第4話
その女性はあなたに、ことあるごとに声をかけます。
「あなたどの授業にもいるのね」
あなたは無視をしたくはなかったので、ひどく困りながら、「はい」「いいえ」などと答えます。
「いったいいくつの授業を取っているの?」
「…全部」
あなたは「はい」か「いいえ」で答えられない質問にはさらに困った顔をして答えます。
「あなたは時間を操れるの?」
その女性は目を見開いて聞きました。
「いいえ」
その女性は笑いました。その笑顔で、あなたはその女性を好きになりました。
あなたは好きになった瞬間に、罪悪感に苛まれることになりました。
自分のような人間がこのような感情を持っていいのか。
そもそも単為生殖技術が発達している社会で、性欲のない者も多い世代と言われている中で、恋愛感情を持つというのはやはり野性があるということなのではないか、という思考に陥ります。
あなたは精神を落ち着かせるために、チョコブラウニーを作ります。
第四教育所に入ってからは、寮に帰るとすぐに、お母さんがいつも作っていたチョコブラウニーを、思い出の断片を掘り返して、何度も失敗して、レシピに書き起こしていました。
授業の合間の休憩時間、講堂で、チョコブラウニーを食べていると、その女性は近づいてきました。
「それは何?」
その女性は、あなたが「はい」か「いいえ」で答えられない質問にはさらに困った顔で答えるということに気がついていたので、わざわざそうやって聞きました。
「…チョコブラウニー」
あなたは口をもごもごと抑えながら答えました。
「それ、一口もらってもいい?」
「はい」
あなたはチョコブラウニーを、あなたが口をつけた方と、つけていない方に割りました。そして口のつけていない方を、その女性に渡そうとしました。
その女性は、素早くあなたが口をつけた方のチョコブラウニーを取り、ぱくりと口の中に入れてしまいました。
「私はあなたのことが好きです」
あなたは脳より先に口が動いてしまったようで、しばらく呆然とした後、自分の発言に驚いていました。
「私もよ」
そしてまた、その女性は笑いました。あなたはまた、その女性を好きになりました。
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