第16話 お前ら人間じゃねぇ!
ーーー西暦202☓年8月 冒険者酒場 ヤマト ーーー
銀羽はビールを、下手にアルコールを飲むとそのまま寝落ちしそうな紅蓮と百合子は麦茶を飲み、一心地つく。
紅蓮は唐揚げ定食を、百合子は雑穀雑炊を、銀羽は山盛りの焼き鳥を食べながら、今回の成果と今後の方針を話し合う。
「さて…この一月頑張った結果、あの2,3回このペースでモンスターを狩れば僕達はDランクに昇格出来る」
「わーい」
「思ったり早かったですね」
「元々Eランク自体は仮免期間で、真面目にモンスターを倒していけばすぐに昇格できるからね。規定上は」
因みに、やはりモンスターを殺すことに抵抗感を覚える冒険者ビギナー達の多くがまずここで躓く。
そもそも、Eランクに成りたての素人は余程の事がない限り雑魚とはいえ連続で100体弱のモンスターを狩るのは難しい。実力ではなく、精神的に負担が大きいためである。
幸いな事に、前世だとモンスターどころか同じ人間を万単位で殺戮した
「ねえ銀羽、ランク上がったら訓練は…?」
「流石に第二層以上ではやらないけど、現状だと真面目にダンジョンに潜るのは3回に1回程度にして、残りは訓練だよ?」
「そ、そんなぁ〜…」
「おじ…銀羽、いくら何でも慎重過ぎませんか?」
消沈する紅蓮を横目に、百合子もまた困ったように銀羽に尋ねる。
「現状だと赤字とは言えませんが、明らかに利益は少ないですし…私や銀羽は兎も角、アルバイトを減らした紅蓮には経済的に厳しいのでは…?」
「それは分かってるとも。ただ、もうボクは甘い見通しで君達を危険に陥らせたくない」
銀羽は普段のおちゃらけた笑顔を引っ込めて、真剣な顔になる。
そこには、かつて万の軍勢を率いて祖国を守った英雄の深い叡智と、守るべき
「紅蓮は
「…りょーかい、ししょ…銀羽」
「承知しました」
銀羽は基本的に信用も信頼も出来ない腹黒愉悦部な存在だが、その叡智と極々稀に見せる気がする身内への優しさを理解している紅蓮達は素直に納得する。
「まあ修行についても割と順調だから良いとして、ランクが上る前には目処を立てておきたい問題がもう一つある」
「僕の剣だねー…」
「協会の整備班の人が苦情を言ってましたね…よくここまでボロボロになるまで使い込めるなって」
「普通なら人肌も斬れないくらい鈍ってもゴブリンの首が綺麗に刎ねられてるからねえ」
「そこはまあ
「ぐ、紅蓮が難しい慣用句を!?」
「ツッコミ所はそこじゃないよ百合子!?」
前世の夫の教養に対して地味に評価が厳しい百合子に、弟子の成長を中途半端にしか知らず死んだ
「紅蓮なら剣の形さえしてれば人を斬れますから」
「そういえば木剣でリリー…じゃなかった百合子を狙った暗殺者の首を刎ねたことあったなー…」
「昔の君、本当に人間かね?」
「ししょ…銀羽に言われたくないよー!?」
自分を抹殺するために送り込まれた暗殺集団を口先だけで仲違いさせ、目の前で殺し合わせた叡智の怪物に、
「まあとにかく、紅蓮にはちゃんとした剣を使ってもらわないと、結局負担が増えちゃうわけだ」
「ですね。節約できるならきちんと体力は温存しないといけません」
「面目ないー…」
体力の無さに落ち込む紅蓮を元気づけるように、銀羽は豊かな胸を張る。
「まあ任せたまえ。実は君が今使っている長剣の製作者を突き止めたんだ!」
「え、本当!?」
冒険者の使用する武器は、多くが所謂ハンドメイドであり、そうであるが故に日本では良い武器は日本刀やその技術を使用した武具(薙刀など)に偏る。
そんな中で、西洋系の刀剣を作ることのできる鍛冶師は希少であり、銀羽の情報収集能力を以てすれば容易ではある。
「どうやら向こうも興味を持ってくれたみたいでね、アポイントは割と簡単にとれたよ」
「流石だねー!」
「凄いです、銀羽」
「アッハッハ、もっと褒めたまえよ!」
珍しく素直に褒められた銀羽は上機嫌にジョッキを空にし、追加のビールを大量発注して翌日二日酔いに苦しむ羽目になる。
そして翌週、“黒キ剣”の面々は揃って、鎌倉にある件の鍛冶師の工房を訪ねることとなった。
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