第8話


カイザーの手の内はわかっていた。


カイザーは、その初心者狩りという異名からも分かるようにとても小狡くて卑怯な性格をしている。


戦い方にもその性格が反映されていて、いろんな搦手を使ってくる。


(カイザー…お前はまず最初に、『おいなんだ、あれを見ろ!』という…)


俺は某有名キャラクターの口癖のようなことを頭に思い浮かべながら、カイザーを見据える。


カイザーがニヤニヤしながら距離を詰めてき

て、一歩踏み込めば拳が届くという距離になった時に不意に俺の頭上を指差した。


「おいなんだ、あれを見ろ!」


「…」


俺はカイザーが指差した方向をわざと見る。


もちろん、カイザーの魂胆はわかっている。


こうして俺がよそ見をしている間に、俺に攻撃を加えて一気に畳み掛けるつもりなのだろう。


俺はそんなカイザーの狙いを知っててわざと引っかかってやった。


(カイザー。次にお前は「かかったな!この間抜けが!」…という…)


「かかったな。この間抜けが…!」


カイザーが殴りかかってくる。


完全に予想していた俺は、カイザーの拳を手のひらで受け止める。


パシ…!


「なっ!?」


カイザーの目が驚きに見開かれる。


俺はそのまま受け止めたカイザーの拳を握り、捻りあげる。


「あだだだだだだだだだ!?!?」


カイザーが悲鳴をあげて跪く。


「お、お前ら…!助けろ…!」


涙目になったカイザーが、助けを求めるようにそう叫んだ。


次の瞬間、背後から二人のハンターが俺に襲いかかってきた。


卑怯なカイザーは、万が一自分が負けそうになった時の保険として、こうして取り巻きの中に仲間を潜ませているのだ。


そのことももちろん予想していた俺は、背後から殴りかかってくる二人の攻撃を交わした。


そして二人に対してそのまま足払いをかける。


「うおっ!?」


「うぇっ!?」


二人が前につんのめり、地面に転がる。


どよめきが起こった。


ハンターたちが驚いた表情で俺のことを見ている。


「まだやりますか?」


俺はカイザーと仲間の二人に聞いた。


「この野郎…!」


「舐めやがって…!」


「調子に乗るなよルーキー!!!」


いっぺんに殴りかかってくる3人。


俺は「面倒だなぁ」とこぼしながら、応戦する。





「「「…」」」


ハンターギルドで起こっている馬鹿騒ぎを遠くから観察しているハンターたちがいた。


彼らはルーキーに喧嘩を打ったり、くだらないいざこざを楽しんだりするような趣味のない、上級ハンターたちだった。


彼らはこの馬鹿騒ぎに加わっている底辺のハンターたちとは違い、鑑定魔法が使えるので喧嘩を売る相手を間違えることはなかった。



= = = = = = = = =


名前:ヒビヤ・リンタロウ

種族:ヒューマン

レベル:120

攻撃:100050

体力:150080

敏捷:80300

防御:120000


= = = = = = = = =


彼らにはしっかりとヒビヤの化け物じみたス

テータスが見えていた。


自らが相手にしているルーキーがレベル100を超えている化け物だと知らずに喧嘩をふっかけている初心者狩りのことを、上級ハンターたちは気の毒な目で見つめていた。


初心者狩りは、案の定、卑怯な作戦を全て看破され、圧倒的な力差の前に膝を尽かされ、最後にはなりふり構わず3人で挑みかかったが、30秒と持たずに意識を失って床に転がることになった。


上級ハンターたちは、そんな様子を離れたところから静かに見守りながらそれぞれの考えを思い浮かべていた。


(レベル100越えのルーキーか……何者なんだ…)


(どこかの有名な騎士か…?しかし、あれだけの強さなら名前ぐらいは聞いたことがあって良さそうなものだ…)


(このギルドにあいつを超えるレベルのハンターが何人いただろうか…)


(初日にドラゴンの牙を持ち込んだらしいが……おそらく本当だろうな。そしてそのアイテムは、盗んだわけでも貰ったわけでもなく、自力で手に入れたのだろうな…)


(ハンターライセンスを取らずに今日まで何をしていた…?)


(あいつをなんとかしてうちのパーティーに迎え入れることが出来ないだろうか…しかし平均レベルが80程度の俺たちのパーティーなんざに見向きもしてくれないだろうな…)



ヒビヤの素性を探るもの。


そのレベルと強さを畏怖するもの。


パーティーに勧誘しようと企むもの。


上級ハンターたちは、さまざまな思惑と共に、一切声を出すこともなく、静かにヒビヤを観察しているのだった。





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死ぬほどやり込んだゲームのラスボス部屋に初期装備でスポーンした件 taki @taki210

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