第5話 耳かき。気持ちいいかや? ぬしさま。

(しゃく、しゃく。切り分けられた瑞々しい西瓜すいかを齧る音)


「にゅふふふ……! いい食べっぷりじゃのう。ぬしさま。まだまだたぁくさんあるから、たぁんと食べておくれ。どうれ。わらわも一つ……うんむ! 瑞々しくてあまぁくてよう熟れておる〜!」


※↑うんむ! から、ほっぺた落ちそうな、甘〜いはしゃいだ声色で。


(しゃく、しゃく。しゃく、しゃく。切り分けられた瑞々しい西瓜を齧る音が二つ重なる)


「んや? おかわりかや? はい。ぬしさま。どう……にゅふ……!」


(衣擦れの音。動きと声が途中でぴたりと止まり、悪戯っぽいふくみ笑いが漏れる)


(座ったまま少し近づく。衣擦れ。さらりと髪の揺れる音)


「はい。どうぞ。ぬしさま。あ〜ん、じゃ。……むう。なぁにをいまさら恥ずかしがっておる? すくーる水着とはいえ昨夜はいっしょの湯に浸かり、背中だけではなく、おたがいの肢体からだを洗いっこまでした仲ではないか。それに、早くあ〜ん、してくれぬと汁が滴って、わらわの手がベタベタになってしまうのじゃが……」


(しゃくっ、しゃくっ! と、慌てた様子で大口で二回齧る音)


「うむ! よい食べっぷりじゃ! ……しかし、結局けーっきょくベタベタになってしまったのう。どうじゃ? ぬしさま。この白絹しらぎぬの……おキヌばあやの白魚のような手、舐めてみるかや?」


「にゅふふ! なぁに、ほんの冗談じゃて。そのように顔をあかぁあかぁくして必死に首を振って、昨夜の風呂のことといい、本当に本当に可愛いぬしさまじゃのう?」


(見せつけるように、愛らしい桃色の舌をれろ、と出して指についた西瓜の汁をぴちゃ、と舐めとる音)



※場面転換。



「ふふ。お腹いっぱいになったかや? そうか。それはよかった。では、ぬしさま? さあ、こちらに」


(ポン、ポンと拍子よく手のひらで二回ひざがたたかれる音)


「にゅふふ。なぁにを恥ずかしがっておる? このおキヌばあやは、ようわかっておるよ? 西瓜を食べたあとは、ぬしさまはこんなわらべのころから、いつもそうじゃからのう? さっきから耳が痒くて痒くてたまらぬのじゃろう? じゃから、ぬしさま?」


(ポン、ポンともう一度拍子よく手のひらで二回ひざがたたかれる音)


「どうぞ、こちらに。その痒みがまるで気にならなくなるくらい、ぬしさまのお耳をこのおキヌばあやのひざの上で天にも上る心地にまで気持ちよぅく気持ちよぅく、してさしあげようぞ」


(カリ、カリ。細く小さな木の棒。その曲がった先端、小さなさじのようになった部分が耳の中を傷つけないように、ゆっくりと優しく動く音)


「どうじゃ? 気持ちいいかや? ぬしさま。そうかそうか。にゅふふ。ぬしさまは昔からばあやにこうされるのが大好きだったからのう」


(カリ、カリ、コリッ。細く小さな木の棒。その曲がった先端、小さなさじのようになった部分が耳の中を傷つけないように、少しだけ深く、ゆっくりと優しく、より慎重に動く音)


「にゅふふ。綺麗になったぞえ。さあ。次は反対じゃ。ぬしさま? とぉっても気持ちよくて眠たそうなところをすまぬが、すこぉしだけ、ごろ〜んとしてくれるかのう?」


(ひざの上で億劫そうにゆっくりと寝返りを打つ音)


「うむ。たいへんよくできました、のじゃ」


(カリ、カリ、カリ、コリッ。細く小さな木の棒。その曲がった先端、小さなさじのようになった部分が耳の中を傷つけないように、ゆっくりと優しく動く音)


「うむ! これで綺麗になったのじゃ! にゅふふ……! それにしても、あどけない顔じゃ。気持ちよさそうによう眠っておる……」


(かすかな寝息と、そっとやさしく髪をなでられる音)


*↓ それから、起こさないように小声で、そっと耳もとでささやく。


「なあ、ぬしさま? ぬしさまには言ってなかったがの? わらわもこうするのが大好きなのじゃよ? ぬしさまが心から安心して夢の中で、わらわにその身を預けてくれるこの行為が。のう? わらわの愛しい愛しい、この世でただ一人の、この身を捧げて尽くすと決めた、かけがけえのないぬしさまよ」


(……ちゅっ。少しの間ののち、耳もとにやわらかな唇が触れる音)

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