青春大爆破

文字を打つ軟体動物

青春大爆破

 広がる青い空。

 浮かぶ真っ白な雲。

 屋上に寝転がる僕。

 今、僕は、最高に春を満喫している。


 人の流れを見るに、不良共はわざわざこんなところまで来ずに校舎裏でたむろしているようだし、屋上まで来る人なんてほとんどいないように思える。

 入学1日目、早くもいい場所を見つけたものだ。


 力を抜いて、横になり、空を見上げる。

 それだけで僕の心は満たされる。

 ああ……良い。

 そんな抽象的な言葉だけが、僕を包みこんだ。



 ガチャッ。



 わざわざ閉めておいた扉が開く。

 誰だ、僕の楽園を邪魔するのは。


「うわっ、人いるじゃん! ねぇ君、新入生?」


 うるさい、話しかけてくるな。

 邪魔するな。

 今のここは、僕のためだけの場所だぞ。


「いちゃ悪いですか。邪魔しないでください」


 そう言って横を見れば、同じ学校のものであろう制服を着崩した、背が高い整った顔立ちの女子。

 艶のある髪は肩まで伸びており、黒い瞳の奥には確かな輝きが見てとれる。

 入学式の時に見かけた記憶はないし、おそらく上級生なのだろう。


「可愛くないね君〜! じゃあ新入生じゃないの?」


「いや、新入生ですけど……で、何しに来たんですか?」


「君と同じ。のんびりしに来ただけ」


 穏やかな口調で放たれるその言葉に、邪魔をされることはないだろう……と、少しだけ安堵を覚える。


「……ならいいですけど」


「ねぇ君、名前は? 私は小鳥遊 香織タカナシ カオリ


 カオリさん、か。

 やけに馴れ馴れしいな、この人。


「なんで名前なんて聞くんです?」


「そりゃあ、これから半年くらい。長い付き合いになるからでしょうよ」


「……半年?」


「あー、忘れて。2年間長い付き合いになるし、名前を聞いとくのも当然でしょ」


 まぁ、呼ぶ時に不便だろうし答えてやるか。


「僕は夏羽 裕翔ナツバネ ユウトです。よろしくお願いします」


「よろしく少年!」


「カオリさんも少女でしょう」


「私は大人のレディーですから?」


 自信満々のその顔が、僕の目には少し滑稽に映り、思わず笑みをこぼしてしまう。


「ふふ」


「何がおかしい! こら! 笑うな少年!」


 少しムキになったその顔が、僕の目にはやけに面白く映り、笑いが加速する。


「ふふ、あはは!」


「こらー! だー! かー! らー! 笑うな!」


 ああ、なんだろう。

 出会ったばかりなのに、気心の知れた仲になった気分だ。


「ふふ、笑ってませんよ少女」


 そんなことを言いながら、僕は声を出して笑い続ける。


「笑ってるじゃないか! あと少女って呼ぶのやめろー!」


 楽しい。


「うるさいですよ、少女」


「生意気だぞ、少年!」


 笑いを堪えながら、言葉をひねり出す。


「……少し疲れたので、争いは後にしませんか?」


「そうしよう……ああ、忘れていた。君をどう呼べばいいかな?」


 先刻のキャラ崩壊を無視するかのように、クールぶって取り繕おうとしている。

 なんというか、見ていて飽きないな。


「ユウトくんとかで良いんじゃないですか?」


「質問に質問で返すな! ユウって呼んじゃうぞ、いいのか!?」


「いいですけど……」


「いいの!? 本当に呼んじゃうぞ?」


 ユウと呼ばれることにそんなに不都合があるのか……?

 変な人だと困惑しながらも、なぜか少し暖かさを覚える。


「いいって言ってるじゃないですか」


「マジ……? ユウ、改めてこれからよろしく!」


「よろしくお願いします、カオリさん」





 君と僕の青春はこうして始まった。

 ああ、今でも思い出すさ。

 笑い合った思い出は沢山あれど、あの日は特別だったからね。

 だって、僕らが出会った日なんだから、当然だろう?


