第7話


「さて…装備も整えたしいざ、クエストに行きますか…!」


ラスファンの世界に転生して三日目。


昨日マルゴルの武具店で購入した防具と武器を身につけて、俺はハンターギルドへとやってきていた。


今日から本格的にハンター生活を始めようと思う。


別に昨日バハムートから取ったドラゴンの牙を換金したお金があるので、しばらくは遊んで暮らしたりもできるのだが、他にやることがない。


街を観光しようにも、ラスファンのマップはほぼ全部頭に入っているし、新鮮さも三日目ともなると薄れてくる。


なので俺は何か他にやりたいことができるまではひたすらクエストを受け続け、お金を貯めることにしたのだ。


バタンと両開きのドアを開いてギルドの中に足を踏み入れる。


「ぶふっ」


「おいみろあれ…」


「なんだあの装備…」


俺がハンターギルドの中に入ると、何故かや

たらと注目を集めてしまった。


ハンターたちが俺を指差して笑いを堪えている。


「…?」


俺は何か変だろうか。


至って普通のハンターの見た目だと思うのだが。


「おいおい、なんだその装備は。ふざけてんのか?」


「…?」


俺がハンターたちの視線を疑問に思いつつ、奥にある受付へ向かおうとしていると、突然背後からそんな声がかかった。


「お前、噂になってる新入りだろ。ドラゴンの牙を換金したって本当か?一体どうやってドラゴンの牙を手に入れた?まさかそんなダサい剣でドラゴンを倒したってわけじゃないよな?」


「あぁ…そうか、そういうことか」


振り返るとなんだか軽薄そうな男が立っていた。


吊り目で金髪。


痩せて、チンピラみたいな格好をしている。


俺はその男の顔を見た瞬間に、なんとなく何

が起こったかを察してしまった。


どうやら面倒なイベントが発生してしまったらしい。


「初心者狩りのカイザーとの戦闘……ハンターギルドに入ることで一定確率で発生する経験値稼ぎのイベントだよな……はぁ、面倒臭い。序盤ならまだしもこのイベント、後半になっていくにつれて鬱陶しくなるんだよな…」


「あ?何ぶつぶつ言ってんだ?」


金髪の軽薄そうな男が俺を睨みつけてくる。


この男の名前を俺は知っている。


こいつの名前はカイザー。


ハンターギルドで初心者狩りという名前で呼ばれているハンターだ。


こいつはハンターライセンスを獲得したばかりの駆け出しハンターにこんな感じで絡むのを趣味にしている嫌なやつだ。


カイザーに絡まれるこのイベントは、ラスファンではかなりプレイヤーから嫌がられていた。


時間はかかるくせに得られる経験値が少ないからだ。


経験値が非常に貴重な序盤ならいい。


でも中盤から終盤にかけては、ぶっちゃけこのイベントは時間を食うだけの邪魔な存在だ。


何故ならある程度レベルが上がり、キャラが強くなると、モンスターと戦った方が普通に経験値を得られるからだ。


ゆえにラスファンのプレイヤーたちに、カイザーは非常に嫌われており、“かっさん”という蔑称まで付けられている始末だ。


「はぁ…あの、俺に何かようですか…」


ラスファンの知識があるだけにこの後の展開を知っている俺はうんざりして思わずため息を漏らす。


「てめぇ、さっきから態度が生意気なんだよ。駆け出しハンターのくせによ。どうせドラゴンの牙だって誰かから盗んだか貰ったかしたんだろ。弱そうだし、装備もダサすぎて話にならん。俺と勝負しろよ」


「…」


なんでその文脈で勝負するという話になるんだ。


俺は呆れてものも言えなくなる。


「俺がハンターを舐めたテメェの根性を叩き直してやるよ。これは特別レッスンだ。感謝しろよ?」


「断る選択肢は?」


「あるわけねえだろ」


カイザーが周りを見ろと言わんばかりに顎を

しゃくった。


何名ものハンターたちが、下衆な笑みを浮かべながら俺を取り囲んでくる。


彼らの表情からは、俺がカイザーにしばかれているところが見たいという欲望が見え見えだった。


どうやらカイザーとの勝負は避けられないようだ。


俺はもう一度「はぁ」とため息を吐き、降りかかった火の粉は払わねばならないと諦めの境地に達する。


「互いに武器は無しだ。男と男の勝負だからな。文句ないだろ?」


「わかったよ」


俺は防具を脱いで武器を捨てる。


カイザーも同じようにした。


「やれカイザー!」


「新入り、根性見せろ!!」


「すぐにへばったらタダじゃおかないからな!!!」


「ははは!!カイザー思いっきりやっちまえ!!!」


「なんだ、またカイザーが新入りいびりをやってるのか。ほどほどにしとけよ!!」


「見ものだ見ものだ!!!」


「おい、噂の新人とカイザーがやるぞ!!集まれ集まれ!!」


ハンターたちは勝手にどんどん盛り上がっていき、見物人が見る間に増えていく。


「へへへ…思い知らせてやるぜ」


カイザーが俺を見てニヤリと笑った。


俺はこんな茶番をさっさと終わらせたかったので、早くかかってきて欲しいとしか思わなかった。

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