まずは農業改革っ!

 女神様のお願いを聞いて、大魔王を倒す手伝いをする為に異世界に転生した私は、辺境の小さな村にある農家の長女として転生した。

 セルフィナという名前をくれた両親は私を溺愛してくれて、後から生まれた双子の弟と妹もお姉ちゃんお姉ちゃんと私の後をヒヨコのようについて来てくれる。

 前世は一人っ子だったから、弟と妹が可愛くて仕方がない。

 

 五才になった時に、女神サマから授かったスキルを実行しようとしたが上手くいかず、どういう事なのと抗議の声をあげれば、8歳になったら教会で祝福を受ける際に聖女の証と一緒に覚醒するから我慢してと返事が来た。

 ちくしょう、そう上手くはいかないかと溜息を漏らすも、言われてみれば結構なチートスキルだったし、その理由づけも頷けるかと納得した。


 それでも出来る事からやってみようと考えた私は、お父さんに強請って堆肥作りを始め、牛や馬など家畜の糞を集めて藁と重ねて混ぜて発酵させていく。


 「フィナ、こんな物をどうするんだい?」

 「これを混ぜたら土が元気になるのっ、小麦がいっぱい育つんだからっ」

 「本当かい? まぁ、物は試しだ。やってみようか」


 出来上がったそれを前にお父さんは首を傾げていたが、私が作物がよく育つとひたすらアピールすると、試してみようと土に混ぜてくれた。理解あるお父さんで私嬉しい。

 そして堆肥作りに並行して自分でこっそり作っていた物を用意する。それは元肥に使える骨粉だ。

 こちらはお母さんに頼んで骨細工を作る人から削りカスを貰って来てもらい、それを加熱処理した。チートスキルはまだ使えないけど、私初歩的な魔法なら使えるのだ。

 更にここでもう一手、畝立てを導入してみよう。向こうの世界の一部地域では早くから導入されてた畝立てだけど、少なくともこの国では使われていないようなのだ。これをやらない手は無い。


 「フィナちゃんっ!? あ、貴方魔法が使えるの?」

 「うんっ、使いたーいって念じてたら出来たっ」

 「す、凄い才能だっ、ウチの娘は天才だぞっ!」

 

 私が土魔法を使って畝立てをしているのを見て仰天する両親、転生者補正って奴かな、イメージしただけで土操作くらいは出来るのだ。

 うちの娘は天才だと感激しているお父さんに、この畝にも意味があるから、今年はこの上に麦を撒いてと訴えれば二つ返事で了承してくれた。お父さん大好きっ!

 そして骨粉も種を植える前に撒いておき、後はこれまで通りの栽培を進める。

 

 堆肥作り、畝立て、骨粉の三段構えの施策が功を奏したのか、その年の収穫期には他所の畑よりもずっと多くの小麦が育った。

 折しも他の畑が不作なのもあったのだろう。村長さんを筆頭に村人が大勢でお父さんの所に一体何をやったらあんなに育ったんだと尋ねに来た。

 

 「娘の言う通りにやったら、こんなに麦が実ったんです。うちのフィナは天才ですよ!」

 「なんと……こんな小さな子がか? セルフィナ、儂らにもそれを教えてくれんか?」

 

 お父さんが渾身のドヤ顔で私を抱え上げながら、ウチの娘のお陰ですと語れば、村長さん達は皆私に教えて欲しいと頼んできたので、講習会を開く事になった。

 堆肥の作り方から、骨細工の加工の際のクズや家畜の骨から出来る骨粉の作り方、そして畝立ての利点を説明していく。


 「土を盛った分水はけも良くなるし、空気もよく入る様になるから、根っこが良く育って元気になるのっ」

 「セルフィナや……そんな知識を何処で聞いたんじゃ? 骨を焼いて粉にしたり、土を盛り上げて作物を育てるなど聞いた事が無いわい」

 「あっ……え、えっと……その、前に夢の中で綺麗な女の人が教えてくれたの。これをやれば作物がよく実って、皆の暮らしが楽になるって」

 「な、なんじゃとっ!? それは女神様に違いない! 儂ら農民の為に女神様がセルフィナにお告げをしたのじゃ!」


 咄嗟に夢で聞いたと言い繕ったらとんでもない事になっちゃった!? 村長さんや信心深いお爺さん達が私に向かって拝み始めてるよぉっ!