 それから毎日のように、僕らは屋上で会って……楽しい日々を過ごしたさ。

 もっと、君についてよく思い出そう。

 君はよくスケッチブックを持ってきて、空を描いていた。

 そう、君は絵が上手かったね。





 いつも通り屋上の扉を開ける。

 狭い屋上では、カオリさんがスケッチブックを手に空を見上げていた。


「早いですね、カオリさん」


「そーだねー」


 カオリさんは上の空のようで、話しかけても気の抜けた返事しか返ってこない。


「反応が薄いですね……いつもなら煽ってきたりするでしょうに」


「そーだねー」


「ふふ、では僕も空を眺めるとしますか」


 隣に寝転がろうとしたその時、カオリさんが言葉を発する。


「ヨシ! 描けた! ユウ見て見て!」


「うわっ、びっくりした。なんですか急に」


「そういうのいーから見て見て!」


 目線をスケッチブックに向けて……僕は思わず息を呑む。

 スケッチブックに描かれた空は、青と白しか使われていないにも関わらず色鮮やか。

 空と見比べても違うところが見つからないくらいに精密だが、僕の目には空よりも綺麗に映った。


「……上手いですね、絵」


「えへへ、すごいでしょ。もっと褒めてもいいんだよ?」


「2色だけでこれだけ色鮮やかかつ精密に、そして美しく描けるのは感嘆の一言に尽きます」


「恥ずかしいからやっぱやめて!」


 カオリさんは顔を赤らめて、スケッチブックを僕の手から奪い取る。

 ……ちょっとからかってやるか。


「僕はまだ褒め足りてませんよ?」


「恥ずかしいからやめてって言ってるじゃん! あーもう耳塞いじゃうもんね!」


 塞いだふりをして沢山褒められるつもりだな。

 その手には乗らないぞ。


「そこまで言うならやめましょうか」


「えー? やめるの?」


「やめます」


「やだやだもっと褒めてー!」


 子供みたいなカオリさんの行動が面白くて、思わず笑ってしまう。


「ふふ」


「あっ! 今笑ったな? 笑ったよね?」


 まるで『UNOって言ってない!』とはしゃぐ小学生のように、カオリさんが迫ってくる。

 カオリさんと喋っていると飽きないな。


「笑いましたけど……何かあるんですか?」


「なんもないよ!」


 無邪気な一言に、肩透かしを食らったような気分になる。

 そうだ、カオリさんはそういう人だった。


「えぇ……」


「時に少年、趣味はあるかね? 私の趣味は見ての通り、絵を描くことさ!」


「僕は、機械いじりを少しやってますね。この田舎だと部品揃えるのに通販が必須でうんざりしています」


「ねーねー、それってさ! 爆弾とかも作れちゃうの?」


 いきなり物騒だな、カオリさん。


「材料さえあればできますね」


「すごーい! ねーねー私にもなんか作ってよ、時計とか!」


「デジタルならなんとか……アナログの時計は無理です」


「目覚まし時計とかは?」


「できます」


「作って作って〜!」


 日頃の感謝を込めて、ということでプレゼントしてやるか。


「いいでしょう、納期は来週とかでどうですか?」


「そんな早くできるの?」


「僕は意外とすごいんですよ」


「じゃーさ、でっかい爆弾で、この町を吹っ飛ばしちゃわない?」


 カオリさんの楽しそうな声に、少しだけ興味が湧いてしまう。


「……気が向いたら!」





 気が向いたら、だなんて。

 なんて、僕は馬鹿なやつだったんだろう。

 やってみたかったくせに。 

 本当は、僕も、そんなでっかいことを、やらかしてみたくてしょうがなかったんだ。


 でっかいこと、ああ……でっかいことと言えば、文化祭。

 文化祭の時も、他に友達なんていない僕らは屋上でサボっていたね。





 文化祭当日。

 入り口の装飾、屋台、天幕、舞台……

 賑わう校庭を眺め、君は言った。


「こんなのより、空を眺めてたほうが楽しいね」


 最初から空を眺めていた僕はこう返した。


「そんなにつまらないんですか、ここの文化祭」


「ユウは新入生じゃん、見てきなよ」


