第19話:初めての(まともな)収入はゼロ
グローブを買ったのは良いが、常に装備していれば蒸れるのでどこにしまおうかと悩んでいたところ、前掛けの裏にポケットがあったので、そこへ入れることにした。
昼飯はミリーさんオススメのレストランで食べ、ギルドに向かう途中でシラキリに剣帯を買ったのは良いが、やはり防具も欲しくなる。
よれよれのシャツに、立派な小刀はかなり目立つ。
仕方なく俺の金で、初心者用の皮鎧と服一式を買ってやることにした。
割引出来るところで買ったのだが、フルセットで五千ダリア程で済んだ。
もしかしてドーガンさんが吹っ掛けたのではないだろうかと思ってしまったが、俺以外は特に気にしてなさそうなので、多分違うのだろう。
どうも慣れない環境にいるせいか、金に汚くなっている気がする。
これは反省だな。
そして数時間ぶりに冒険者ギルドへとやってきた。
「よう。ミリー昨日……なんだそりゃ?」
冒険者ギルドに入ろうとすると、中から丁度チャラ男が姿を現した。
しかし、俺達を見て首を傾げた。
その理由は主にライラの武器のせいだろうと予想はつくがな。
「これか? 珍しい武器だったので買ったのだ。なんなら一戦してみるか?」
武器を手に入れてから上機嫌なライラはチャラ男を挑発するが、チャラ男は両手を上げて、首を振った。
「残念だが今日は無しだ。いや、用事が終わった後なら良いが、流石に刃抜きされている奴じゃないと駄目だからな?」
「そうか……」
「それより、あんたが居るって事は昨日の件でしょ? 他の新人達は?」
若干しょぼくれたライラのことは一先ずおいといて、昨日助けた新人……俺達も新人だが、礼をしたいからと来たのだ。
「ああ。丁度良いタイミングだ。ギルドの部屋を借りてるから、そこで奴らは待ってるよ」
チャラ男の案内で会議室に入ると、昨日の四人組が座って待っていた。
「あっ。昨日は助けていただきありがとうございました!」
「いえ。善行を積むのは神に仕えるものとして当然ですから。とは言ったものの、無償とはいかないのが、世の常ですけどね」
個人的には無償にしたいけど、世の中で亀裂を生まないために、何か貰わないといけないんだよなー。仕方ないんだよなー……っといった感じの匂わせである。
「も、勿論です! どうぞお座り下さい。アドニス先輩も今日はありがとうございます」
四人とも緊張してガチガチだが、大丈夫か?
ミリーさんとアド……チャラ男は上座に座り、俺たち三人は対面に座る。
ゲームにでも出て来そうな四人パーティーだが、剣士。槍士。弓使い。魔法使いで、僧侶系が居ない。
「俺は
割と覚えやすい名前だな。
明日まで覚えられているか別にしてな。
「私はサレンディアナと申します。此方はライラとシラキリです」
ライラは頷き、シラキリは元気に返事をした。
「あの時の怪我の事をアドニス先輩に話したんですが……命に関わる位の怪我を治す場合の相場を、俺達の貯えで払う事は出来なくて……」
「必ず働いて返すので、少し待って下さい! お願いします!」
この世界での命の相場が幾らか分からないが、仮にこの四人が俺達と同じく金を貰っているとして、二十万ダリア持っている事になる。
それよりも相場高いのだと判断できるが、元の世界では保険無しの手術費は諸々込みで百万を超える。
相場が同じとは限らないが、命の価値としては多分それ位になるのではないだろうか?
