第20話:壊れていました
「こんな場で悪いが、これは喜捨兼迷惑料だ。とっておいてくれ」
署名をしてもらった後、ポンとアドニスは十万ダリアを渡してきた。
少々額としては大きい気もするが、ここはありがたく貰っておこう。
「ありがたく受け取らせていただきます」
「これで一件落着かな?」
「そうですね。ついでに最初の奉仕活動として、此方の金銭で大量の紙とペンを買って来て下さい」
アドニスから貰った、お金から一万だけを抜き取り、マイケルに渡す。
パソコンがあればエクセルにでも打ち込むのだが、流石にそんな物はないので、手書きをするしかない。
複製用の魔法的なものはあるので、複製まで手書きをしないで済むのはありがたい点だ。
ただ、数日間はうんうん悩みながら紙と向き合う日々になるだろう。
全て自作自演なのだから。
「分かりました! 買ってきます!」
「数時間はギルドに居ますので、よろしくお願いしますね」
退出する前に四人は頭を下げ、早足で去っていった。
「私は魔力の測定と説明を受けてこようと思いますが、どうしますか?」
「さっき言ってた通り、俺と一戦やるか?」
「良いだろう。負けた方はジュースを奢るって事で良いか?」
アドニスとライラは入り口で話していた通り、一戦やるみたいだな。
見て見たい気持ちもあるが、ここは我慢だ。
一応アドニスの方がライラより格上になると思うのだが、勝てるのだろうか?
「私は見学します」
「なら私はサレンちゃんに付いて行ってあげよう。一人にするのは危ないからね…………相手が」
シラキリは戦いを見たいとの事でライラ側に付き、ミリーさんが付き添いをしてくれる事になった。
ミリーさんが最後にこっそりと呟いたが、ちゃんと俺の耳には届いている。
悲しいかな。俺もその意見には同意である。
ミリーさんの呟きはアドニスにも聞こえていたらしく、サッと目を逸らした。
練習もかねて殴ってやろうか?
「そ、それじゃあ行こうか。シスターさん。今回の件はありがとな」
アドニスはそそくさと部屋を出ていき、ライラとシラキリも後に続いて行った。
「私達も行こっか」
「そうですね」
残された俺とミリーさんも部屋を出て、マチルダさんの所に向かう。
前にミリーさんが話していた通り、魔力測定だが検査だかをする人はほとんどいない。
ギルドの施設や講習は予約制なのだが、人気のない奴は直ぐに受ける事が出来る。
先程ライラ達が向かった訓練場は空いてさえいればいつでも使え、昨日の新人訓練などは引率の冒険者が居ないと待つ事となる。
因みに訓練場の使用は貢献度ランクが高いと割引されたり、場合によっては無料となる。
「魔力測定ですか? 空いてますが、本当にやるんですか?」
マチルダさんに魔力測定をしたいと言ったところ、この反応である。
魔法が使えて当たり前の世界なのだから仕方ないのだろうが、もう少し柔らかい反応をしてほしい。
「少し訳があり、魔法の使い方も、属性も分からないので、お願い出来ますでしょうか?」
「大丈夫なので、そんな睨まないで下さい。泣いてしまいますよ」
おっと、無意識の内にやらかしていたみたいだ。
自分としては悲しい表情をしたはずなのだが、この身体は色々と難しい。
心を無にして、余計な感情を消そう。
「すみません」
「いえ。それで魔力測定室ですが、空いていますので私が案内しますね。それと魔法についても軽く講義しましょう」
それはありがたい。
シラキリやライラからも聞いているが、その道のプロが教えてくれるのなら、それが一番いい。
「こほん。まず魔力とは何かですが、これは地脈と呼ばれているものや世界樹。死した高位の魔物などが発してきます。この外部に漂っている魔力をオドと呼んでいます。また、人や魔物が内部で作る魔力はイドと呼んでいます。イドとオドの違いについては本を読んだ方が早いので、今回は省きますね」
外部魔力と内部魔力か。
定番と言えば定番だが、どうせ属性がどうのこうのや、使いやすいとか難いとかなのだろう。
後で調べるとして、話の続きを聞こう。
「今は魔力は大まかに二種類あるとだけ覚えてください。続いて属性についてですが、自然属性と呼ばれる基本の四属性と先天属性の二種類と属性を付与しないいわゆる無属性があり、発展属性や固有属性と呼ばれたりするものが沢山あります。魔力測定で測れるのは基本の四属性と先天属性の二つになります」
一気に情報量が増えたが、日本人にはお馴染みなので、まだ余裕がある。
ただ、発展属性や固有属性などがどんなものかが気になるな。
沢山と言うだけあり、結構な種類があるのだろう。
ここら辺も後で調べるとしよう。
「種族や人にもよりますが、複数の属性が使える人も居れば、一種類しか使えない人も居ます。属性についてはこれ位が基本の話になります。此処までで質問はありますか?」
「大丈夫です」
種族特有の属性があると困るが、測定では表示されないので大丈夫だろう。
そう言えば、角はあっても尻尾は無かったな。
切れた様な跡もないし、人間と違うのは頭に生えていた角だけだ。
