第18話:その武器はアカン
「戻ったぞ」
店内で遊んで……シラキリの武器を探していると、ようやくドーガンさんとライラが戻ってきた。
だが、ライラの格好はかなり変わっていた。
背中に長身の鞘に納まった剣が二本と、腰に新たな剣が追加されている。
「あれ、なんか凄い事になっているけど、どうしたの?」
「試作の剣と言うことで、格安で譲ってもらった。少々特殊だが、悪くない」
ライラは珍しくにこやかに笑い、ミリーさんに反応した。
「別に譲った訳じゃないが、そいつの完成にはどうしても担い手が必要だからな。預けただけだ。それで、そっちの兎の嬢ちゃんはどんなのが良い?」
ドーガンさんはやれやれといった感じで首を振り、シラキリに武器の事を聞く。
「あー、その件だけど、私のを作った時に合わないからって保留にしてたやつがあるでしょ?」
「確かに倉庫にしまってあるが、あれは玄人向けだぞ? 兎の嬢ちゃんはどうみても素人だろう?」
「良いから良いから」
店内でシラキリの武器を探していたが、結局シラキリが納得いく武器は見つからなかった。
そんな時にミリーさんが「あっ」と声を出した。
どうやら、ミリーさんが今使っている武器を作る際に、造られた試作品が此処にあるので、それならどうだろうと提案した。
ドーガンさんはしぶしぶといった感じで店の奥へとまた戻り、鞘に収まった二本の剣を持ってきた。
正確に言えば、二本の小刀だ……大きさ的には脇差位だろうか?
鍔が付いていないため、下手に素人が抜けば、怪我の恐れがあるのだが、本物をお目にかかれるとはな……。
「こいつは普通の剣とは違い、複数の金属を丹念に叩いて作り上げた逸品だ。それに伴って値段も相当高いんだが、どうするんだ?」
「出世払いじゃ駄目?」
「……とりあえず兎の嬢ちゃん。こいつを持ってみてくれ」
ドーガンさんはミリーさんの上目遣いを完全に無視して、二本の小刀の内一本をシラキリに渡した。
「ちょいと抜き方にコツがあってな。こうやって親指で押す感じで刀身を抜くんだ」
「はい!」
シラキリはドーガンさんのやり方を真似て小刀を抜き、刀身を眺める。
綺麗な波模様が光に反射し、独特な雰囲気を醸し出す。
俺には使えないだろうが、芸術品として飾りたい。
「こいつは斬る事に特化してるんだが、それもあって刃が脆く手入れも大変だが、使いこなせれば鉄の鎧を斬る事も出来るだろう。俺が振るのを真似てみな」
「……はい」
縦に振り、横に振り。数度繰り返すだけで素人臭さが抜けていき、様になっていく。
戦いのセンスがあると言っていたが、これはもしやヤバい事になるのではないだろうか?
「これ! これが良いです!」
シラキリのテンションは小刀を振るう度に上がっていき、耳が天を貫き子供特有のキラキラとした顔になる。
そんな顔で見つめられたドーガンさんは小刀を納刀しながら渋い表情をする。
「悪くないが、こいつは二本で百万はする代物だ。それもミリーが払った材料費を抜いてな。兎の嬢ちゃんは払えるのかい?」
耳が徐々に萎れていき、それに伴ってテンションがドンドン下がっていく。
見ている分には面白い。
だが、百万か……その金があればあの教会を買い取れるのだが、この二本の武器とあの教会が同じ値段と考えると、末恐ろしいものがある。
「おやっさん。ちょいと耳貸して」
「あっ? またか」
再びミリーさんとドーガンさんが内緒話を始めたので、少し手持ち無沙汰になる。
「その小刀を少し見せてもらっても良いですか?」
「はい」
しょぼくれているシラキリから小刀を受け取り、力に注意しながら刀身を抜く。
直刀ではなく、僅かに反りもあるので居合も出来そうだ。
魔法が当たり前にある世界なのだし、斬撃とかも飛ばせるのだろうか?
