第26話ーニャル様


 可愛いところあるじゃない。と微笑んだニャル様が蒼の隣のバスチェアに座ると、シャワーからお湯を出して髪を洗う。

 肩まである白の綺麗な髪にお湯が滴る姿は何とも言い難く、その美しさは女性のそれだ。

 それを横目に見る蒼はニャル様の「ジロジロ見てどうしたの?あれれーもしかしてぇ、惚れちゃったかにゃー?」の一言に無言を決め込み、流し場に置いてあったタオルを右手に樹と一緒に温泉に浸かる。


「極楽やぁ~」


「身体に沁みるぅ~」


 タオルを頭に載せ足を伸ばし両手を広げて肘を温泉を囲む石の上に置いて寛ぐ二人は、何故か存在する青い空を眺めながら会話に花を咲かせる。


「ねぇ蒼……僕たち凄い経験をしてるよねぇ」


「そうだなぁ……神に拉致られて目潰し食らって、暇つぶしに付き合わされて……」


「でも、夜鍋して作ったっていうには謎解きのクオリティ高かくて楽しかったし、凄い時計貰って、その上こんな秘密基地まで……」


「あぁ……でも本人にこれ言ったらさ、絶対調子に乗るよな……」


「間違いない!」


 あははは!と笑いながら二人がニャル様の方を見ると、身体を洗い終わったニャル様と目が合うと、ニャル様は温泉の方に少しずつ歩いて来る。


「君たち、湯加減はどうだい?」


「凄く気持ち良いよ」


「風も感じるしマジで露天風呂って感じで好き」


「そうかいそうかい……なら良かったよ」


 ニャル様は満足そうな顔で、右足からゆっくりと温泉に浸かる。


「ひゃぁ~これ、気持ち良いねぇ。温泉とか初めてだけど、めっちゃ良いよぉ……とろけるぅ」


「温泉初めてなんだ?」


「ふにゃあ……温泉って言うか、君たちが言うお風呂?も入らないよぉ……」


「きたなっ……」


「汚いってなんだよぉ!!神ってのは概念であり、事象そのものだよ?汚いも何も……いや、この姿だと汚くなるか……」


 この姿だと汚くなるか……とボソボソ言うニャル様に対して、蒼は引っかかり質問し、ニャル様は何でも無いかの様に答える。


「この姿……って?」


「ん?あぁ……ボクはさ、元の姿ってのが無くて色んな姿になれるんだよ。千の貌せんのかおを持つ神とか言われてる位だからね」 


「へぇ……じゃあ俺達が知ってるニャル様は、本の一部ってことか……」


「まぁ、言っても姿だけだよ。それに、この姿結構気に入ってるし、多分ずっとこのまま」


「ふーん、そっか……」


 にへらと笑った蒼は照れ隠しの為か、口を温泉に付けてぶくぶくと泡を立てた。

 その姿を見た樹がくすりと笑ってニャル様に質問を投げかけると、蒼は温泉からバッ!と口を出して続ける。


「ふふっ。……そうだ!ニャル様って何の神様なの?」


「あっ!それ気になってた!皆で暇な神、暇神ひまじんとかって言ってたよな!」


「確かに言ってた!」


「暇神って、君たち酷いよね……自称神だとか、自分をニャル様とか書く痛い奴だとか……流石に傷ついたよ」


「まぁまぁ……ところでさ、今更だけどニャル様って呼んでいいの?皆、謎解きの時にニャル様って呼んで以来ずっと呼んでるけど……」 


「逆にニャル様って呼んでよ。愛称としても何か可愛いし、様ってついてるから神としての威厳も保てる」


「「威厳ねぇ……」」


「ちょっと!君たち!?」

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