「カオリさんが行かないなら、きっとつまらないんでしょう?」


 そう、少しからかってみる。


「私の審美眼に気付いてしまったのかね?」


 カオリさんからの弱すぎるカウンターを喰らい、僕は何事もなかったかのように会話を続ける。


「気づいてしまったら、どうなるんです?」


「……この先考えてない!」


「わかってましたよ! どうせてきとうに言ってるんだろうって!」


「そんなことよりさ、ユウ。ここから大声で校庭に向かって叫んでみたくない?」


 魅力的な提案だ。


「いいですね、なんて叫びます?」


「ユウも叫びたいでしょ、でもね、我慢するの!」


 驚いた。

 カオリさんに、我慢なんて概念があったなんて。

 ……いや、さすがに失礼か。


「なぜです?」


「もっともっと、でっかいことをやるためさ! でっかいことをやるために、びっくりさせるために! チャンスを! 虎視眈々と! 狙っているのさ!」


 そう言って、カオリさんは両手を上に広げる。


「カオリさん、僕も……でっかいことをやりたいかも、しれません」


「やってやろうじゃない、ユウ!」





 そう、でっかいことをやるって。

 カオリさんは、この時から、決めていたんだ。

 決めていて、それで……それでも、僕と関わり続けた。

 夢のような日々を、僕に……


 ああ、夢といえば……時々だけど、君は僕に夢を語ってくれた。

 君が僕に初めて夢を語ってくれたその日も、きれいな空が広がっていたね。





 今日も今日とて、空は青く、美しく。

 見上げれば巻積雲うろこ雲高積雲ひつじ雲が合わさって、鯨のような形を為している。

 空すら呑み込んでしまいそうなその影は、僕にささやかな非日常を与えてくれる。


「ねーねー! でっかい鯨だよユウ!」


 そして、隣にいる日常に、その非日常は掻き消される……と。


「風情の欠片もありませんね。こういうのはゆっくりと、寝転がりながら黙って眺めるんですよ」


「いーじゃんいーじゃん、おしゃべりしよーよ! 私寂しくて泣いちゃうよ?」


 カオリさんが駄々をこねる子供のように見える。

 ……いつものことだな!


「まぁ、カオリさんと話すのは楽しいですし……何について話しますか?」


「そんなさ、雑談にテーマなんていらないでしょ! まー、それなら……うーん。私の夢でも聞いていくかい、少年?」


 カオリさんは子供っぽいが芯が通った人だ。

 きっと、面白いことを夢見ているのだろう。

 つまり、どういうことかと言えば……気になる、ということだ。


「それはいい暇つぶしになりそうだ、少女」


「だーかーらー! 少女って呼ぶなー!」


 この反応が見たくて、事あるごとに少女呼びをしてしまう。

 まぁ、しょうがないしょうがない。

 僕は多分あんまり悪くないさ。


「毎回年下にムキになって、恥ずかしくないんですか?」


「会った時からのネタを擦り続けて、恥ずかしくないのか!」


 墓穴を掘ったな!

 悪いが、勝たせてもらおう。


「最初に少年呼びしたのはそっちでしょう」


「くっ……ぐうの音も出ない……」


 よし、カウンターがきれいに決まった。


「で、聞かせてくださいよ。夢の話」


「ユウ、この町ってクソだよね!」


 確かにひどい町ではあるが、それを笑顔で言われても反応に困る。


「いきなりなんですか……」


「いきなりじゃないって、私の夢の話するんでしょ? 前置き前置き!」


「なるほど」


「権力握ってるのは古臭い風習が染み付いた老人と、そいつらの影響をモロに受けた中年共。陰湿で排他的、今の時代に村八分とか正気じゃないでしょ」


 カオリさんの言っていることは正しい。

 人口もそこそこで、しっかり発展している町ではあるが、その実態はクソ田舎そのものだ。


「ここまでクソ田舎っていう場所も珍しそうですよね……まぁ、僕らは町の外なんてほぼ知らないからそんなことは言えませんが」


「でさ、ユウ、姉か妹いたっけ?」


「いませんけど……」


「あ、じゃーわからないか。初潮の時に町のババアがこぞって赤飯持ってくるの」


 え?


