第16話ー【干支の謎】鼬と猫


「まず謎解きの紙と、二つの赤い本を並べよ」


 無造作に置かれてたそれらを、蒼は机の真ん中にまとめて置いた。

 あちこちに置くよりも一箇所にまとめることで、それぞれのヒントを比較しやすいからだ。

 四人はそれぞれ並べられた三つのヒントを、少しずつ交互に読み解いていく。

 二三分くらい皆で熟考していると、蒼がハッとした表情で口を開く。


「なぁ、お前ら……」


「ん?」


「これさ……愚かな動物が猫で、狡き動物が鼠じゃね?」

 

「やっぱりそう思う?」


「それってさ『干支について』の、鼠は猫を騙し1月2日に来るように仕向けたり、その日の前から準備していた牛に隠れて1位になったり……って所のこと?」


「それプラス、『猫と鼠』じゃないかしら?『猫と鼠』に出てくる猫は鼠のことを目の敵にしてて、毎日のように鼠のことを襲っては鼠の小賢しい知恵で返り討ちにされて、結果としていつも愚かな結末を辿ってるもの」


「なんなら、時々仲直りして共闘するシーンがあったりするからね。そういう意味でも喧嘩した結果として仲直りする、この謎解きの問題とも噛み合ってるかな」


 三つのヒントから得られた根拠が重なることで、愚かな動物と狡き動物が猫と鼠であることがほぼ確定となった。


「んー……『猫と鼠』がヒントとして要らなかった様な気もなくはないけど、『干支について』だけの要素だったら愚か……というよりも、可哀想って感想だったよね」


「まぁ……騙されて神から恩恵を受けれなかったとか、愚かでしかないけどね。可哀想ではあるよ」


 正直な話、『猫と鼠』のヒントが必要だったか?と思わないでもない四人だったが、後押し様の根拠としての意味があったのだと思うことにした。

 そして、愚かな動物が分かったということは、必然的に優しい動物が分かるということでもあったのだ。


「背景ストーリーは兎も角、愚かな動物が猫ってことは、優しい動物は鼬ってことになったな」


「そうだね。十四位が猫、十三位が鼬、十二位が猪、とばして一位が鼠って感じ」


「じゃあ早速、銅像の位置直しましょうか」


「「「さんせー!」」」


 綾華の音頭に三人でのると、陽葵は蒼の肩を、綾華は樹の肩をポンと叩いた。


「「よろしくね!」」


「「……………………?」」


「あたし達女の子でぇーか弱いからぁ」


「重いの持てな~い」


「「だからよろしくね!」」


「「は?」」


 女の子だからとお任せ宣言する二人に、男子二人のイライラゲージはマックス寸前まで上昇していく、が……。


「あたしぃ……蒼が頑張ってるぅカッコイイ所、見たいなぁ?ダメ、かなぁ?♡」


「ふっ……全然ダメじゃないぜ。女の子なんだからゆっくり休んでてな」


 男とは好きな子に甘えられたら、頭を真っ白にして何でも頑張れちゃう悲しき生き物なのだ……。

 蒼、脱落。


「樹、ちょっとこっち来て?」


「絶対に僕はそんなこと許さないんだからね!」


 樹が怒りを顕にしながら綾華に近づくと、綾華が耳を貸してと合図する為、しぶしぶ樹が耳を貸すと……。


『樹。私の為に頑張ってくれたら、ご褒美あげる♡』


「ふっ……そこまで言われたら、仕方ないよね。ちょっと行ってくるよ」


「行ってらっしゃい!」


 好きな子の耳打ちだけでも気絶ものだが、それに加えてご褒美という言葉を聴き、やる気になってしまったのだ。

 樹、脱落。


 やる気に満ち溢れている哀れな男二人がせっせと銅像の位置を変えている間、女子二人は「「ちょろいねー」」と微笑みながら男二人を馬鹿にしていた。

 あれから十分くらい女子二人が雑談していると、馬鹿二人は汗を垂らしながら帰ってくる。


「マジで疲れたね、樹」


「ホントだよね、蒼」


「「おっふ……」」


 シャツの腹の部分で額の汗を拭く蒼の姿は、へそ出しも含めて色っぽく、陽葵の目と心を奪い。

 ハンカチで額の汗を拭く樹の姿は、もともとある可愛さとハンカチで拭くことによる謎のクールイケメン感が合わさり、綾華にとっての最強で最高のクール系美少年そのもので、高ぶる鼓動によって上がった体温により鼻血が溢れ出した。


「ん?陽葵、ぼーっとしてるけど大丈夫?」


「綾華!?鼻血なんて出して身体は大丈夫っ?!体調は悪くないっ?!」


「「だ、大丈夫…………」」


 呆然としている二人の目の前には……

 猫▶︎鼬▶︎猪▶︎犬▶︎鳥▶︎猿▶︎羊▶︎馬▶︎蛇▶︎龍▶︎兎▶︎虎▶︎牛▶︎鼠の順番に並べ替えられた銅像があった。


―――


○今ある情報


・紙とペン一本

▶︎紙は謎解きの問題

▶︎4人分無いのは不自然

▶︎ペンはカレンダーに印を付ける用?


