METAL THRASHING BRIDE
下東 良雄
ふたりの歩んできた道、そして結婚へ
中学時代、憧れだった
「オスゴリラ」
そんな素敵な
「女の子にそんなこと言うのはやめろ!」
気がつくと、僕はそう叫んでいた。
で、あっという間に僕はボッコボコに。小柄でケンカなんかしたことのない僕が、ケンカ慣れしているヤンキーに勝てるわけがない。僕は何度も掴みかかろうとしたが、勝ち目はゼロ。ボロボロにされた。
心配した
「『美女と野獣』じゃなくて『チビとオスゴリラ』だな!」
高笑いして去っていくヤンキー。
僕を背負って保健室へ運ぶ
悔しくて、悔しくて……僕は
でも、この件をきっかけに、僕は
最初は挨拶だけだった。それから一言交わすようになり、立ち話するようになり、部活帰りにコンビニでおしゃべりするようになり、週末一緒に遊びへ行くようになった。そして――
「
――玉砕覚悟で告白。
僕たちは恋人同士になったのだ。
そうそう、あのヤンキーはいつだか駅前の繁華街の脇道でボッコボコにされて、素っ裸の状態で倒れていたらしく、その後学校に来ることはなかった。半グレの集団にでもやられたのかと噂になったが、あの繁華街はそこまで柄が悪いわけではないので、皆首を捻っていた。
それから高校、大学とお互いに進学していったが、すれ違いもあまりなく、お付き合いはずっと続いていた。大きなケンカもしないし、いつまでも仲が良いので、友人たちからは『おしどり夫婦』なんて呼ばれている。いつかそんな風になれるといいなと考えていたが、
大学を卒業して、僕は上場企業に就職ができた。そして
それから三年。
「
僕は
きっと喜んでくれるって思っていた。でも、
「きったあなたを不幸にしてしまう」
涙を零す
「不幸になったら幸せになればいい。すべてに順風満帆な結婚生活なんて送れるはずがないんだから。たくさんふたりでケンカして、たくさんふたりで辛い思いして、たくさんふたりで苦しもう。そして、ふたりでそんなことを忘れるくらい幸せになろう」
僕の言葉に、
僕たちは、結婚することになった。
プロポーズから一年。ようやくこの日を迎えた。
小さなチャペルでの結婚式。
そして、ウェディングドレス姿の
「うわぁ、綺麗……」「
つつがなく進行していく式。僕はずっと緊張でドキドキだ。指輪の交換。そして――
「誓いのキスを」
――ついにベールアップ。
近付いていく
「死ねーっ!」
――そして、死ねーっ!……って、ハッ? 何?
声のした方へ顔を向けると、忍者のような黒装束を身にまとった男が包丁を両手に僕たちに飛びかかってきていた。僕は
ガキィーンッ!
思わず目を瞑ってしまった僕は、恐る恐る目を開けた。
「ちっ……
「我らにとって
「白昼堂々と、しかも私の結婚式で……」
黒装束で顔も覆っているため、細かな表情は分からないが、目元でニヤリと笑ったのが分かった。
ナニコレ?
「奇襲というのは、こういうことをいうのだよ。燕のお嬢ちゃん」
「ぬかせ!」
キンッ! キンッ! キンッ!
ステンレスの
えっ? えっ? えっ? これって結婚式の出し物か何か?
「そこだ! くらえ、トレースラーッシュ!」
手品? イリュージョン?
「ちっ!」
「サウザンドナイフスロー!」
男が
「しまった!」
――ウェディングドレスの裾を踏んでしまい、転ぶかのように体勢を崩してしまう。
「燕のお嬢さん、これでおしまいだ!」
絶望的な表情を浮かべる
僕は叫んでいた。
「やめろぉーっ!」
カッ!
僕の身体が一瞬強く輝いたかと思うと、ナイフはその勢いをすべて無くしてしまい、その場でガチャガチャと床に落ちてしまう。
僕の身体が輝いて……はぁっ!? 身体が光るって何やねん! ぼ、僕って人間だよね!
そんな僕を見て、驚愕している黒装束の男。
「お、お前は何者だ!」
「僕は、
黒装束の男は大きく目を見開いた。
「ま、まさか……さ、堺一族の末裔! 馬鹿な! 堺一族は滅びたはずだ!」
え、なに? 何なの? 堺一族って……ウチの父親はただの金物屋で、お店の方も絶賛営業中(毎週水曜定休)だけど……。
「スキあり! お前の相手は私だ!」
体勢を立て直した
えー……ドレスの下にそんなモン隠してたの……? もうドン引き……。
「燕一族一子相伝の技を味わいなさい!」
オリンピックで金メダル穫れるな、あの高さは。
フライパンを持った両腕を広げる
「いっけー! スワローダブルクラーッシュ!」
ぶんっ バッチィーン!
黒装束の男の頭を左右からフライパンで思っきり挟み叩いた。
フライパンでモンゴリアンビンタ……一子相伝の技……?
「馬、馬鹿な……俺が負けるなんて……
男はバタリとその場に倒れた。
威風堂々と立つ
いや、救急車呼んであげようよ。あと警察も。
「これが……これが私の秘密……。燕一族のひとり、
知らんがな。
自分の世界に入り込んでいないで帰ってきて。
「関一族との覇権争いはまだまだ続く……でも、きっと私たちなら愛の力で乗り越えていける……!」
愛の力はどんだけ無敵やねん。
で、何の覇権を争ってんの。時代は令和だよ。
「それにキミは……私の思っていた通り、堺一族の末裔!」
僕は金物屋の息子だってば。
後ろからそんな僕の肩に手を乗せた僕の親父。
「これも宿命、か……」
だから知らんがな。
お袋はその横でさめざめと泣いてるし。
「関一族に覇権を渡すわけにはいかない!」
そして、参列者たち。
お前ら全員絡んでんのかい!
で、覇権って何よ!
「私たちはここで皆さんに誓います! 私たち夫婦が関一族を打倒してみせると!」
いや、まだ籍入れてないし、婚約破棄が妥当です。
そんな僕の心境を無視して、周囲からは大きな拍手が起こる。
「誓いの口づけを」
神父まだいたんかい!
……って、
ちょ、ちょっと待って! この婚姻は無しで! 婚約破棄を……!
ぶちゅっ れろれろん
「結婚おめでとう!」
「お幸せに!」
「打倒、関一族!」
祝福の言葉とは到底思えない言葉も飛び交う中、
僕は考えていた。
一体どこで道を間違えたんだろう。
脳裏に蘇るふたつの言葉。
『オスゴリラ』
『女の子にそんなこと言うのはやめろ!』
アレかぁー……。
何も知らなかった頃に戻りたい……。
何だかよく分からない覇権争いに巻き込まれ、オマケに自分も絡んでいたという知りたくもなかった事実。
嬉しそうな
METAL THRASHING BRIDE 下東 良雄 @Helianthus
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