第13話:初めてのダンジョン

「えー。此方が初心者ダンジョンとなりますが、自然発生型や古代文明系統と違い、悪辣な罠は無い仕様となっています。ですが、罠は見付けるなり解除するなりしっかりとやりましょう。また、魔物は三種類の弱い奴らだけなので、頑張ってねー」


 ミリーさんがダンジョンに入るなり、一冊のパンフレットを読み上げた内容である。


 そう言えばギルドへの馬車の中でダンジョンがどうのこうのと言っていた人が居たような……。


 そんな事はさておき、ダンジョン内は大きな洞窟となっており、壁掛けの松明で明るい。


 通常は光源となる物を持ち込むか、魔法でどうにかしなければならないが、新人向けなのでそれくらいは免除しても良いだろうとの事だ。


「ダンジョンか……。やはり外とは違い、戦闘には注意が必要か……」

「ふーんふーん」


 ライラは緊張感を持っているが、シラキリは完全にピクニック気分だ。

 だが耳の動きが少し忙しないので、多分警戒自体はしているのだろう。

 

「それでは第一章。魔物との戦闘を始めましょう!」


 ミリーさんを先頭に歩き、拓けた場所に出ると突然そんな事を言い放った。


 そして壁端にあるコンソールパネルを弄ると、広場の真ん中にゴブリンと思われる魔物が五匹現れた。


「先ずは経験者っぽいライラちゃんからどうぞ。相手はゴブリンの中でも最弱種だけど、五匹を相手に勝てるかな?」

「無論、蹴散らして見せよう」


 ライラはミリーの挑発に乗るようにして、借りてきたランスと盾を構える。


 そしてゴブリン達に突撃し、一体を串刺しにした。


 盾でゴブリンパンチを受け、隙を突いてランスで刺す。

 最初の一撃以外堅実な戦いでゴブリンはあっという間に倒されてしまった。

 ライラは汗一つ流さず、戦いを終えた。


「悪くはないが、やはり剣の方が性に合っているか……」

「……おほん。魔法も無しで圧勝とは凄いねー。次はシラキリちゃん行ってみよう」


 ミリーさんが一瞬微妙な表情をした気がするが、気のせいだろうか?


 ライラが俺の所まで戻ってくると、今度は三匹のゴブリンが現れた。

 

「一応殺傷能力はないけど、危なそうなら助けるから頑張ってねー」

「はい!」


 シラキリは元気に返事をしてから二本の剣を引き抜いた。


 一応生き物を殺す訳だが、全く気負っている様には見えない。

 こんな少女でも、この世界では戦う事に忌避感はないのだろう。


 ぴょーんと効果音が付きそうな踏み込みでシラキリはゴブリンに接近し、ゴブリンの首を斬り飛ばす。


 その動きに迷いはなく、ゴブリンの攻撃も臆することなく避けている。


「やりましたー!」 

 

 瞬く間に三匹のゴブリンの首を飛ばし、シラキリは嬉しそうにしながら戻ってきた。


 …………いや、流石におかしくないか?


「獣人なだけあって、戦闘センスがあるわね。心得とかは教えなくてもよさそうね。初めての戦いって事で日和る子も多いんだけど、楽で良いわ。それじゃあ最後行ってみよう!」


 最後は俺となるわけだが、現れたゴブリンの数は六体。

 初心者には少し厳しくないですかね?


「あのー。数が多くないでしょうか?」

「大丈夫大丈夫。そんなハンマー持ってるんだから余裕っしょ」

 

 余裕なんてこれぽっちもないんですが?


 緑色の肌をした魔物――ゴブリン。


 若干だが人に似ているので、どうしても躊躇ってしまう。


 だが、この世界で生きていく上で、戦闘は避けられない。


 ハンマーを片手で持ち、ゴブリンの近くまで歩いていく。

 

 ぎゃーぎゃーと喚き、俺に攻撃しようと近づいてくる。


 だから…………。


「――まあ、そうなるよねー」


 ハンマーを二度スイングしただけで、ゴブリンは全部死んでしまった。 

 

 何か覚悟とかする前にあっさりと倒せてしまった。

 しかも手応えらしきものは何もなかった。


「一応補足だけど、ダンジョンの魔物は実体のパターンと魔力で作られたパターンがあるから注意してね。実体の方は素材が取れるけど、時間を掛ければ血の匂いに釣られて魔物が来るわ。魔力の方は魔石だけだけど、剥ぎ取りの必要がないから楽よ」


 なるほど。だからライラやシラキリが倒したゴブリンは死体が残らなかったのか。

 生々しいのは流石に勘弁して欲しい。


 しかし、ライラが戦えるのは当たり前として、シラキリがあれ程まで動けるとは思わなかった。


「シラキリは武術か何か習っていたのですか?」

「いえ、今日始めて魔物と戦いましたけど、昔世話をしてくれたお爺ちゃんが、魔物と戦う時は首を狙えって教えてくれました」


 何とも物騒なお爺ちゃんだが、躊躇うこと無く実行できるシラキリもシラキリである。


「初めてでそれだけ戦えるのなら、才能があるのだろうな。これから稽古をつけてやろう」

「ありがとうございます!」

「うむ。仲間が強くなるのは喜ばしい事だからな。しかし、シスターサレンのあれは……」


 近寄って二回振るって終了だからな。


 ゴブリンからしたら餌に釣られてのこのこと近づいたら、トラックに轢かれた様なものだ。

 しかも法定速度無視の暴走車だ。

 

「いやー。三人とも初戦は問題なかったね。戦う事が問題ないなら、後は自分なりの戦い方を見つけるのと、絶対に無理をしない事だね。それじゃあ次に行ってみよう」

「分かりました」


 広場を抜け、再びダンジョンの通路を歩く。

 若干三人が俺から距離を取っているが気のせいだろうか?