 

 早速別の作物を植える時に皆実践を始め、村中でこれまでにないくらいの大豊作が訪れ税を納めても、どの家も街に売りに行く程の蓄えが出来た。

 この状況は流石におかしいと領主様にも報告が行ったらしく、領主様自ら視察に訪れる大騒ぎになってしまった。


 そして村長さんがやらかしてくれた。三つの施策で作物がよく実る様になった事。それを教えてくれたのが女神様からお告げを聞いた私だと領主様に報告してしまったのだ。

 私はただちに領主様の前に連れて行かれ、何か悪い事しましたかとガクブルしている私の前で、領主様は連れて来られた文官様や農業の研究者さんに詳しく話すように命じられた。

 テンパりつつも私はその人達に順番に説明していき、それをメモに取っていた研究者さんは私の言っている事が事実なら凄い発見ですと領主様に報告する。


 「これを実践し更に研究した上で報告すれば、私は陞爵すら夢ではないなっ!」

 

 これは農業における革新ですと熱く語る研究者さんに、この事を皇帝陛下に報告すれば自分は爵位が上がるのも夢ではないと笑う領主様。

 私が教えたこの技術を中央に報告する。その対価として最低でも五年この村は税を減免し、村が前から要望を出していた様々な事案を優先して行うと仰られた。


 まぁただの村娘の私ですし、コクコクと頷くしかないよね。

 上機嫌そうに帰られた領主様を見送った後に、皆で歓声をあげる。

 上手くいけば税が軽くなった上に、村の課題が色々と解決に向かいそうだから嬉しくなるのは仕方ないね。


 そのまま流れでちょっとしたお祭りが開かれ、皆飲めや歌えやの騒ぎになり、私はその立役者として上座の方に連れて行かれて苦笑していた。そこのおじいちゃんとおばあちゃん拝まないでぇっ!



 

 八歳になったある日、村の子供達が集められ、領主様の住む町から派遣されてきた教会の神官様が子供達に祝福を与える儀式の日が来た。

 祝福を受けると能力を与えられる事があり、それ次第で一家の今後が変わったりもする大イベントである。

 以前から天才だの女神様の加護があるだのと色々言われていた私は、どんな結果が出るのだろうと村長さん達が話しているのが聞こえる。

 

 同年代の子供達がワイワイと騒いでいる中、私はついにこの時が来たかと心中で呟く。

 女神様の言う事には、私はこの祝福を受けて聖女としての力を発現させ、聖女候補として首都に移り住み当代の聖女の元で修業を積む事になると教えられている。

 

 そして同時に、女神様からふんだくった……もとい、授かった二つのスキルも発現する事になるのだ。それが楽しみでしょうがない。

 私の番が来て、神官様が祈祷を唱えながら私の額に指先を触れさせれば、身体の中に熱いものが広がっていくのを感じられる。


 「こ、これはっ……!?」

 「神官様、今の輝きは……」

 「聖力の輝きです。しかもこれほど強い輝き、長い間祝福をしていますが見た事もありません……急ぎ首都に使いを送ってください。新たな聖女候補が見つかったと」


 神官様達が大騒ぎをする中、私は自分の手の平を見つめる。身体の底から力が溢れてくるのを感じる。

 少し意識を集中させれば、手に淡い光が宿り、それを見た神官様達は更に騒ぎ始めていた。

 この一件は私達の住む国、リグティオン神聖帝国の首都にある教皇庁や皇室へと伝わり、私は聖女候補として首都へ赴く事になった。

 


 

 「まさかこんな事になるなんて……」

 「どうしてもフィナを首都に送らなきゃいけないの? あ、あの子はまだ八歳なのに……」

 「俺達が何を言ったって聞いて貰えないさ。どうしようもないんだ」


 その日の晩、眠れず夜に起きた私は、二人だけで話す両親を見つける。

 お母さんはずっと泣き続けていたらしい、目を真っ赤に腫らして、どうしても私が首都に行かなきゃダメなのかと嘆いている。

 お父さんもやるせない表情で、自分達のような農民が何を言っても聞いて貰える筈が無いと項垂れている。

 私は扉を開けて中に入り、驚いているお母さんへとギュッと抱き着く。


 「お母さん心配しないで、私ちゃんと頑張るから……もし聖女様になれたら、皆を首都に呼ぶね。皆で一緒に暮らそうよ」

 「フィナちゃん……どうか身体に気を付けてね」

 「聖女になんかならなくていいんだ。俺達はお前が健やかに育ってくれる事をいつも願ってる」


 頑張って聖女になるという私に、二人はどうか身体に気を付けてと声をかけながらギュッと抱きしめてくれる。

 二人の優しい声と暖かさに涙が浮かんでしまう。

 これは自分の夢を叶える為にも通らなきゃいけない道だけど、八年間私を愛してくれた両親と離れるのが辛い。

 旅立ちの日、私が遠くに行くことを聞いた双子はお姉ちゃん行っちゃやだと私に抱き着いて離れない。

 ちゃんと手紙を書くから、お休みが貰えたら戻るねと言い聞かせて二人を落ち着かせた後に、私は両親に向かって行ってきますと告げる。

  

 八年間育った家、そして家族達と離れるのは寂しかったが、行かなければならない。夢を実現する為にも、私は家族に見送られながら神官様達と共に首都へと旅立った。

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