居合斬りを試してみたいが、悪い予感がするので止めておこう。
「ありがとうございます。そう言えばライラの買った剣はどの様な剣なのですか?」
シラキリに小刀を返し、ライラの三つの剣の事を聞く。
何がどうして三本も剣を買うことになったのかが分からない。
「銘は七曜剣グローリア。試作の複合魔導剣だ。説明するよりも、見た方が早いだろう」
ライラは腰から剣を引き抜くと、二本に分離させた後、合体させた。
……うん?
更に背中の二本も引き抜き、三本とも合体させると、身の丈程ある大剣に姿を変えた。
見た目は例の奴とは違うが、やっていることは同じだ。
シラキリの小刀も好かれるが、男としてはライラのグローリアの方が好かれる。
「複数の長さや種類に分離と合体ができ、全ての属性の補助もしてくれる。試作なだけあり及第点のところもあるが、我としては申し分ない出来だ」
再び三本に分離させ、全て鞘へと納めた。
男のロマンはおいとくとして、この剣が四万で買えるとは思えないんだよな……。
先程話してきたように、完成に協力するみたいだが、それでも見ず知らずの人に預けるなんて事は出来ないだろう。
ミリーさんのネームバリューか、やはりライラには何かあるのか……。
実際の値段は幾らするんだか……。
「しかたねえな。それで手を打とう」
「どうも。シラキリちゃーん。四万で譲ってくれるってさ」
「本当ですか!」
何がどうして百万が四万になったんだよ!
安くなる分にはありがたいが、流石におかしくないか?
不安に駆られるが、いざとなれば売って金になることを思えば悪くないか。
残りの金額が借金にならないのならばな。
「ああ本当だ。その代わり、なるべく早く冒険者ランクをD級まで上げ、俺の採取依頼を受けるのが条件だ」
わりと真面な交換条件に思えるが、それでも九十六万引きはおかしい。
それにD級とは言うが、そう簡単に上げられるものなのだろうか?
「仮にですが、もしもシラキリがD級まで上がれなかったり、武器を壊してしまった場合はどうなりますか?」
「小娘に立て替えさせるから安心しな。元々こいつが使いたいって言うから作ったんだが、色々といちゃもんを付けられた結果、倉庫に眠ることになった武器だからな。それにグラデの嬢ちゃんと一緒なら、簡単にランクも上がるだろう」
ハイタウロスとの戦いを見た限り、ライラは相当強いみたいだからな……。
そう考えれば悪くない投資なのかもしれない。
だが、それでも百万か…………現ナマで欲しい。
「そう言えばそっちのおっかないシスターさんはいいのか? 一応メイスやスタッフ位ならあるが?」
自衛できる程度の武器は欲しいのだが、メイスやスタッフではそのまま人を撲殺してしまう恐れがあるんだよな……。
魔法が使えればと、何度も思ってしまう。
「お恥ずかしい話なのですが、私は魔法が使えないみたいでして……」
「ふむ。それなら軽い奴の方が良いか? 柄が短くて頭が小さいのもあるが?」
「いえ、そうではなくて……」
話すより、証拠を見せた方が早いか。
店内で一番重いと思われる大剣を壁から取り外し、片手で水平にして持つ。
ハンマーの件で俺の怪力を知っている三人は目を逸らすだけだが、ドーガンさんは口をあんぐりと開けて驚いている。
「魔物ならともかく、下手に自衛のために武器で殴ると殺してしまいそうでして……」
「お……おう。なるほどな……。確認だが、身体強化とかしてないんだよな?」
「はい。使い方すら分からないので、素でこれです」
そう言えばお金も手に入ったし、ギルドで適正を見てもらってみるか。
「魔法が使えないってのは、魔力がないとかじゃなく、ただ使い方が分からないのか?」
「自分では分からないですね。実は記憶が一部抜けていまして、色々と忘れてしまっているんです」
「なるほどな……」
因みに俺が大剣を持った際に、シラキリとライラは微妙に距離を取っていた。
危ないから仕方ないのは分かるが、少し傷ついた。
「魔法についてはこの後ギルドで確認しようと思いますが、柔らかいグローブとかありますか?」
