第32話ー恋バナ


「その顔アホっぽい」


「なによー!笑うんじゃないわよ!」


「ごめんごめん」


 アホ面を晒している綾華に陽葵が笑うと、ぷりぷりさせながら綾華が怒り、陽葵はそんな綾華が可愛いなと内心で思いながら謝った。

 謝った陽葵がゆっくり立ち上がると、温泉から出ながら綾華に言う。


「もうそろそろ、髪洗って上がろうぜ?」


「そうね、そうしましょうか」


 賛同した綾華が温泉からザバーっと出ると、待ってる陽葵と二人で洗い場に行った。

 洗い場に着いた二人はバスチェアに座ると、シャンプーを手に出して良く馴染ませ、手の平の先の部分、指の腹で頭皮を洗う。

 その間、二人の間に訪れた静寂の中で先に口を開いたのは綾華の方だった。


「ねぇ陽葵」


「ん?なにー?」


「えぇっと……陽葵がさ、樹が私に好きだって言ってた言ったじゃない?」


「うん、言ったね」


「そ、それってさ……本当なのかしら?」


 頭を洗いながら、か細い声で聞く綾華。

 そんな綾華の表情は、泡立っているシャンプーで見えない。

 そんな綾華に、陽葵は真面目に答える。


「本当だよ。嘘じゃない」


「そっか……ふふ」


 質問を真面目な声の陽葵に肯定されると、綾華はちょっと下の方を向いては嬉しそうに呟き、シャンプーをシャワーのお湯で流し始める。

 しかし、嬉しそうだった綾華からは次第に、シャワーの音に隠れていた鼻を啜るよう音と、しゃくりあげるような声にならない音が聞こえて来た。


「なんでかしらね……前が見えないわ……」

 

「あたし達三人にはね、嘘をつかないで正直になって良いんだよ?強がらなくたって大丈夫。怖くなったら三人で一緒に居てやるし、辛くなったら三人で一緒に支えてやるからさ。ね?」

 

 シャワーのお湯に打たれながら両手で顔を隠し、前が見えないと言う綾華の隣に、陽葵はそっと寄り添っては綾華の頭に手を載せた後そっと撫で、優しい声で諭す。

 そこには、長い時を共に過ごした幼なじみであり、互いが互いを尊重し合う大親友であり、互いが互いの気持ちを真に理解出来る同じ性別である二人だからこその想いが存在したのだ。

 そんな心にそっと寄り添うような陽葵の優しさに絆された綾華は、一言一言を精一杯振り絞るようにゆっくりと話し出す。


「私さ……陽葵みたいに、明るくも……身長が高い訳でも無くてぇ……」


「うん」


「可愛い女じゃ、ない、からぁ……き、きっと樹も……良い所が無い私より…………」


「うん」


「ひっ、陽葵の方がぁ……す、好きなの、かなって……思ってて……」


「うん」


「でも私、諦めの良い女でも……私を、好きじゃない、相手に告白、出来る程ね……つっ、強く、なくて…………」


「うん」


「でもね。陽葵が……樹が、私のこと、好きだって……両想いなんだ、って……そう、言ってくれたから……死んじゃう位にね、嬉しかったのよ……」

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