穴場中の穴場で釣りをする会
瓜頭
通称アナ会
「今日はまた一段と訳わかんないところだな」
いつも通り杉村の案内で行われる【穴場中の穴場で釣りをする会】、通称【アナ会】が、しめやかに取り行われている。ちなみに会長が杉村で副会長がオレ。イカれたメンバーは以上だ。
湖のど真ん中。小さなボートでぽつんと浮いている。
今日は月明かりがあるが、それでも深夜の湖面と森の境界は真っ黒に溶けて曖昧だ。何よりもこの無音。杉村の身じろぎの音しか聞こえない。
「いや、まぁ来るのは大変だけど、やる事はいつもと一緒だよ」
「それはそう」
学生時分からの付き合いで、人生の三分の一くらいを一緒に過ごした。毎日一緒に遊んで、バイトも一緒。なんなら好きな女まで被ってそれはもう揉めた。それでも友達。たぶんコイツと縁が切れることはないだろう。
ここは何が釣れるんだろう。基本的に事前の情報共有は大雑把にのみ行われる。杉村も「釣れる」という情報以外は極力仕入れない。現場で獲物の気分を推理するのも楽しみのひとつだ。
「飯田、あのー前回釣れたアレなんだっけ」
「あーなんつったかな。訳わかんないデカいヤツな」
手に余って逃したが、写真が撮れたので調べたんだった。
「訳わかんないの釣れるのが一番笑う」
「アレは面白かった」
現場で起こる予想外の出来事が何よりも楽しい。だからオレ達は出来るだけ事前に調べない。車で敢えて寝るオレに至っては何県に居るのかも分からない。
ちゃぷ。
水音がした。かかったか?
「早いな。幸先いいぞ」
どこから音がした?
振り向くと、杉村は身を乗り出して、すぐ下を覗き込んでいる。
「見えたか?」
「なんか居る」
見ると、船べりに捕まる人間の手がある。
白い、女の手に見える。
真っ黒な湖から、まっすぐ伸びて、ボートを掴んでいる。
「……あ」
手は、乗り出した杉村の肩に触れそうな位置だ。
ギシ。
湖面から、ゆっくり人の顔が迫り上がってくる。
「き、来た。なかなか熱いの釣れたな」
写真が撮れるだろうか。肉眼ではっきり見えてもスマホで同じようにはなかなか撮れない。
「杉村、顔、どうだ。見えるか? グロ系?」
杉村は、女の霊と殆ど見つめ合うようにして固まっている。久しぶりだからちょっとビビってるか?
「おい杉村」
ちゃぷ。
「杉村」
「飯田」
「久しぶり」
あ。
「飯田。どういう事だよ。なんで由里子が」
杉村の頭に向かってハンマーを思い切り振り抜く。間髪入れずに何度も。ここでためらうとこっちが怪我をするから。
「長野だったか」
穴場中の穴場で釣りをする会 瓜頭 @maskedmelon
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