・カレンダー

▶︎謎解き用アイテム

▶︎南側にある棚の中にあった

▶︎大きさは手持ちサイズで小さめ


・銅像

▶︎謎解き用アイテム

▶︎銅像の裏の壁に愚か者、優しき者、12位……1位とある

▶︎数ある干支物語に出てくる動物達だ

▶︎愚かな動物:猫

▶︎優しき動物:鼬

▶︎狡き動物:鼠

▶︎真っ直ぐな動物:?

A)猫▶︎鼬▶︎猪▶︎犬▶︎鳥▶︎猿▶︎羊▶︎馬▶︎蛇▶︎龍▶︎兎▶︎虎▶︎牛▶︎鼠


・神

▶︎ニャル様とは関係なさそう

▶︎動物の順位毎に恩恵を与える存在?

▶︎謎解きに必要な情報かは分からない


・猫と鼠

▶︎赤い本

▶︎ページ数は少なく、中身は絵本

▶︎いつもは宿敵な猫と鼠も手を取り合うことがあるらしい

▶︎何故『猫と鼠』がヒントになると蒼は思うのか?

(干支物語に出てくる動物だから)


【干支について】

昔、時間を決める時に使ったシステムであり、12匹の動物の名前が由来である。12匹の動物は1月から【鼠、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、猪】である。この順番は繁殖力の高い鼠が子孫繁栄を願われていたり、生活的に必要であった牛、虎のように勇ましくなれるように……等の意味があるがここでは割愛。ここでは12匹によってされたと思われる競走についての話をする。ある神様が月の名を決めるために、様々な動物を1月1日に呼んで競走させ、その中で取り分け早かった1位から12位の動物の名を使うことにした。結果は上の通りであるが、【鼠は猫を騙し1月2日に来るように仕向けたり、その日の前から準備していた牛に隠れて1位になったり】と、様々な事が起こったとされている。


【謎解き】

昔昔のこと、競走をした【14匹の動物】がいる。

その中の1匹は、【愚かな動物】。

その中の1匹は、【優しき動物】。

その中の1匹は、【狡き動物】。

勘違いした優しき動物は【神】の温情により報われた。

しかし、騙された愚かな動物には神の手は差し出されなかった。

愚かな動物は狡き動物を許さない。

怒った愚かな者は狡き者の銅像の順番を1番最後にした。

順番を弄った後、満足し愚かな者は帰った。

次の日【真っ直ぐな動物】が本当の順位に直そうとしたため、自分の動物を1番最初に置いた。

次の日順番が変わった自分の銅像を、狡き者は見つけた。

本当は1位なはずの自分が1番最後にいて、そうでない動物が1位にいることに怒り、全体的に変更させた。

次の日全体的に順番の違う銅像を優しき者が見つけた。

優しき者は何も言わずに元の順番に戻した。

それを見て遊び心の沸いた【ニャル様】が順番をバラバラにした。

順番がバラバラになってる銅像を見て全員喧嘩した。

特に愚かな動物と狡き動物の喧嘩は酷かった。

月の出る夜、狡き動物が怒り狂った愚かな動物に傷つけられた。

日の出る朝、優しき動物が狡き動物の怪我を見つけた。

優しき動物は悲しんだ。

皆に狡き動物が怪我したことを伝えると、愚かな動物にすぐ白羽の矢が飛んでいった。

愚かな動物はすぐに後悔し、認めた。

もうこんな争いは起きてはいけない。

だから仲直りした、皆全員で。

この日は皆で手を取って楽しく笑った。

1年に1回は絶対楽しくしよう、皆で誓った。

しかし仲直りしていつも楽しく過ごしていると、その日のことを忘れてしまったのだ。

思い出した者は【カレンダー】に、私達の物語の起源となったその日に印をつけて欲しい。

そして、【銅像の位置】が違う時は直してやって欲しい。

さすれば新たな道が貴方の前に現れるだろう。

1つ忠告するのならば、まずは【月日の主】を探すが吉。

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