(13)作戦会議といえば麻雀なのよ

「あ、夕のそれロン、だ」

「え、あれ、ロンってなんだっけ?」

「リーチ・タンヤオ・ドラ3……わ、ごめん裏もある! これどうなるんだっけマー君!」

「跳ねたから1万2000点」

「跳ね……え? なに?」


 お姉さんの秘密兵器のお披露目から三十分足らず。作戦会議となるはずが、なぜか麻雀に参加させられている。しかも、やったことないのに。


「あちゃあ、飛んじゃったねぇ」

「飛ん……ねえ、さっきからみんな、なに話してるの? 中国語?」

「中国語には違いない」と、お姉さんがけらけら笑う。


「ええと、1万2000点足して……やった! 2位!」

「俺は3位かぁ。お姉さん強すぎじゃないすか?」

「大人の実力ってやつですな」


 ルールはよくわからないけれど、お姉さんが大人げないことだけはよくわかる。


 私の持ち点がなくなったことで、ゲームは仕切り直しとなったらしい。盤上のキャラメルみたいな駒を、みんなが手でじゃらじゃら混ぜていく。ルールはわからないが、賑やかなこの音と、駒の滑らかな質感は少し心地が良い。


 でも、それとこれは話が別だ。


「ねえ、作戦会議は?」

「夕はなにもわかっちゃいない。古今東西、作戦会議といえば麻雀なのよ」


 向かい側に座っている朝日はこちらに目もくれず、混ぜ終わった駒を一個ずつ積み上げている。


「私、麻雀が中国のゲームってことくらいは知ってるんだけど。古今東西じゃないでしょ。『古』で『東』だけでしょ」

「ちっちっち」お姉さんが仰々しく指を振る。「青春といえば麻雀、麻雀といえば青春ってわけさ」

「私のまわり、誰もやってませんけど」

「まあ、俺も大学からっすね」


「……大学といえば麻雀。麻雀といえば大学ってわけさ」

「お姉さん、まだ酔ってます?」

 もう喋らないでください、という思いを込めて睨みつける。が、当の本人は気づいていないらしい。次は蹴飛ばしてみようか。


「これ夕のぶんね」朝日が積み上げた駒の束を私に寄せてきた。「もちろん作戦会議もするって……ええと、なに決めなきゃいけないんだっけ?」

「まず日取り。あと当日の配置。逃げたあとの合流地点も必要」

「なんか、慣れてない?」

 お姉さんが小首をかしげる。


「別に。よく見る映画の真似してるだけですから」

「映画、よく見るんだ。何が好き?」

「今その話関係ありますか?」

「ないけどさぁ、いいじゃんかあ」

 机の下で蹴飛ばした。

 なにするんだよう、とお姉さんは口を尖らしている。


「日取りなら、ちょうどいい日があるじゃん」盤上がキレイに整頓されて、朝日が最初の駒を捨てた。「来週の土曜日、花火大会の日」


「いや、それはちょっと!」

 意外にも、一番に声をあげたのはマー君だった。中腰になって、そのまま固まっている。

「私も、すこし、すこーし、困るかな」

 お姉さんもマー君に同調する。


 お姉さんは別として、マー君が狼狽えている理由はだいたい想像がつく。朝日を花火大会にでも誘うつもりだったのだろう。


 マー君には悪いが、今夏の朝日は私がもらう予定だ。


「いいね、土曜日。むしろ土曜日しかないよ。きっと水族館のお客さんも多いだろうから、目立つし逃げやすい。ねっ、朝日」

「そのとおり」

 朝日が満足げに腕を組んだ。


「はい……じゃあ俺も、土曜日でいいです……」

 マー君が本日二度目のしょぼくれを披露している。


 お姉さんだけが、気まずそうな表情を浮かべていた。

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