世界の雨

「雨は絶望か? それとも、希望か?」


誰かが言った。

確かに、雨は絶望だ。

雨が降ったから、遊べなくなった。

急に予定がキャンセルされた。

――土砂崩れで、家族が死んだ。

これは、全部私の話だ。

私は雨によって大事なものを全て失った。

家族も、住まいも、友達も。

でもね、今の私にとって、雨は「希望」だ。


もう、何も信じられなくなっていた。

全てのものは必ず地に帰る。

それを身をもって経験してしまった。

信じたって無駄。

もう、大切な物は何も無いのだから。

私に「信じる」ということは必要のない事だ。


雨によって、私の生活は全て崩れた。

あの雨がなかったら、私が1人じゃなかったら。

そんなことを何回考えたことだろう。

ずっとその事を考えている私は先生に見捨てられ、友達を失った。


誰も手を差し伸べてくれなかった。

悪いのは私じゃないのに。

あの、残酷な雨なのに。

心の中に降り注ぐ豪雨は止むことを知らなかった。


そんな時のことだった。

私の雨の中に、光が見えたのは。

君に、出会ったのは。

私は君に救われた。

君が手を差し伸べてくれたから、あの一言をかけてくれたから、私の雨は、止んだんだ。

教室の外には雨が降っている。

でも、私の心は快晴だ。

希望を得た人間は、この世を生き抜く事が出来るだろう。

今、世の中は荒れている。

コロナの世界的蔓延せかいてきまんえん、円安、強盗。

そんな日常に慣れてしまった自分が怖い。

でも、私たちはこの世を生き抜いていかなくてはならない。

家族のことを忘れた訳では無いけれど、そうやって生きるのが家族へのお礼だと思うから。

だから、私はこの世界に光が指すことを願って、この世を生きるよ。

だから、だから――。


「大丈夫?」


この言葉をかけてくれた君に感謝してる。

その言葉のおかげで、私は生きていけた。

自分も生きていいんだって思えた。

君のおかげなんだよ。

こんなこと、君は知らなくていい。

知る必要もない。

だけど、私は君に最大級の感謝を捧げよう。

そして、同時に願う。

この世界の雨が、止むことを――。

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