第3話 混浴1。なぁにをいまさら恥ずかしがっておる? ぬしさま。

(ぱしゃっ。水音。湯気)


(横開きの木の扉が軋みながらゆっくりと横に開く音)


(ぺたぺた、と、濡れた石の床の上を裸足で歩く音がゆっくりと近づいてくる)


「にゅふふふ……! どうじゃえ? ぬしさま? 今日の湯加減はちょうどええかや? 帰ってきた初日の昨夜ゆうべはぬしさまにはちぃと熱すぎたようじゃが、昔々むかぁしむかしは大勢住んでいたこともあって、その当時から悠久と変わらぬこの屋敷の浴場と湯船は、いまとなっては持て余してしまうくらいに無駄に広いからのう。この白絹しらぎぬ……おキヌばあや以外のもの、ぬしさまが使うのは随分と久々とあって、ついつい加減を間違えてしもうたわ。……んえ?」


(ばしゃっ! 主人公の動揺。しばらくじぃっと見つめていたあと、我に帰り、浸かっていた湯船にあわててより深く浸かる音)


「おんやぁ? どうしたのじゃ? ぬしさま。まるで林檎のようにそんなに顔をあかぁく赤くして、あわてて顔をそらして。んや? なにしに来た、じゃと? にゅふふ。決まっておろう。今日の夕餉ゆうげはぬしさま、このばあやがたぁんとつくったあれだけの量のご馳走を、美味うまぁい美味いと一つも残さず、ばあやと一緒にいぃっぱい食べてくれたであろう? じゃから、それを見ていたこのおキヌばあやは思わず胸がいっぱいになって、本当に本当に嬉しくなってしまってのう……!」


(ぺた、濡れた石の床の上を裸足で歩く音がまた一歩近づいてくる)


「じゃから、お礼にこうしてぜひ、ぬしさまのお背中でも流させてもらおうかと……んや? いらない? それより、目のやり場に困るから早く出ていってくれ、じゃと? にゅふふ。なぁにをいまさら恥ずかしがっておる? ぬしさまがわらべのころは、ようこうしてばあやと一緒に入っておったではないか。それに……のう?」


(つう……、と湯気でわずかに湿ったなめらかな肌、その正面を上から下へゆっくりと細い指がなぞる)


「いつまで経っても変わらぬ、こぉんな凹凸おうとつのまるでない童女のような肢体からだをいまのぬしさまが見たとて、残念じゃが、それこそなにも……んや? いいから! いますぐ出ていってくれ! このままだとそれこそここから出られない! じゃと? むぅ……! なんじゃ。ぬしさまめ。まぁた、いつになぁく頑なじゃのう……あ! そうじゃ!」


(ぱん、と小さな両手のひらを合わせる音)


「にゅふふふ……! これは、よいことを思いついてしまったのう……! 思いがけず、ぬしさまにお蔵入りになったをお披露目するよい機会じゃ……! ぬしさまや? 要は、目のやり場に困らねばよいのじゃろう? すこぉしだけそこで待っておれ。このばあやがすぅぐに準備して戻ってくるからのう? ああ、そこから逃げるでないぞえ? ぬ・し・さ・ま・や?」


*↑ ぬ・し・さ・ま・や? は特にことさらに悪戯っぽい声色で。


「〜〜〜🎵」


(濡れた石の床の上を足どりも軽く、鼻唄混じりに裸足で小走りに去っていく音)

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