花火

ばっと夜空に咲いた、大輪の花。

とても綺麗だ。

居るはずのない君を求めて、横をむく。

こんな夜、君と結ばれたかった。

そんなの、ただの願いだ。

叶わないことなんてわかってる。

もう、君はいないんだから。


最愛の人がいた。

ずっと、そばにいてほしいと願っていた。

愛したかった。

愛されたかった。

君を好きになった時、運命だって感じてしまった。

――『運命』だなんて、あるわけないのになぁ。

もう、この世が嫌いだ。

最初はこの世界が大好きだった。

誰もが自分を愛してくれて、可愛がってくれて。

自分もいつかそんな存在になれたらなって思いながら毎日を過ごした。

でも、僕に愛したい人なんていない。

愛したいと思った人も、僕の傍から去っていった。

誰もがそうだ。

みんな僕なんかに構ってくれない。

刻々と日常は進む。


いつからか、羨ましくなった。

人に愛される存在が。

そして、人に影響を及ぼせる存在が。

例えば、花火とかだ。

夜空に咲く時間はあんなに短いのに一瞬で心を奪っていく。

人に愛されている。

いいなぁ。

こんなくだらない日常を過ごすなら、死にたいと思った。


今日、僕は夜空を見上げる。

夜空に咲くのは大輪の花。

最愛の君は僕の傍にはいない。

消えて、居なくなってしまった。

まだ『君』はこの世に存在するけど、『最愛の君』はいない。

違いを分かって貰えなくたって構わない。

愛されないのなら、死にたかった。

でも、もうそんな事いいんだ。

僕は、自分の道を見つけた。

今日も僕はこの手で、この指でキーボードを叩く。

物語を紡ぐ。

僕は愛して貰えない人間だ。

だから、この小説を愛してほしい。

例え僕が死んだって、この物語は残り続ける。

精一杯の愛情を、この物語へ。


『花火』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る