第31話ー妄想
「まぁまぁ……おあいこ、おあいこ」
溺れそうだったと苦言を呈す綾華に、陽葵は笑いながら宥めた。
笑ってでた涙を人差し指で払う陽葵に、ハムスターみたいに頬を膨らませてムスッとした綾華はプイッとそっぽを向く。
「ぷいー……おあいこじゃないわよ」
「そうかな?……そうかも?」
「むすぅ……」
「ごめんてぇ……蒼のことは嫌いになっても、あたしのことは嫌いにならないでぇ~」
「「ぷっ……あははははは!」」
可愛らしい顔で、むすぅ……とする綾華に陽葵は抱きつき、ムスッとした綾華の膨らんだ頬に自分の頬を擦らせながら謝った。
その謝罪の内容が自分の意中の相手を売るモノで、冗談めいて言う陽葵に綾華は笑い、頬を擦られてて満更でもない綾華に陽葵はおかしくなって笑ったのだ。
「陽葵ったら、好きなくせに蒼を売るんだから」
「綾華こそ、あたしに頬擦りされて満更でも無さそうに喜んでたよー」
「いつもの四人ならそうね……蒼以外なら何でもないわ」
「蒼に同情の涙が……って!樹にされたら鼻血吹いて気絶するんじゃね?!」
「確かに……何でもなくは無いわね……」
顔を真っ赤にしながら顎に手を当てて、何かを妄想しているのか目を瞑っている綾華に、ニヤニヤとした笑みを浮かべる陽葵が耳打ちする。
「僕、綾華のこと愛してるよぉ……」
「ひゃんっ!!」
樹の声真似をしながら、陽葵は囁くように告白する。
それを豊かな妄想によって樹に変換させた綾華は、ビクンッ!と身体を反応させた。
「スリスリ……」
「いやんっ!」
手を頬に当てて恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに綾華は顔を横に振る。
「スリスリスリ……」
「きゃっ!やめっ……」
妄想の中で樹に押し倒された綾華は、乙女な反応をしながら身体を火照らせた。
「スリスリスリスリ……」
「そんなスリスリしないでぇ!!…………みっ」
綾華を押し倒して頬をスリスリした樹が、急に男らしい顔と目付きで火照ってる綾華を見つめるものだから、妄想の世界だけでなく、現実の綾華も温泉を囲む石にもたれかかって気絶した。
「すぅ…………やり過ぎたか……」
大親友を気絶させた陽葵は反省しつつ、綾華の顔をペチペチする。
「おーい!起きろー!ここで死んだら、相思相愛な樹が悲しんじゃうよー!」
「はっ!相思相愛!?」
相思相愛という言葉に釣られた綾華は無事目を覚まし、樹のことを探しているのかキョロキョロする。
「お、おかえり〜」
「ただいま?」
キョロキョロする綾華に陽葵はくすりと笑いながら現実への生還の挨拶をすると、アホ面を晒しながら困惑している綾華が返事をした。
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