第21話:模擬戦?
サレンと別れた三人は冒険者ギルドの一角にある訓練用の広場を借りて、準備運動をしていた。
広場はかなり広く、ライラ達以外にも訓練をしたり、対戦をしている者が居る。
そんな中でもライラは異彩を放っており、ライラが歩く姿を誰もが見ていた。
「やっぱり注目を集めるかー。お前ら武器は何を使うんだ?」
「今回は片手剣にしておこう」
「短剣を二本使います」
アドニスは「分かった」と頷くと、武器を取ってくるから待っているように言ってから、刃抜きされた武器の貸し出しをしている所に向かった。
「おいアドニス。あの異様な装備をしている嬢ちゃんはなんだ」
アドニスが武器を借りていると、知り合いの男が話し掛けてきた。
そして他にも聞き耳を立てる人がちょこちょこと寄ってくる。
「知り合いが面倒を見ている新人だよ。ちょっかいかけんじゃねーぞ」
「しかしな……背は低いがあれ程の別嬪で、どう見ても高そうな武器だろ? 気にならない方がおかしくないか?」
周りもそうだそうだと、賛同するように頷く。
「確かに髪の色も相まって神秘的だが、あいつは……」
ハイタウロスと戦える程の腕と言おうとして、アドニスは口を一度閉じた。
ハイタウロスの件については、口外してはいけないことを思い出したのだ。
「あいつは、多分俺より強いぞ?」
直ぐに思考を切り替えて、似たようなことを口に出した。
ハイタウロスと戦っている時に感じた、アドニスの本音だ。
あの時、アドニスはギリギリだったが、ライラは苦もなく戦っていた。
しかもギルドが貸し出している、決して良いとは言えない武器でだ。
しかも何度か使った魔法も威力が高く、発動もかなり早かった。
剣の腕だけなら負けないかも知れないが、魔法もありなら勝てないと思っている。
「お前がか? 流石にそれは買い被りすぎだろう? 見た限りまだ十代前半だろうに」
「見てりゃあ分かるよ。それじゃあな」
アドニスは用意してもらった武器を持ち、ライラ達のところに戻る。
だが、そこでアドニスは違和感を感じた。
ライラとシラキリは新しく手に入れた武器で素振りや動きの確認作業をしているのだが、ライラは元々持っていた剣は鞘に納まったままだが、他の鞘は空になっている。
なのに、持っている武器は一つなのだ。
しかも様々な刀剣を、無理矢理一つに纏めて固めた様な見た目となっている。
煌びやかと言うよりは少し禍々しく、少女が持つにしては大分大きな剣だ。
どこから取り出した……なんて考えるまでもない。
(ありゃあ数百万位するだろうな……)
そこまで目利きが出来るわけではないが、ライラが持っている剣が普通ではない事くらい、アドニスにも分かる。
触らぬ神に祟りなし。アドニスは見なかった事にしようと決めた。
「借りてきたぞー。それと、真剣は危ないからさっさとしまえ」
「分かりました」
「うむ」
シラキリは普通に武器を鞘に納め、ライラは武器を分離させてから鞘に納めた。
その様子を見ていた男たちは、めっちゃかっこいいーと子供心をワクワクとさせていた。
それはアドニスも例外ではない。
先輩風を吹かせている手前、そんな様子をおくびにも出さないが、実際に使ってみたいと思うほどだ。
アドニスは持ってきた、刃抜きされた武器を渡す。
「先ずは俺とライラでやるか。身体強化の魔法は使えるのか?」
「無論だ」
「ならそれだけはありにしておこう。一本先取で……おーい。誰か審判を頼む」
一瞬シラキリに頼もうともアドニスは思ったが、流石にずぶの素人に頼むのは躊躇われ、適当に募集する。
すると、先程アドニスに声をかけた男が返事をしながら寄ってきた。
「お前か……まあいいか」
「まあいいかとは酷い言い草だな。よう嬢ちゃん達。俺はマルコムってもんだ。宜しくな」
茶色の髪を短く切り揃え、槍を背負った姿は圧巻だ。
身長も百九十を超え、ライラとシラキリでは見上げなければ顔が見ない。
つ頭部には丸い形をした耳が付いており、所詮熊の獣人と呼ばれる種族だ。
