます。


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月光に照らされて煌々と輝き燃ゆるは紅蓮の乙女 新山田 @newyamada

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