(11)私って気が短いからね?

「マー君ちょっとタコセン買ってきてくれませんか?」

「お姉さんが奢ってあげよう!」

 失敗。



「マー君ちょっと写真撮ってもらえませんか?」

「お姉さんに任せて! 3人でほら並んで並んで!」

 失敗。



「マー君あっちにも出店が出ているみたいなのですが」

「あれ出店じゃないよ! お姉さんの家!」

 失敗。というか、お姉さんテントで暮らしているの?

「一時的! 一時的だから! 今までで一番優しい目でこっち見ないで!」



 朝日とマー君は神社におみくじを引きにいった。

 参道を登る最中、どうにか朝日とマー君を引き離そうと試みたが、ことごとくお姉さんに妨害された。本当にいやだ、この人。


「若い男女が仲睦まじく。青春だねぇ、いいねぇ」

「いいですかね」

「よくないの? 親友の幸せすら祝えないなんて、碌な大人にならないよ」

「こうなるってことですか」

 お姉さんを指差す。

「あまりにあまりに失礼じゃないかな!」


 引いたくじがよかったのだろうか、販売所の前で朝日が飛び跳ねている。


「楽しそうにしているのは、見ていて楽しいですよ。朝日が幸せだったら、私もうれしいですし。でも、だからいやになるんです。私はいつだって、いつまでも、見ているだけなんじゃないかって」

 朝日を楽しませるのは、幸せにするのは、私じゃなくて、朝日が選んだ違う人なんじゃないか、って。


「朝日ちゃん、君といて楽しそうだけどね」

「そうだと……うれしいですけど」

 でも一番では、きっとないんだ。


 朝日とマー君が肩で風を切りながら帰ってきた。


「そんなに結果良かったの?」

「聞いて、大凶」

 朝日がピースした。

「全然ダメじゃん」

「俺もそう思ったんだけど、これでいいんだって」

「だってさ、あと上がるだけじゃん! よっしゃあ燃えてきた!」

「ちなみにちなみに、なんて書いてあったの?」

「「失せ物、消える」」

 朝日とマー君が同時に答えた。

 お姉さんが吹き出す。

「じゃあ、確かにいいかもね。いまから失せ物を作りにいくんだから」


 よおし、とお姉さんが音頭をとって参道を降りる。マー君がひょこひょこついて行く。私も、と立ち上がりかけたところで、なにかに引っ張られてつんのめった。

 

 朝日が、私の服の裾をつかんでいた。


「なに?」

「夕さ、私に言いたいことある?」


 咄嗟に思ったのは、どっちだ、ということ。

 頭のなかで、言葉がぐるぐる回る。

 どれも、なんて言えばいいのか。言ってどうするつもりなのか。朝日になんて答えてほしいのか。私がどうしたいのか。なにもわからない。


「……ある」


 なんとか、それだけ答える。


「そっか」

「急に、なんで? おみくじに書いてあった?」

 冗談のつもりだったが、朝日は「まあね」と頷いた。

「まあ、ほかにもいろいろあるけれど。で、それっていつ聞ける感じ?」

「もう少しだけ、心の準備、ほしいかも」

「りょ。でも、夕も知ってると思うけど、私って気が短いからね?」

「知ってる」


 痛いくらいに。


「それじゃ……作戦会議、行こう!」

「了解、リーダー」

「お、ようやく昇格かぁ。全部リーダーに任せんしゃいっ」

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