第8話

その女性は、一か月の休職の後、仕事に復帰しました。あなたは店を閉じてしまいました。

ある日、その女性が仕事から帰ると、やけに家の中が静かでした。

その女性は胸騒ぎを抑えながら、暖かな電気をつけました。

『私はこの世界を変えることはできなくても、壊すことはできると思うのです』

暖かに照らされた食卓には、そのメモと、あなたが作ったチョコブラウニーだけが残されていました。


その女性はチョコブラウニーを貪りました。


音緒、音オ…。


一時間後、その女性は職場に呼ばれます。

コンピューターウイルスの兵器を持った男が、カスミガセキプログラムのある、議事堂に侵入しようとした。センサーに引っ掛かり、全自動警備員によって身柄を確保され、既に公安局に運ばれた。

これは重大事件だから、もしかすると、うちの仕事になるかもしれないと。

「この国の中枢を担う政治プログラムを破壊しようとした。立派なテロ未遂だ」

あなたは裁判プログラムに沿った判決を、人間の判事から受けました。

「罪状は国家に対する反逆罪。刑はダムナティオ・メモリアエとする」

そして、この技術を保持、管理している、国立科学協会の調印も押されました。

この刑は重大な責任を伴うので、人間が執行することが決められています。


私は国立科学協会の職員であり、執行プログラムに選ばれてここにいます。




私はあなたのことをほんの一部しか知らないでしょう。

こんな十分そこらで読めてしまう、確認なんて、あなたの人生の、ほんの一部も語り切れないでしょう。


あなたはこの瞬間まで、この世界に存在しました。

そしてこの先も、全ての情報機器からあなたの名前が消え、全ての人間に忘れ去られたとしても、あなたはこの世界に存在し続けます。


あなたは誰かの存在によって存在している、プログラムではないからです。

あなたはあなた自身によって存在しています。


それに、私は…


音オ、ネオ…。



あなたの全ての記録は抹消されました。

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