手帳


「君のこと、離れてても大好きだよ。」


か細い声で、そっと包むように君は言う。

僕は、君と離れたくない。

この心の手帳に、君との思い出を紡ぎたいんだ。

もっと、もっと。

でも、それは叶わない願いなんだよね。

だって、僕と君は今日、離れる運命なのだから。


人の心なんて、所詮作り物だ。

ボロが多くて、直ぐに本性を表す。

中々しぶといやつも居るけど周りにはバレバレだ。

だって、人はそういう生き物なんだから。

――だから、僕がこう思っていることも周りには当然分かっているだろう。

しょうがない、よなぁ。

僕も君らと同じ1人の人間なのだ。


今まで僕の心の手帳はすっからかんだった。

何も書かれていない、新品の状態。

空いてるところが虚しくて。

でも、埋めようとしても何を書けばいいのか分からない。

そもそも、僕が紡いでいいのかも分からない。

僕は、人生というとてつもなく大きな場所で迷子になっていた。


もう、死にたいって思った。

だって、帰る場所が分からない。

帰って良いのかも分からない。

そんな日常、もう嫌だよ。

最期に、「僕が死んだ。」っていう言葉を手帳に埋められるのなら、それでいい。


そんな時だったよね。

僕の手帳に最初の一言を書き込んでくれたのは。

僕を救ってくれたのは。

僕たちが、出会ったのは。

僕は、君がいたからこの一言を書き込めた。


「僕って、誰にも愛されていないのかな?」


過去にボソッと呟いた言葉が頭を掠める。

あの時、君があの言葉をくれたから、僕は生きることが出来ているんだ。

その言葉を、君に返そう。


「大丈夫だよ!」


そして、僕からの言葉を、君へ。


「だって、僕も君のこと――。」


頬を真っ赤にして必死に頷く君。

また手帳に君と言葉を紡ぐ日が来ることを願って。

僕は、今日を生きます。

最愛の君へ、この物語を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る