悪魔

「君とは分かり合えない。」


誰かが言った。

最初に浮かんだ感想は、

何を言っているのだろう? だった。

だって、そんなことは当然じゃないか。

君と僕は別の生き物だろう?

性別も違う。好きな食べ物も違う。

思考回路も、クラス内での階級ヒエラルキーも。

頭の中が読めるわけでもないんだから、人の心なんでわかんない。

だから、分かり合えないのも当たり前。

――そんな風に思っていた。

そうやって突き放して、人の心なんてわからないと決めつけていた。

僕の心を、誰かが知ることは無い。

――一生、ずっと。


僕の心には、悪魔が付き纏っているんだ。

悪魔が僕の心を雁字搦がんじがらめにして、捕らえている。

だから、僕は一生自由になれない。


そう思っていた。

だって、人間の心だなんて分からない。

わざわざ知らせてくれる人もいない。

当たり前だろう。

僕はひとりで、「友達」なんていなかった。

人と関わるのが根本的に嫌だった。

そんな時間、作る余裕なかった。

でも、君が教えてくれたんだ。

僕の心に付き纏っていた悪魔。

それを君が優しく払ってくれたんだ。

君がいたから。

僕は人の心を知れた。

そんなこと、君は知らないだろう。

だって、それは君にとって、「普通」で「当たり前」だから。

僕が特別じゃない。

そんなこと、勿論分かっていた。

――でも、望まずにはいられなかった。

君が、僕の友達になってくれることを。

君が、僕を認めてくれることを。

悪魔が、人に生まれ変わることを。

無理って分かってる。

だって、僕は悪魔を体に宿してしまったのだから。

全て僕が悪い。

僕が、心を閉ざしたのが悪かったんだ。

固く悪魔に守られた心は、周囲を傷つけ、自分の身を必死に守っていた。

あぁ、この世は何て残酷なのだろう。

一回やってしまったことは一生周囲に忘れられない。

やり直せない、そんな人生。

もし、今僕が死んだら、生まれ変われるだろうか。

心に悪魔を宿さず、僕は君のように生きたい。

――こんなこと、無謀だって分かっているよ。

でも、望まずにはいられない。

今夜、この命を絶とう。


――さぁ、夜が来た。

僕の人生はこれで終わる。

もう、生きていられないよ。

人の心を知って、自分がどれだけのことをしてしまっていたのかやっとわかった。

償わなきゃいけない。

この命で。

ごめんなさい。

悪魔で。生きてて。人の心を知らなくて。

だから、もう僕は死ぬよ。


「……死んだって、悲しむ人はいないでしょ?」


夜空に、呟く。

輝く星が眩しい。

あんな存在に、なりたかったなぁ。

もう、遅いけど。

足を1歩前へ。

これで、僕は――。


「君は、私の友達だよ!」


後ろから、聞きなれた声がした。

あぁ、僕の天使の声。

そして、僕の友達の声。

僕なんかを大切にしてくれる人が、いたんだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


澄み切った空の下、大声で泣き叫んだ。

――これは、歓喜の涙。

悪魔が居ない、真の心からの。

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