「うむ。我はライラだ。――それではやろうか」
マルコムの挨拶を受け流し、ライラは剣を抜いてアドニスに向ける。
ライラはこれまでほとんど魔物としか戦ってこず。人間を相手にしたことはほとんどない。
暗殺者と戦った時に、最後の最後で隙を見せてしまったのも経験が浅かった故の失態だった。
折角冒険者ギルドに登録したのだし、これまで経験を積んでこなかったことをしたいと意気込んでいる。
或いは将来に向けての布石とも言えるが、それを知るものは誰もいない。
アドニスはチャラ男らしい笑みを浮かべると、ライラから距離を取ってから剣を構える。
「それでは……始め!」
先に動いたのはライラだった。
身長差を利用してアドニスの足を斬りつけようとするするも、アドニスは一歩引いて躱す。
これが初見の技ならアドニスも反応がギリギリとなり、浅く斬られていたかもしれないが、同じ手をミリーに散々やられてきたので、慣れているのだ。
アドニスは蹴りのフェイントをしてライラがガードしようとした所に、剣を振り下ろす。
僅かに火花が散るが、ライラは押し負けることなくアドニスの剣を受けた。
(ハイタウロスの攻撃を盾で受けていたし、この程度普通に受けられるか)
身体強化が出来れば、体格による不利は無くなる。
その代わり体格の差に見合った魔力量を消費するのだが、ハイタウロスと問題なく戦えていたライラの魔力量が、普通のはずがない。
ライラは剣で弾くようにして距離を取ろうとするが、今度はアドニスが攻めた。
先輩である身としては受けに回り、指導を交えた戦いをするのが基本だろう。
機動力を削ぐために迷うことなく足を斬りつけ、身体強化により同程度か、それ以上の力を持っている相手に受けへ回れば、容易く押し切られてしまう。
少女に剣を構えて襲い掛かる絵面は事案だが、戦いだから仕方ない。
剣による、なんて事はない振り下ろし。
ただし風を斬る音が、周りにも聞こえるほど大きい。
大人げない攻撃だとマルコムは思いながら、背中の槍に手を掛ける。
当たれば勿論、ライラのような少女では防御しても腕位簡単に折れてしまう。
そう思い、いつでも割り込めるように戦いの行方を見守る。
アドニスの剣がライラに当たる瞬間、広場には鈍い音が響き渡たり、二人の剣が地面へと落ちる。
「マジかよ……」
戦いの結果に、思わずマルコムは言葉か漏れた。
「有効打……で良かろう?」
「お……まあ……そうだ……な」
ライラはアドニスが剣を振り下ろすと同時に剣を手放し、懐へと潜り込んだ。
そして鳩尾に拳を繰り出したのだ。
あまりの痛みにアドニスは一瞬意識が飛び掛かるが、気合いで意識を保つ。
その代わりと言うわけではないが、剣を落としてしまった。
「ライラの勝ちだな。大丈夫か?」
「……おう。骨も折れてないし、内臓も無事だ」
ライラがアドニスの懐に飛び込む瞬間、マルコムは反応が出来なかった。
アドニスからしたら、ライラが急に目の前から消えたように思えただろう。
それほど素早く、容赦も躊躇もない攻撃だった。
(嘘じゃないみたいだな)
先程アドニスが言っていた事が本当なのだろうと、マルコムは確信した。
「やはり対人は難しいな。もう一度頼む」
いまだに蹲っているアドニスとは違い、ライラは既に剣を拾っていた。
流石にそれは無いだろうとアドニスは思うが、痛みを我慢しながら立ち上がった。
「容赦ねえ嬢ちゃんだ。次は剣だけで頼むぞ」
「承知した」
ライラは若干不服といった感じながらも返事をし、二戦目が始まった。
今度はまともな打ち合いとなるが、冒険者ギルドに登録したばかりの少女が出来るような戦いではなかった。
僅かながらも拙さが残るが、C級のアドニスを相手に一歩も引かず戦えていた。
アドニスはこの東冒険者ギルドの中では丁度中堅となる。
年齢は十八歳であり、同世代として考えれば強い方だろう。
見た目は少々チャラいが、貢献度ランクも今回の件でC級となり、素行も悪くない。
