個人より思想が優先される筆致、また物は沢山出(あ)るのに本当の意味で名前がある物が、この話にはほぼない。その筆致が示す書割感こそが拭えない嘘臭さとして作用しており、書かれてる事は真っ赤な嘘という趣に沿った面白い作品だった。つまり割り切っているし、捨て切っている。
物を捨てる/捨てないの価値観を巡る語りの面白味に凹凸──多分意図的?──があったり、話を総括するような”なんとなく”良い響きの言葉が文節の度に連続する感覚。著者のつまりこれがエッセイ的な態度が伺えて、嘘を通した思考実験的な側面もある。これが連載なのはちょっと嬉しい。
エッセイとは真実を土台に書かれるべきものである──という決まりはないが、嘘が前提とすれば楽しみ方も変わる。本文同様に意図して整理されないセンテンスの積み重ね繰り返しが個人性を煙に巻く節も感じさせ、結局 個人の実像がぜんぜん見えない後味は好みでないが読物としては尖ってて好きだ。