「あるにはあるが、グローブってのは手の方を保護するための物であって、手加減をするための物じゃないんだがな……取ってくるから待ってな」
ドーガンさんはまた店の奥へと引っ込んで行ってしまった。
「そう言えば魔法が使えないなんて話をしていたね。私もいつの間にか魔法が使えていた口だから、人に教えるとか分からないんだよねー。学校にも通ってないし」
「我も我流だな。一応本を読んだが、その程度だ」
「お爺ちゃんに教えてもらいました!」
……シラキリだけがまともだが、ギルドでちゃんと教えてもらった方が、信頼性が高いだろう。
何事も基本が大事だからな。
「待たせたな。こいつはどうだ?」
ドーガンさんが持っていたのは、妙にもふもふで、指の部分が抜かれているグローブだった。
手にはめてみると、やはりもふもふとしており、殴っても衝撃を逃がしてくれそうだ。
強いて言えば、シスターがするような武器では絶対に無いことだろう。
武器:モフモフグローブ。
防具:神官服。
あまりにもミスマッチだ。
「大丈夫そうですね。流石に試すことは出来そうにないですが……」
「裏庭に試し斬り用の木人があるから殴ってみるか?」
試し斬りならぬ、試し殴りか。
どれ位までなら力を込めて良いのか試しておくのは必要か。
「お願いします」
「任せとけ。付いてきな」
全員でぞろぞろと店の奥へと抜けて庭に出ると、僅かに焦げたような臭いが漂ってきた。
他の店から流れてきているのだろうか?
裏庭の広さはそこそこあり、人が軽く戦う事も出来そうだ。
「よっこいせと。とりあえず殴ってみてくれ」
「はい」
ドーガンさんが地面へと人の形を模した木を立てたので、グローブをはめて前に立つ。
先ずはジャブ位で良いだろう。
「えい」
脇を絞めて、軽く拳を突き出す。
「…………あんたシスターじゃなくて異端審問官や、モンクじゃないのか?」
「見ての通り、ただのシスターです」
ただのシスターは異世界転生しないし、頭に角の跡があったりしないが、言わなければノーカンである。
殴った木人は拳の跡が付くとか、半分に折れるとかではなく、殴った所を起点に大きな音を立てて弾け飛んだ。
仮に防具などを装備していない人間を殴れば、同じく弾け飛んでしまうのだろう。
後ろに振り替えると、ドン引きしているミリーさんが目に入った。
逆の立場なら俺もそうなるだろうが、実際にあんな顔をされると少し寂しくなる。
「ちょいとグローブを渡してくれ、緩衝材を中に仕込んでみよう」
「お願いします」
ドーガンさんに再調整してもらったグローブをもう一度はめて、先程よりも弱く殴る。
今度は木端微塵になるなんて事にはならず、少し陥没する程度だった。
なるほど。これ位なら問題ないのか。
「ハイタウロスと戦った時も思ったが、シスターサレンは本当に人なのか?」
多分この身体は純粋な人ではないのだろうが、この事は隠しておいた方が良いだろう。
「そのはずですね。翼や長耳も生えていませんので」
「先祖に巨人族や鬼族が居て、隔世遺伝として力が強いのなら可能性としてはあるけど、どうなんだろうね?」
「話してるところ悪いが、グローブを買うなら二千ダリアだが、どうする」
物凄く安いが、ただのグローブだからそんなものか。
シラキリの百万や、多分それ以上高いと思われるライラの武器と比べること自体がおこがましい。
「買わせていただきます」
「毎度。もっと緩衝材を増やしたいとか、ギミックを追加したいとかあったらまた来てくれ」
「今日はどうもね。あっ、それと私の武器の予備を作って、例の所に送っといてね」
「分かっている。終わったならさっさと帰れ! ……ああそうだ、兎の嬢ちゃんにはちゃんと剣帯を買ってやれよ。此処のじゃあ合うやつが無いからな」
最後にドーガンさんへ礼を言ってから外に出る。
結構良い時間になったし、ギルドへ戻る前に昼飯だな。
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