(7)いい考えがあるんだな、私には

 お姉さんは目をぱちくりして、私のことを見ていた。


「盗む? クラゲを? なんで?」

「高校生だからです」

「イマドキってやつ?」


 知らない、これがおばさんになるってことか、とお姉さんはぶつぶつ呟いている。


「なんで知らないんです、未来の私が」

「たぶんね、正確には直接の未来じゃないんだよ。いわゆるパラレルワールドってやつ? SF詳しい? 好きな小説は?」

「あまり興味ないです」


 だって、嘘だろうし。


「まぁまぁ、ということは、だよ。君がなにをしようが、私は大丈夫、ってことにしとこう。いいよ、クラゲ泥棒。手伝ってあげる」


 今度は私が驚いた。


「煙草は止めるのに?」

「そうだねぇ。きっと君がやろうとしていることは、そりゃ迷惑は誰かにかけるんだろうけれど、でも大丈夫なことで、大切なことだろうから。違う?」

「……違わない」


 じゃあ、決まり、とお姉さんは立ち上がった。お尻についた砂をぱしぱし叩いて、私に手を差し伸べる。


「ほら、行くよ。さっそく作戦会議だ」


 その手を取りながら、私は複雑な気分になる。


「悔しいんですけど、お姉さん、私の好きな人に似てます」

「あらあら、恋バナ? お姉さん恋バナ好きだよ?」

「しません」立ち上がったところで、お姉さんの手を振り払う。「お姉さんって、賢いですか?」

「えっへん。これでも一応、科学者の端くれだからね」

「だったら、クラゲを隠すアイデア考えてください」


 放課後に朝日と話した、盗むのではなく隠す方針をお姉さんにも伝える。ほかのことも。今考えているのは、映画でスパイが監視カメラを騙すように、いい感じの合成写真を水槽一面に貼りつけること。その写真の作り方が、全然全くこれっぽっちも皆目見当ついていないこと。お姉さんがウミガメ3号になることも。


「3号、いいね。熱血リーダー、クール系相棒ときて、知的なサポート役が私ね」

「リーダーとかないです。なんでみんなそっちにもってくの……」

「ところで2号」お姉さんが悪戯っ子のように笑う。「写真よりいい考えがあるんだな、私には」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る