「そうですか。最後に魔法についてですが、強化。放出。儀式。精霊。奇跡。祈り。等に分かれています。一般的に関係があるのは強化と放出の二種類ですが、神官の場合は奇跡と祈りも身近なものだと思います。続いて、魔法は威力ごとに等級分けされていますが、国によって呼び方は様々です。しかし分ける基準については、ほとんど一緒だと思います。殺傷能力が無い魔法。殺傷能力が有る魔法。建物を壊せる魔法。地形を著しく変える事が出来る魔法。などですね。強化魔法や祈りについてはまた違った分け方となりますが、基本的とは言えないので本を読むか、講習を受けて下さい。基本的な事はこれ位になるかと思います」
要は初級魔法や上級魔法と言った感じだろう。
それにしても、よくこれだけの内容を空で話せるものだ。
ギルドの受付は伊達ではないな。
若しくは年の功かも知れないが。
「ふわー。国や貴族に仕えるならちゃんと覚えた方が良いんだろうけど、適当に生きる分には勉強しなくても問題ないよー」
「ミリーさんも一度はちゃんと勉強した方が身のためになりますよ? さて、それでは移動しましょう」
マチルダさんが話している間うとうとしていたミリーさんは、話が終わると共に欠伸をした。
座学は好き嫌いが分かれるからな。
俺としては最低限勉強しておきたいと思っている。
なるべく戦いの無い日々を暮らしたいが、こんな異世界ではいつ何があるか分からない。
魔法は誰でも使えるみたいだが、もしも使えない場合他の人に比べればかなり不利となる。
シラキリやライラが死にそうになっていたみたいに、俺もそうなるかもしれない。
対抗策を学ぶのは絶対に必要だろう。
そんな事を考えている内、魔力測定室と呼ばれるところに着いた。
場所は冒険者ギルドの二階の端っこだ。
「さて、此処を使うのも数十年……コホン。久々なので、少しお待ちください」
何やらマチルダさんがやばい事を言った気がするが、やはりエルフだから長寿なのだろう。
見た目は十代後半から二十代前半位に見えるが、実際は百歳とか二百歳なのかもしれない。
女性に年齢を聞くのはご法度なので聞かないが、俺の実年齢よりも上なのは確かだろう。
何十年とか言ってたし。
測定室の中はかなりこじんまりとしており、初心者ダンジョンの中でも見たコンソールが部屋の端にあるのと、中央にある台の上に水晶が置かれている。
床には魔法陣が描かれているが、意味は分からない。
「ちゃんと動きそうですね。えい」
マチルダさんがコンソールを弄っていると、床の魔法陣と水晶が淡く光り始めた。
日本人としては神秘的な光景で感動ものだが、何故かこの光景が当たり前だと捉えている自分が居る。
「サレンさん。中央の水晶に触れて下さい。そうすれば属性と魔力量が測定されます」
「分かりました」
言われた通りに水晶へ触れると、輝きが増していき、一層強く輝いた後に暗くなってしまった。
…………もしかして壊れた?
「あれ? おかしいな?」
「どうしたの?」
「測定が終わると紙が出るのですが、なにも出てこず、何故か動かなくなってしまいまして……」
「マチルダちゃん――まさか壊したの?」
コンソールを触りながら徐々にマチルダさんは焦り始め、涙目になりながら此方を振り向いた。
「元々壊れていたことにしていただけませんか?」
……ふむ。これは弱味を握るチャンスか?
「因みに測定の結果は?」
「見ての通り何の反応もしないので、結果は……分かりません。他の支部に行けば改めて測定出来ますが、魔力測定用の機器は……」
「機器は?」
「西と南は魔力測定があまりにも不人気なため止めまして、北は現在学園に貸し出しているため、直ぐには……」
どうやら色々と事情がこんがらがっているみたいだな。
測れないのなら仕方ないが、どうしたものか……。
「分かりました。因みに魔法を使えるかどうかは、講義を受ければ分かりますか?」
「はい。魔力を身体に流し込む事により、魔力の流れを理解出来るようになりますので、魔力さえあれば、大抵の方は使えるようになります。ただ少々危険も伴うので、念のためにポーションや高ランクの神官を用意する必要がありますね」
自分の使える属性が分からなくても、総当たりすれば何とかなるか。
少々の危険がどれ程かにもよるが、流石に死ぬほどではないだろう。
「ところでこの機器って幾らするの?」
「……約一千万ダリアです」
「ふーん。因みにマチルダちゃんが使用して壊れたってなった場合、どうなるの」
にやにやと笑うミリーさんと、視線を彷徨わせるマチルダさん。
多分ミリーさんも俺と同じ考えだろう。
「その……故意ではないと認められた場合は、その時の責任者に一割から三割の負担が発生……します」
一千万の一割か……割合で言えば小さいが、分母が大きいとその分負担が多くなるからな……。
百万は流石に大金なのだろう。
俺が触れたから壊れたような気がしなくもないが、俺も百万なんて払えないので、この流れに乗ってしまおう。
「出来れば最低限知ってから魔法を学びたかったのですが、仕方ないですね」
「今回の費用と講義の費用は無しにしますので、今回の件は何卒……何卒よろしくお願いします」
「ついでに貸し一つも追加しといてね」
話が纏まり、使おうとしたら壊れていたので、私達は何も知りませんって事になった。
講義については準備があるので、夕方位から始める事となり、少し時間が空く。
ライラ達の様子でも見に行くかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます