第6話 何もかもが違う

 ホテルの部屋で俺は、上着をかけようとしていた〈れんこ〉さんをいきなり強く抱きしめて、ぷっくりとした唇をふさいでいる。


 〈れんこ〉さんは「先にシャワーを浴びさせて」と言っていたのだが、自分が冷静になって覚めてしまわないよう、勢いでキスだけはしようと思ったんだ。


 「あぁん、〈なおと〉さんは、強引なとこもあるのね。襲われるようなことをされたら、ドキドキが強くなる一方よ。こんなに鼓動こどうが激しいわ」


 そう言って〈れんこ〉さんは、俺の手を取り自分の胸に持っていった。

 そして俺に胸を揉ませながら、俺のシャツやズボンを脱がしていく。


 俺も〈れんこ〉さんの服を脱がそうとしたんだけど、〈れんこ〉さんは「恥ずかしい」と言って自分で脱いでしまった。

 下着は上下おそろいの黒で、少しはみ出した肉がかなり卑猥ひわいだ。


 〈れんこ〉さんの体はちょっとタプンとしていて、妻とは違っているけど、十歳近く年が離れているんだから比べるのは可哀そうだし、じゅくしきっているのでエロさはまさっていると思う。


 その後一緒にシャワーを浴びて、ベッドの上で肌を重ね合った。

 避妊具は〈れんこ〉さんが着けてくれた、人妻だったからか、すごくお上手じょうずだ。


 〈れんこ〉さんは甘い声を聞かせてくれたし、俺はお返しに「〈れんこ〉さんは、最高だ」を連呼しながら激しく動けたと信じたいが、それほど長く持たすことは出来ない。

 妻に拒絶されてから、ずいぶんと時が過ぎているから溜まってもいたし、妻以外の女性とするのはやはり新鮮だったからだ。


 一緒のようで何もかもが違う。


 〈れんこ〉さんは、俺に抱きついて「こんなに気持ち良いのは初めて」と言ってくれたので、俺は「こんなに満足したのは初めてです」と言ってあげた。


 ただし、妻が言っていたような背徳感はあまり無かった。

 妻が言い出したことだし、仕返しだから当然だと思う。


 あったのは、妻と違う女性を抱いているっていう高揚感と言うか、一人の女性を満足させたという征服感だ。

 男っていうヤツは、根源的には浮気性なんだ、俺も同じだと思う。


 シャワーを浴びた後に連絡先を交換して、明日も会う約束をしてホテルを出た。


 明日も会うのは、〈れんこ〉さんが南の島へ行くまでに、何回か会いたいと言ったからだ。


 〈れんこ〉さんは、離婚したのを契機に昔から憧れていた南の島へ、もう直ぐ移住するらしい。

 それまでに、「嫌なことを忘れさせてくれるような男性と、出会えないかと思いマッチングアプリを始めたのよ」と微笑みながら話してくれた。


 「だって、南の島は田舎で人が少ないから、こんなふしだらなことをすれば、悪目立ちしてしまうでしょう。うふふ」


 俺も出来るだけ早く五回の浮気を消化したかったから、ちょうど良いと思ったので「良いですよ」と答えた。

 俺はもう離婚している設定だから、〈れんこ〉さんは連日でも問題ないと思ったのだろう。


 男は出すまでと、出した後では、かなり気持ちの変化が生じる。

 性欲が解消された俺は、〈れんこ〉さんには申し訳ないのだが、何とも言えないむなしさを抱えたまま、妻と顔をあわすのが気まずいっていう感情しか残っていない。


 まさか〈れんこ〉さんとのことを、根ほり葉ほり聞いてこないよな、家に帰る足取りが今日も重いな。


 マンションへ帰ったら、もう12時を回っていた。

 妻は寝ないで待っていたのだが、顔には涙を流した後がついている。


 はぁ、どうしてだよ。

 なんでお前が泣くんだ、自分が段取だんどりをしたことだろう。


 「次に合う約束をしたの」


 「あぁ、明日また会うことになったよ」


 「うっ、そうなんだ」


 今度は苦しそうな顔をしやがった、俺が悪い事をしているみたいじゃないか、違うだろう。


 俺は歯を磨いて寝室へ入ったが、妻は布団を被ってシクシクと泣いているようだ。

 悪いのは浮気をしたお前だろう、嫌になるな。



 今回は、自宅の最寄りから三つ離れた駅の広場で、〈れんこ〉さんと待ち合わせだ。

 妻の浮気現場を見た繁華街がある駅で、少し歩くとラブホテルが何軒かあるんだ。


 俺と〈れんこ〉さんの都合の良い駅だったので、ここを待ち合わせの場所にしたのだが、妻が使ったかも知れないラブホテルを見てやれという気持ちも少しあったと思う。


 〈れんこ〉さんは少し早く着いていたようで、俺を見つけると小走りで近づき嬉しそうに笑いながら腕をヒシっと絡めてくる。

 そうされと当然ながら、〈れんこ〉さんの柔らかい胸が、俺の腕にムニュっと当たってしまう。

 腕を絡めたままラブホテルに向かう俺達は、どこからどう見てもさかりがついた不倫カップルだよな。


 ラブホテルの中へ入ると、〈れんこ〉さんがお弁当箱を開いて、俺に手作りの料理を食べさせてくれるのだが、ラブホテルでお弁当はどうなんだろう。

 持ち込みは禁止じゃないみたいだけどな。


 〈れんこ〉さんの手料理はすごく美味しくて、「〈れんこ〉さんって、プロの料理人なんですか」と思わず聞いてしまったくらいだ。


 「うふふ、プロじゃないわよ。 だけど料理にはちょっと自信があるんだ。 遠慮しないで、もっと一杯食べてよ」


 「ははっ、それじゃ遠慮なく頂きますよ。 〈れんこ〉さん、飲み物はビールか、お茶か、何が良いですか」


 「そうね。 やっぱりビールが良いかな」


 備え付けの冷蔵庫から、俺はビールを二本取り出して、一本を〈れんこ〉さんに渡した。

 手料理のお礼にはとても見合わないけど、飲み物とホテル代は俺が持つことにしよう。

 二本までは半額だからじゃないぞ。


 「お腹一杯だ。 とっても美味しかったですよ。 ありがとうございました」


 「うふふ、お粗末様でした。 料理を褒められると、嬉しくなってテンションがあがるわ」


 「えっ、すごく悲しいな。 俺は〈れんこ〉さんに会っただけで、テンション爆上げなのに、〈れんこ〉さんは俺に会ってもテンションはあがらないんですね」


 「もぉ、そんな訳ないでしょう。駅前から良い年をして、すごくはしゃいでいたでしょう。ふぅん、胸もドキドキなんだから。でもね、歯を磨いてシャワーを浴びてからよ。お姉さんはそう言うのに細かいんだからね」


 「はーい、怖いお姉さんの言うことは厳守します。 でも〈れんこ〉さんは充分お若いですよ」


 俺と〈れんこ〉さんは、シャワーを一緒に浴び、またベッドの上で肌を重ねた。


 〈れんこ〉さんの下着が、情熱の赤だったせいか、この前より燃えて乱れていたように思う。

 連日だから、俺が昨日より持ったせいかもしれない。


 「どうする。 まだ時間があるから、もう一回出来るけど、したい」


 〈れんこ〉さんは俺に聞いていながら、すでに股間をサワサワしているぞ。

 やる気まんまんじゃないか。


 「でも、俺ももう年です。 高校生の時のような回復力は、残念だけど自信がありません」


 「うふふ、若いのに良く言ってくれるわね。 ここは、もう一押ししたら大丈夫だって主張しているわよ」


 〈れんこ〉さんが四つんいになり、お尻を俺に向かってフリフリするから、もう一度可能になってしまった。

 二日間で三回か、妻とも最近はこんなに続けてしたことがないな。

 俺と〈れんこ〉さんの相性はとても良いのだと思う。


 〈れんこ〉さんもそう感じたのだろう、俺にバックで突かれている時に、「〈れいか〉って呼んで」「〈れいか〉良いって言って」と大きな声を出していたぞ。


 〈れいか〉って、たぶん本名だよな。


 終わった後にまた二人でシャワーを浴びて、冷蔵庫に入っていたお茶を裸のまま飲んでいる。


 「ふふっ、〈なおと〉さんに激しく抱かれて、自信が戻ってきたみたい。 私から誘うなんて、夫にもしたことが無いのよ。 何だか色々と解放されて、自由に生きられそうだわ」


 〈れんこ〉さんは、俺と行為をしただけで、〈自由に生きられる〉なんて大げさことを言うよ。

 それに、俺の考えすぎかも知れないが、〈元夫〉じゃなくて〈夫〉と言うのが切なくなるな。


 「〈れんこ〉さんは、しがらみから解放されて、自由に生きられる権利を手に入れられたのですね。 それはとても良い事だと思います」


 「ふふっ、私は〈なおと〉さんに出会えて、今とても幸せだわ。 我を忘れて本当の名前を言ってしまったから、もう〈れいか〉って呼んで欲しいわ。 それとここを出る前に、もう一度抱きしめてキスして欲しいな」


 俺は「〈れいか〉、綺麗だよ」と言いながら、裸の〈れいか〉さんを強く抱きしめて、むしゃりつくようなキスを長く続けた。


 途中からは、大きな胸も揉みしだいていたが、〈れいか〉さんは俺の自由にさせてくれている。


 「あぁん、こんなのやり過ぎだわ。 離れられなくなっちゃうよ。 〈なおと〉さんは、かなり悪い男ね」

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