とは考えてみたものの、払えない場合は如何すればいいのかを知らない。
とりあえずミリーさんとチャラ男の方を見る。
「あー。教会にもよるが、大体は身ぐるみを剥いで犯罪奴隷としてポイだな。後払いを許可するところはまず無いだろう」
「腕の切断やちょっとした毒程度ならともかく、あれは完全に致命傷だったからねー。相場で言えば百二十万ダリア位かな? 勿論最低値でだけど」
ふむふむ。ザックリ話が見えてきたな。
もしも俺の祈りが俺とこいつらの個人間なら、踏み倒すなんて方法があったかもしれないが、間にミリーさんやチャラ男。ギルドが入っているので責任問題となる。
後払いとは言うが、赤の他人の言葉など信用するのは不可能だ。
定石通り、奴隷に落とすのが無難なのだろうが……。
ミリーさんの表情が気になる。
嫌悪感……とまではいかないが、笑顔のわりに少し機嫌が悪そうに見える。
仕事柄、人の顔色を見るのは結構得意なので、大きく外れてはいないだろう。
どうして機嫌が悪いのか分からないが、選択を間違えるわけにはいかない。
そうなると……ふむ。奉仕活動させるのが無難か。
金が貰えないのは少し不服だが、先ずは二十人の信徒を集めなければならない。
使える人手があれば、いつか役に立つだろう。
「なるほど。でしたら、奉仕活動をする事で喜捨を免除しようと思いますが、どうでしょうか?」
「奉仕……活動ですか?」
「ええ。先日宗教の仮登録をしたのですが、布教するには人手が足りていないのです。布教以外にもやらなければいけない事は沢山あるので、どうでしょうか?」
「我としては金の方が良いと思うが、シスターサレンに従おう」
俺だって現金をそのまま欲しいが、人の繋がりってのは馬鹿に出来ない。
それに、後々切り捨てる事が出来る駒を作っておくのもありだろう。
「是非お願いします!」
「それで奴隷へ落とされずに済むなら、お願いします!」
四人全員が奉仕活動について承諾し、チラリとミリーさんを見ると不機嫌な雰囲気は無くなっていた。
どうやら、宗教に関してミリーさんは何か思う事がるのだろう。
「それではこれに署名をお願いします。書かなくても良いですが、もしも命の関わる様な怪我をした場合、信徒なら安くなりますよ。あっ、他に信仰している神様が居るのでしたら、強要はしません」
しっかりと信仰しましょうとひな鳥の巣では言ったが、あれはあれ、これはこれだ。
四人は互いに顔を見て頷きあった後、紙に署名してくれた。
これで合計九人となった。
内六人は純粋な信徒ではなく駒となる。
盾は多ければ多いほど安心できるものだ。
「一応丸く収まったが……俺も信徒になって良いか?」
内心ニコニコ顔で紙をしまおうとすると、チャラ男が待ったをかけた。
チャラ男ってだけで嫌だが、今は人数が必要なので悪くない提案ではある。
「構いませんが、神や教えなどの説明は聞かなくて良いのですか?」
四人については半ば強制だが、正式に信徒となるならば誠意を見せるのが当たり前だろう。
「……それもそうだな。掻い摘んで教えてくれ」
「分かりました」
話す内容はひな鳥の巣で話したものとほとんど一緒だが、更に加護や細かいことを追加したものを話す。
祈りは基本的に食事の時と生き物を殺した時だけや、喜捨は神の気紛れなので何でも大丈夫な事や、確認できている加護は治療のみなこと。
正式な教会や集会場はまだないので、信徒を集める傍ら金を稼いでいること。
最後に記憶が無いことを軽く話した。
「なるほど。他に比べると縛りはかなり緩いみたいだな。それに、信仰の対象も俺好みだ」
「念のため言っておきますが、不純な意思を持っての入信でしたら、先日のハイタウロスのようにゴツンとしますよ?」
「なっ! んなわけねぇだろうが! ギルドのランクを上げてると、収入目当てで寄ってくる宗教家が多くて辟易していただけだよ。それに、俺が好きなのはミリーだけだ!」
……あっ、そうですか。
チャラ男は見た目がチャラいだけで、中身は純情なのか。
これからはちゃんと名前で呼んでやるか。
「私は興味ないんで、パス」
自分の発言にアドニスは少し赤い顔をするなか、ミリーさんが辛辣な言葉を投げ掛ける。
あんなフラれ方をしたら泣く自信があるな。
「…………一旦おいといて、俺も書くから紙を渡してくれ」
少しの静寂の後、何もなかったかの様にアドニスが流したので、紙を渡して署名してもらった。
これで二十人まで後半分だ。
まあ、祈りによる初収入はゼロとなったがな。
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