(18)あと2時間

「それじゃあ、おさらいね」


 耳元で朝日の声がするせいで、むずむずする。


 サバイバルゲームが趣味、というマー君が、4人分のインカムを持ってきてくれた。ちなみに、帽子やらバンダナやら目隠し用のゴーグルまでそろっている。サバイバルゲームって、銀行強盗モードとかあるのだろうか。


「まず、私と夕がクラゲブースの目の前で、ドローンを持って待機。合図を待って、マー君が水族館の照明を落とす」

「なぁ、やっぱ俺が1番大変じゃない?」

「そしたらお姉さまがドローンを起動。私と夕がドローンを空に、パーっと放り投げる!」

「ドローンちゃん繊細だから、やさしくね?」


 少し前を歩くお姉さんが、水族館の入り口前でちらりとこちらを振り向いた。


 私たちはバラバラに入館した後、それぞれが所定の場所に着く。マー君は通用口から、バイトを装って入る想定だ。


 大学生なんだから、いろいろなバイトを経験してるでしょ、と朝日の一声で役回りが決まった。


「やっぱさぁ、難しいよこれ。さすがに怪盗みたいな仕事はしたことないって」

「アルバイトらしさを醸し出し続ければいいじゃん。そういう顔してるじゃん」

「そういう……どういう?」


 お姉さんに続いて、私と朝日も入館する。私は年パスなので、朝日だけチケットを買う。


「続けるからね。ドローン舞台が例の映像を流しだしたら、私が叫んでみんなの視線を水槽に誘導。その間にこっそりブースから離れて、ウミガメがでたらまたイッキョウ」

「イッキョウ?」

「一に叫ぶ。一叫」

「なにそれ」


「みんなの意識が水槽から離れた瞬間に、夕がドローン回収して、そそくさ逃げる。OK! 泥棒完了。最後は花火でも見ながら乾杯しましょ」


「未成年組はジュースね」

「お姉さまのいけず!」

「江ノ島駅集合でいいんだっけか」

「江ノ島は人混みで会えないでしょうし、そこからでも花火は見えますよ」


 2階の渡り廊下を進む。いつもより人が多い。海岸も花火を見に来た客ですでにぎっしりだ。


 打ち上げまであと2時間。空はまだまだ明るいままだ。

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