第3話 side エキストラ

 まだ幼い頃、アルベルト王子殿下の側近候補と婚約者候補として集められた令嬢令息の中に僕もいた。

 レッドスター公爵子息の婚約者であったオリヴィア嬢をアルベルト王子殿下の我儘で略奪する様を見ていた時から僕たちは不安を抱えていた。

 長い長い時間をかけたレッドスター公爵子息の計画に気付いてから、僕を含むあの日あの場所に居た令嬢や令息たちはレッドスター公爵子息の味方についた。

 正直なところあの日に感じた不安は間違いではなく、今現在僕たちはアルベルト王子殿下をすっかり見限っていた。


 卒業式典で婚約破棄をするとアルベルト王子殿下が僕たちに宣言をした時はいよいよ来たかという緊張感と同時にやっと解放されるという安堵があった。

 レッドスター公爵子息の企み通りにアルベルト王子殿下が追い詰められていくのを僕たちは冷めた目で見ていた。

 レッドスター公爵子息がオリヴィア嬢を連れて会場を出る。

 さあ、ここからは僕たちの仕事だ。

 僕は隣に立つ元王子殿下の婚約者候補であり、僕の婚約者でもある侯爵令嬢に目配せをした。

 壇上と会場を繋ぐ通路の扉を乱暴に開き、レッドスター公爵令息とオリヴィア嬢を追いかけようとするアルベルト王子殿下の進行方向に歩み出て道を塞ぐ。

 僕たちの仕事は時間を稼ぐこと。

 レッドスター公爵子息とオリヴィア嬢が彼らのタウンハウスへ帰るまでの時間稼ぎだ。

 彼ら二つの家はこのまま国外へ逃げる。

 残された領地などの暫くの運営は僕たちの親が担うことになっている。

 レッドスター公爵子息が立てた計画はいつの間にか国内の有力貴族を巻き込んでいた。

 この先アルベルト王子殿下はこの騒動の責任を独りで背負うことになる。

 誰の忠告も聞かず国内有力貴族家の一つモンステラ侯爵家と王家の婚約を壊した責任の一端はアリア嬢が背負うことになるだろう。

 貴族院も元老院も、もちろん僕たちもアルベルト王子殿下の立太子は認めない。

 それどころか国内の有力貴族は既にレッドスター家とモンステラ家を追いかけ国を出る算段をつけている。

 僕たちもこの騒ぎが引いた後直ぐに旅立つ予定だ。

 そう決心するほどに、それだけ彼の横暴は過ぎたものになっていた。

 取り返しはつかない。

 「違う!俺はオリヴィアが好きだったんだ!」

 そう喚き散らし暴れるアルベルト王子殿下を拘束するよう僕は指示を出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る