(8)卑怯者みたいだし
お披露目は3人揃ったら、とお姉さんはもったいつけた。
それってつまり、お姉さんと朝日を会わせるってことだけど。説明のしようがなくない?
私の両親が再婚であることを、朝日は知っている。だからといって、本当のお母さんですなんて紹介しても気まずいし、未来の私ですなんていったら私が変な目で見られる。
厄介なお姉さんだ、と縁側で頭を抱えた。
帰宅が20時を過ぎても、母は何も言わない。優しく笑って、晩御飯できてるよ、と迎え入れてくれる。
家族になって、もう3年経つ。気を遣っているのは、お互い様だ。
母が種まで綺麗に取ったスイカを食べながら、朝日に電話をかけた。呼び出し音が流れている間、こうして縁側に座るのもあと少しだな、なんてふと思う。
夏の夜、湿気った空気を感じながら、朝日の家族も呼んで花火をした。
秋には父が秋刀魚を焼いてくれた。焦げ臭くて、お隣さんに怒られた。
冬の雪合戦は、朝日のシャベルを使った絨毯爆撃にムカついて大喧嘩になったっけ。
春。新学期の朝は必ず朝日が迎えにきてくれて、一緒に新しい一年を始めるのが好きだった。
それもあと少し。春はもう来ない。夏は、これで最後。
『夕? ごめん今スイカ警察に追われてて』
ようやく繋がった電話の先で、朝日が息を切らしている。
「なにそれ。クラゲ泥棒の宿敵?」
『1号の永遠のライバル』
妹の千秋ちゃんか。
「また喧嘩?」
『私は悪くないんだけど––』
『お姉ちゃん! またスイカの先っぽだけ食べたでしょ!』
朝日の罪状がわかってしまうほどの大きさで、千秋ちゃんの怒号が聞こえてきた。
「それは朝日が悪い」
『ちがっ––千秋、待って! 電話終わったら話し合おう』
『電話だれ? 夕さんでしょ! ねぇ聞いてくださいよ。お姉ちゃん、先っぽだけ食べたあと残りが三角になるようまた切ってて。これが高3のすること?』
『大人だから好きなものだけ食べていいのだ!』
「いや、いい歳なんだから好き嫌いせず食べなよ」
『お姉ちゃんに至っては好き嫌いですらないですからね。ただのワガママ!』
『言ったな! よおし戦争だ。ごめん夕、また連絡する! 私は今日ここでこの家におけるトップが誰かを駄妹に教えるから』
「うん、メッセ送っとく」
『喰らえ、タネミサイル!』
『甘いわ! タネ絨毯爆撃––』
電話を切る間際、朝日のお母さんの声が聞こえた気がした。あの人、私には優しいけど自分の子には容赦ないからな。
私はぬるくなったスイカにかぶりつく。甘いところだけ食べれたら美味しいけれどさ。そういうの、しちゃいけないでしょ。
なんか卑怯者みたいだし。そもそもスイカ、皮の近くまで美味しいし。
「今の電話、朝日ちゃん?」
母が麦茶を持って、隣に座った。
「うん。朝日がスイカの先っぽだけ食べるから、千秋ちゃんと喧嘩したらしい。まぁ、気持ちはわかるけど」
「あら。じゃあ夕ちゃんも、先っぽだけ切ってあげようか?」
「私そんなに子どもじゃないよ」
あまり噛み合わないのだ、この人とは。優しくしてくれているのは伝わるけれど、甘ったるくて、少しズレてる。
近くで蝉がないていた。暑すぎて、昼間はなけないらしい。その分夜にないている。
「もう、朝日ちゃんには伝えたのかしら」
かろん、と麦茶の氷が鳴った。私は皮間際まで綺麗に食べたスイカをお皿に置く。
「まだ」
朝日は、私がこの街で進学すると思っている。と思う。
「やっぱり、残りたい?」
「ううん。決めたことだし。大丈夫だよ」
「夕ちゃん聞き分けがいいから」スイカの皿を持ち、立ち上がる。「実は無理してるんじゃないかって、お父さんとも話すのよ」
大丈夫だよ、ともう一回言った。それ以外の答え方がわからない。
母の家庭事情と、父の新しい仕事。2人が海外に行くのは避けられない。でも、だからといって。私の好きだけで、私だけが離れるのは違う。
家族って一緒にいるものじゃないの、普通は。
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