 しかし、最初の広場に向かう通路と違い、今歩いている通路はかなり足場が悪い。

 石がかなり転がっており、平らな所がほとんど無い。


 踏ん張ったりするのは大変そうだ。


「一旦ストーップ」


 歩いているといきなりミリーさんが制止の声を掛けてきた。


 「第二章はダンジョンの罠となります。今目に見える範囲のどこかに罠があるけど、分かるかな?」

「罠ですか?」


 足元は石や砂利が転がり、壁は凸凹としている。


 定番の罠と言えば押し込むと矢が飛んできたり、踏むと落とし穴が開いたりする罠だろうが、全く分からない。


「あっ! はい! はい!」

「おっ、シラキリちゃんは分かったかな?」

「あそこの斜めになっている石です」


 シラキリが指差した先には、少し形がおかしい石があった。

 言われれば気付くが、言われないと分からない自信がある。


「正解。良く分かったね。因みにライラちゃんとサレンちゃんは分かった?」

「全く分かりませんでした」

「そちらは分からなかったが、お主が隠している方は分かったぞ」

「あっ、バレちゃった? 一度体験してもらおうと思ってね。これを押すと……」


 ミリーさんが足下にある、石の形をしたスイッチを押すと、妙な感覚が襲ってきた。

 感覚に従い上を見ると、何かが落ちて来ているのを感じたので横に避ける。


 俺が居た場所には青い色の粘液がべちゃっと音を立てて広がってきた。

 

 ライラとシラキリは粘液の直撃を受け、頭から青い粘液が滴っている。


「ありゃ? サレンちゃんよく避けれたね」

「偶然ではありますけどね」

「ふむふむ。さて、トラップは今みたいに物理的な物もあれば、魔力に反応する魔法型のものもあるよ。難しいダンジョン程殺傷性が高くなるから、パーティーに一人はレンジャー系か盗賊系のクラスを用意して――ごふぉ!」


 ミリーさんが話している途中に、ライラがミリーさんの腹を殴った。

 気持ちは分かるので、静観しておく。


 ついでにシラキリは粘液を伸ばしたりして遊んでいる。


「痛たたた。もー、乙女のお腹を殴るなんて酷いなー」

「首を落とさなかっただけマシだと思え」

「これも新人への講義なんだから仕方ないでしょー。避けられたサレンちゃんは良いとして、ダンジョンではほんの少しの気の緩みが大きな事故に繋がるから、攻略の際は注意してね。それと、休める時は休む事も大事だからね」


 言ってる事は尤もだが、もう少しマシな罠はなかったのだろうか?

 女の子に粘々がくっ付いているのは少々卑猥な感じがする。


「そうそう。そのスライムは核を取り出せば消えるから、安心してね」

「これだな」


 ライラが丸い石をスライムから抜き出すと粘液が消えてしまった。

 シラキリも同じく取り出したので、元通りである。


「これで第二章は終わりだね。次は第三章のポーションについてだよ」


 ミリーさんは腰の後ろから液体の入った三本の試験管を取り出した。


 色は左から赤と青と緑の三種類だ。 


「赤色が怪我の回復。青が魔力の回復。緑がちょっとした状態異常の回復だよ。これは全部下級だから効果は微々たる物だけど、高い奴は高いだけあって効果が高いね。それと、一度に使える量は個人差があるから注意しといてね。まあ、神官であるサレンちゃんが居れば魔力回復以外のポーションを使う事はないかな? ついでに、複合ポーションなんかも開発しているみたいだけど、市販化はまだ先みたいだね」


 ポーションは思っていたような効果だが、俺の祈りは魔力を消費しているのだろうか?

 限界まで使えば分かるかもしれないが、死にそうな人を助けても特に変わりはなかったので、そもそも限界はあるのだろうか?

 

 いや、この際だし飲んでみれば分かるかもな。


「その魔力を回復するポーションを飲む事ってできますか?」

「それは勿論出来るよ。試飲してもらう為に三本持って来たんだからね。先に言っておくけど、不味いから飲むなら一気にね。ライラちゃんとシラキリちゃんはどっちを飲む?」

「我は緑のをいただこう」

「私は赤い色の貰います」


 一人一本ポーションをミリーさんから貰い、三人一緒に飲む。


 ……確かに不味いな。


 一本だけ飲むならまだ何とかなるが、これを何本も飲むのは無理だ。

 珈琲の酸味だけを抽出し、そこにレモンとミントを入れたような味だ。

 ポーションを買うにしても、少し高い奴を買うとしよう。


 それにしても、飲んだからと言って不味い以外何も起こらないな。


 身体の奥が温かくなるとか、何かが湧いてくるなんて事も無い。

 

「飲み終わった容器は持って帰って売っても良いし、適当に割れば自然に帰るからどちらでも良いよ。基本は邪魔になるからって捨てる方が多いね」


 自然に優しい容器だな。流石異世界。


 容器を地面へと捨てると割れて、砂の様に粉々になった。


 原理は分からないが、凄い技術だな。


「ポーションの詳しい説明は道具屋に聞いてもらうとして、後はダンジョンの成り立ちと攻略をする必要性についてかな。それじゃあ……」

「グオォオゥオー!」

 

 ミリーさんが話していると、ダンジョンの奥の方から大きな咆哮が響いてきた。


 咄嗟にライラは俺を庇う様に前に出て、ミリーさんの顔が厳しいものに変わる。


 最初のダンジョン位何事もなく終わってくれないかな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る