「しょ……えっ?」


「時代錯誤も甚だしいよ、ほんとクソ!」


「えっ……しょ、え?」


「いつまで混乱してるんだい、ジジババ共の情報網はこの町に張り巡らされてんのさ!」


 この町は、思った以上にクソらしい。


「気持ち悪いどころじゃありませんね……」


「それで気持ち悪いからって拒絶したら村八分だよ、ほんとに頭おかしいんじゃないの?」


 そういえば僕は、カオリさんが他の人と喋っているところを見たことがない。

 ……そういうことだったのか。


「クソどころじゃありませんね」


「だからね、ぶっ壊すのさ! ド派手にね!」


 そう語るカオリさんは、僕の目を釘付けにするほど、輝いて見えた。


 なぜ、こんなに狂った町で、ひどい仕打ちを受けながらも笑っていられるのか、僕には理解できない。

 カオリさんはすごい人なんだな。


「応援してますよ」


「ね、私が失敗したら引き継いでくれる?」


 正直に言って、僕はこの町を変えるつもりなんざない。

 早くこのクソ田舎を出て、都会で暮らしたいからね。

 でも、こんな話を聞いて何もしないほど薄情ではないさ。


「失敗しても、またやり直せばいいですよ。まぁ、気が向いたら協力くらいならしますけど」


「やったー! ユウ大好き!」


 心拍数が上がる。

 本人にそんなつもりがないとはいえ、悔しいけどカオリさんは顔がいい。

 僕がもう少しチョロかったら、落ちていたような気がする。


「そういう物言いは誰かに聞かれたら勘違いされるので、ここだけにしてくださいね」


「さっきの夢語りのほうが聞かれたらマズいっしょ!」


「確かにそうですね……まぁ、屋上にはあんまり人来ないし、いくらでも夢を語ってくださいよ」


「語るだけじゃないさ、絶対に、ド派手に、ぶっ壊してみせるから!」


 そう言ってカオリさんは満面の笑みを見せる。


「それにしても、田舎と言ったって一学年約50人のこの高校があるくらいには人口があるのに、よく許されてますね老人共……」


「疑問に思わない馬鹿ばっかなのさ、だから私が気づかせてみせる!」


 ああ、やはり。


「僕は平穏に暮らしたいので、応援くらいしかできませんが……まぁ、がんばって、この町を変えてくださいよ?」


「もちろんやってやるとも! この私がね!」


 カオリさん、君は眩しい、僕の太陽みたいな人だ。





 はは、気が向いたら、なんて言っていた僕も今では……あれ、僕を焚き付けるために君は……?

 いや、君はそんなに回りくどいことしないか。


 あー、興奮しているのか、考えが巡りに巡って変な方向へと突き進んでいく。

 ああ、でも。

 君の夢は、僕が代わりに叶えてやるさ。

 絶対に。

 

