天使



「この瞬間を生きてるだけで偉いから、

花丸あげちゃいます!」


可愛らしく笑った君は、天使のよう。

でも、その言葉はふわっとした羽のように軽くは無い。

重い、想いが詰まった言葉だ。


私は、「嘘の自分」をつくってた。

周りから望まれる、「本当の自分」とは違う私。

それが、いつか「私」になることを願ってた。

ずっと、ずっと。

でも、それは「私」にはならなかった。

私は、「私」を保つことに疲れてて。

いっつも無理してる。

やりたいことはやれなかった。

自分の意見も言えなかった。

なんにも、出来なかった。

誰も、大事に思ってくれてないんだぁ。

私の事。

悲しくなって、人を誰も信じられなくなった。

死にたいってずっと思ってた。

でも、叶わなかった。

やっぱり死ぬのは怖い。

でも、生きる意味なんてないんだ。

今の私、何なんだろう。

誰にも必要とされてない。

むしろ、迷惑になってる。

申し訳ない。

こんなの、嫌。

やっぱり、死んだ方がいいんだよ。

こんな存在、この世に不要だもん。

だから、私は――。

そんな時だったよね。

君が、私を救ってくれたのは。

君は、皆に「天使」ってあだ名をつけられるほど優しくて、可愛くて。

私とは遠くかけはなれてる人だと思ってた。

というか、そうだった。

君が話しかけてくれるまでは。

君は「生きてるだけでえらい」って言ってくれた。

甘えちゃだめ。

だって、人は裏切る生き物だから。

そう分かってた。

でも、君は優しくて。

私はつい甘えてしまった。

君は優しくて。

「天使」に心を救ってもらった。

「天使」はなんでも出来た。

完璧、という言葉がこれほどにまでふさわしい人間は君独りだろう。

でもね。

それは、みんなが思ってる「天使」に過ぎない。

君は、「天使」の前に一人の人間だ。

完全無欠じゃない。

出来ないこともあって、でもそれを努力して克服してる、私と同じ人だ。

私は、「天使」じゃなくて、「君」に惹かれた。

君のことが私の頭から離れない。

気がつくと君の方を向いていて、君の一挙一動にドキドキしてる。

そんな自分、おかしいって分かってる。

自分は、世界の「普通」から外れた人間になってしまった。

そんな私を、みんな避けた。

元々避けられてたから意識なんて全然しないけど。

でも、君は私の姿を見て傷ついてしまった。

君は、優しいから。

人の心をその人の何倍も理解して、一緒に寄り添ってくれるから。

そんな君が、私はやっぱり好きだ。

君は可愛い。

君は優しい。

でも、それは私が君の「友達」だから。

君が、学校で「天使」という役割だから。

だから、私はこのままでいるしかないんだよ。

――君が、君を見つめたまま動かない私を訝しげな、というより心配した優しい目で見る。

君と私は、友達だから。

でも、この想いは隠しておかなきゃ。

だって、君がみんなから嫌われちゃうかもしれないから。

1人になっちゃうのは、絶対嫌だから。

この想いは、胸の内に。

私は君に笑顔をうかべる。


「なんでもないよ。」

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