武器はロングソードを使い、冒険者ギルドの講習で幾つか流派を学び、自分なりの戦い方を身に着けている。
魔法は基本的に土と風を使うので見た目は地味だが、堅実な戦い様は玄人やベテランから見ると好感が持てるものだ。
今回は身体強化以外の魔法を禁止しているとはいえ、端から見ればライラはアドニスと互角に戦えているように見える。
だが、実際はアドニスの方が有利に戦いを進めていた。
(上手い……)
アドニスは上手くライラの剣を受け流し、剣が衝突した時の衝撃を使わせないように立ち回っている。
そのせいでライラは体力の消耗を強いられ、少しずつ押しきられ始めていた。
いくら身体強化をしても、体力には限界がある。
アドニスは戦っている内に体力差の事に気付き、逃げの攻めを始めたのだ。
結果的に、二戦目はアドニスがライラの剣を弾き飛ばしての辛勝となった。
「はぁ……はぁ。上手く嵌められてしまったようだな」
ライラは倒れ込み、空を仰いだ。
剣だけの腕はやはりまだまだだなと反省し、体力をもっと付けなければと思いながら汗を拭う。
「悪く思うなよ、まともに戦えばやられていたのは俺の方だからな」
倒れているライラと違い、アドニスの方は少し汗を流している程度で息は乱れていない。
それなりの修羅場を潜り、日頃から体力作りをしているおかげだ。
「気になどはしない。だが、やはり技が必要か……」
「あー。もしかして、全く流派とか学んでいないのか?」
「訳あって……な。それに剣は魔法の補助として割り切っていたのだ」
師と呼べるような存在は誰もおらず、魔物相手に必要なのは技よりも力だったため、ライラの剣は我流だ。
正確には我流どころか全くの素人なのだが、それでもアドニスや暗殺者と戦えたのは持ち前のセンスがずば抜けているからだろう。
「ならギルドの講習に流派を学べるのがあるから、受けてみると良いだろう。本格的に学ばないにしても、基礎は何にでも応用が利くからな」
「そうだな……」
これから先、魔物だけではなく人を相手にしなければならない。
少し遠回りかもしれないが、学んでおいて損はないだろう。
何もかも魔法で焼き尽くせる程、ライラは強くないのだから。
「次は私ですね!」
ぴょーんとシラキリはアドニスの前に飛び出るが、アドニスとしてはもう少し休みたかった。
二戦目はともかく、一戦目で腹を殴られたのが今になって響いてきたのだ。
「マルコム。頼んだ」
「仕方ないな……」
マルコムはアドニスから剣を受取り、シラキリに向ける。
マルコムはアドニスと同じくC級だが、もう直ぐB級に上がれるほどの腕前だ。
シラキリの相手をするには問題ない。
「どこからでも掛かってきな」
「はい!」
元気な返事をし、短剣を鞘から抜く。
ぐっと脚に力を込めると、まるで砲弾のように飛び出した。
直ぐに金属同士がぶつかる硬質な音が響く。
「……最近の新人は怖いな」
自らの首を守るために添えられたマルコムの剣と、その剣に止められたシラキリの短剣。
ダンジョンの時と同じく、シラキリは首を狙って攻撃していた。
冷汗が流れるのをマルコムは感じ、シラキリを弾き飛ばす。
「身長差がある相手はさっきの戦いみたいに足を狙え。首を狙うのはここぞという時の方が良い」
「わかりました!」
シラキリは元気に返事をし、再び飛び込んでいく。
勿論来ると分かっている攻撃を受けるほど、マルコムも馬鹿ではない。
「ふみゃ!」
足を上げて避け、そのままシラキリの背中を踏んづけた。
「速いのは良いが、見え見えだ。それと、一撃じゃなくて次に繋がるようにしろ」
「はい!」
ライラの時とは違い、教えるような戦いは見ていて和むものだ。
ただ、この様子に違和感を持つ者もいる。
ライラよりも更に幼い少女。
その少女が、躊躇いもなく首を狙った事に。
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