 そして、忘れたくても忘れられないあの日、君は……ああ。

 あの日も、あんな日でさえ空は青かった。 





 憂鬱な月曜の朝。

 なんとなく、少し早めに登校してみる。

 校門をくぐり、その先にある校庭には……沢山の紙が落ちていた。

 避けて通ろうとしたその時。




 ぐしゃ




 鈍い音で気付く。

 何かが、紙の上に落ちた。


 近づいてみれば、紙はテープで繋がれており、そこに色鮮やかな翼が描かれている。

 カオリさんの絵柄だ。


 そして、その紙の上には……


 ダラダラと流れる血、突き出した肋骨、抉れた腹の肉。

 翼を広げたかのような体勢でそこに横たわっていたのは、カオリさんだった。


 自由に空を羽ばたいていた君は、突然地に落ちた。

 抉れた肉よりも、突き出した骨よりも、溢れ出た血よりも、何より。

 地面に描かれた色鮮やかなその翼が、僕の目に残った。


 こんな田舎では間に合うかもわからないが、急いで救急車を呼ぶ。

 やがて人だかりが増え、屋上にも1人の人影が見える。

 なんだっけ、あいつ。

 国語教師かなんかの。


 僕は屋上へと駆け上がり、そいつが何をしているかを目撃する。

 なにやら、手紙のようなものを読んでいるようだ。

 読んで、そして……破り捨てた。


 急いで僕はその場から離れ、そいつがどこかへ行ったのを確認した後、屋上へと戻る。

 屋上から見下ろすカオリさんの死体は、描かれた翼と合わさって……まるで芸術品のように見えた。


 そこで、ようやく僕は気付いた。

 カオリさんがいないことに。

 死んでしまったことに。

 もう、笑い合えないということに。


 気付いてしまったんだ。


 僕は、昼飯も食べず、家にも帰らず。

 1日中、屋上でカオリさんを弔った。


 葬式に行ったカオリさんの家には、漫画に出てくるみたいな悪口だらけの落書き、参列者はカオリさんの両親と僕だけだった。

 お坊さんも別の町から呼んだらしい。


 後日、破り捨てられた紙片を集めて気付いたことがある。

 かろうじて復元できた部分には『私は、自分の死を以てこの町を告発します』とあった。


 これは、カオリさんの遺書であり告発状だ。

 それが、破られた。








 くたばれゴミカス共。





 そう、出会ってたった半年で、君は自殺した。

 今日は君の一周忌。

 君については十分に思い出したし、決行だ。 


 この町の町内放送には2種類ある。

 新しくできた町役場からの放送と、旧役場だったこの学校からの放送だ。

 改修されて学校になってからも放送室はなくなっておらず、校内放送と町内放送の両方を流せる仕様になっている。


 意外にもいたずらに使われたことはないようで、放送室に鍵はかかっていない。

 まぁ、この学校は屋上にすら鍵がかかっていないし、おかしなことではないだろう。


 運がいいことに放送室から屋上までのルートは短く、場所としてもちょうどいい。

 最高の立地だな。


 僕は1年前、君が死んだ日から、この町を吹っ飛ばす準備をしてきた。

 通販だけで材料を揃えるのも、怪しまれないように火薬を管理するのも、組み立て作業も大変だったが……街中に装置を設置するのが一番大変だった。


 これから行われるのは、君への弔い。

 君のためだけのド派手なショーだ。


 よし、いざ放送ジャック。

 僕はスイッチを押して、マイクに顔を近づける。


「えー、ゴミカスの皆様におかれましては……あー、めんどくさいでございますね。さっさと本題に入ってしまいましょう」


 僕は、これから、この街を吹っ飛ばす。


「去年の今日、僕の友達である、タカナシ カオリさんが……死にました。しかし、死んだことも、自殺であることも問題ではありません」


 僕は、カオリさんを忘れない。


「クソ共のてめーらは、踏みにじりました。彼女の遺言は細切れにされ、彼女の死を以って完成した作品は記録すら残されずに撤去されました」


 僕は、カオリさんのことを忘れさせない。


「僕は、彼女の分までド派手に死んで、メッセージをでっかい声で伝えなければなりません」


 僕は、でっかいことをやる。


「この町はクソです。クソみたいな古くせぇ文化が根付いていやがる。個人情報が少しでも漏れれば町中を駆け巡るし、プライバシーも何もあったもんじゃねーです。そのくせ、粘着質で陰湿で排他的で、自分達のことについてはやたらと隠したがる。時代錯誤も甚だしいクソ田舎です」


 僕は、カオリさん、君の夢を叶える。


「だから……僕、いや。僕らの青春ごと、この町を爆破します」


 僕は屋上へと駆け上がり……カウントダウンもなしに、起爆スイッチを押す。





















 花火が上がる。





















 雲一つない快晴の夜空。

 破裂音が町中に響く。

 見渡せば、青、緑、赤、黄、色とりどりの羽が宙を舞い……僕は、君との青春を思い返す。


 爆発するとでも思ったかばーか!

 人生のオチが爆発だなんて、つまらないだろうよ!

 もういない君の分までド派手に死んでやるんだ、盛大なショーには演出が必要だろう?

 だから、君の代わりにを広げたのさ。


「てめーらなんて殺す価値もねーよ! 勝手にくたばれクソ共が!」


 そう大声で叫びながら、狂ったように高笑いを響かせる。


 パニックになった町に僕は、助走をつけて……


 空に、翔けた。

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