第17話 いざ鎌倉!

ーーー西暦202☓年8月 鎌倉市O駅ーーー


 電車に揺られておよそ1時間と少し、乗り換えの為に電車を降りた“黒キ剣”一行は、人混みの窮屈さから解放されて一息つく。


「わぁ〜おっきな観音様だねー」

「あれが有名な鎌倉大仏ですか」 

「違う違う」


 駅から見える巨大な観音像に驚きながら、改札口を通ってモノレールに乗り換える。


「鎌倉市と言っても市街ではないんですね」

「そうそう、まあこの時期の鎌倉駅は笑えないくらい混んでるから有り難いけどね」

「完全に山の中だねー」


 観光客よりも地元民の足となっているモノレールに乗った三人は、終点よりいくらか手前の駅を降りると、目的地である鍛冶師の工房へと歩き出す。


「そういえば、あのモノレールの終点ってスラムダ○クの聖地なんだってさー」

「ああ、映画が大ブレイクして観光客が激増したらしいねえ」

「江○電がすし詰め状態らしいですから、モノレールが有って良かったですね」


 暑さを誤魔化すように、三人は他愛もない話題を話しながら緩やかな坂道を登ってゆく。

 かつて武士の都が存在した天然の要害を形作る山の一つにあるという工房を目指して。


 周囲に民家が見えなくなり、青々とした木々が視界を隠す中、三人はようやく目的地へと辿り着いた。

 それは塀に囲まれてはいるが、寂れてこじんまりとした日本家屋。庭は荒れ放題で雑草が生い茂り、奥に見える蔵を改造した鍛冶場が無ければ廃墟だと言われても信じてしまう。


「おばけが出そうですね」

「ゴーストって剣で斬れるのかなー?」

「そこは斬れないでおこうよ、人として」


 雰囲気のある家屋に若干ビビりながら、銀羽を先頭に三人は呼び鈴を鳴らす。


「どういう人なのかなー、やっぱり偏屈な雷爺さんとか?」

「どわーふ、みたいなずんぐりむっくりのおじさんかもですよ?」

「僕もやり取りはメールだから顔見るの初めてなんだよねえ」

「悪いが、対して面白い風貌じゃねえぜ?」

「「「!?」」」


 家主が現れるまでその姿を予想していた三人は、扉を開けた人物の姿に目を見開く。

 

 玄関の扉から現れたのは、紅蓮達とそう歳の変わらない青年だった。

 黒い髪は鍛冶仕事の影響か少し赤みがあり、目つきは悪い。声も低く、先に鍛冶師だと知らなければヤンキーの類にも見えただろう。


「あんた達が”黒キ剣“のメンバーだな?」

「あ、ああ。すまないね、失礼な事を言ったみたいで」

「気にすんな、まあ期待に添えない見た目なのは自覚してる。それに…」

「…?」


 青年は肩をすくめ、ニヤリと笑う。


「あんたがしおらしく謝るなんて珍しいものが見えたしな、

「「「!!?」」」


 性別も年齢も、何もかもが異なるはずの銀羽のを突然言い当てられ、銀羽は臨戦態勢をとり━━


「あれ…もしかして、!?」

「おう、久しぶりだな


 青年の正体に気付いた紅蓮の声に、生前の名前カシウスを呼ばれた青年は気さくに手を挙げた。



 

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