第15話 冒険者酒場 ヤマト 

ーーー西暦202☓年8月 冒険者酒場 ヤマト ーーー


 日本国内に14カ所存在する異界ダンジョンは未攻略、攻略済みに関わらず全てが日本ダンジョン協会の管理下にある。

 未攻略ダンジョンには出張所が、攻略済みダンジョンには支部が設置されダンジョン及び冒険者の管理を行っている。


 これは冒険者達の回収した魔石やドロップアイテムの買い取り、武具防具等冒険者にとって必要となる物品の販売及び整備の他にも、簡易の宿泊施設に入浴施設、そして飲食施設の運営などのサービスが含まれている。


 特に食事については、命懸けで金を稼いできた冒険者達を労り英気を養うため、そして裏の目的として人外の力を得てしまった彼らが、モンスターとの殺し合いで神経を研ぎ澄ましたまま通常の飲食店に向かい、余計なトラブルを起こすことを予防するためという側面ももつ。

 およそ20年前、未だ『新宿ラビリンス』が攻略半ばな時期に現在のダンジョン協会会長ギルドマスターが、戦史における軍隊と民間との摩擦や炭鉱街の発展等を例とした膨大なレポートと共に協会直営での冒険者サポート施設の運営を提案し、各省庁や政治家達との丁々発止の激論の末に冒険者へのサービス業予算をもぎ取った。


 現在は魔石やドロップアイテムの売却益の数%分を徴収し、様々なサービスの充実に充てられている。

 なので協会直営店は冒険者免許さえ提示すれば格安で美味い酒と食事が提供される。


 かくてこうして、旧新宿駅に店を構える冒険者酒場1号店『ヤマト』は、今日も今日とて仕事終わりの冒険者と仕事はしてないけど飯だけ食いに来る冒険者で賑わっていた。



「つーかーれーたー…」

「疲れ…ました…」


 ロッカールームで着替えを終えてシャワーを浴びた紅蓮と百合子は、弱々しい声で酒場のテーブルに突っ伏す。

 

「うーん労働の後の一杯は最高だねえ!」


 そんな二人の前で、ピンピンしている銀羽がビール片手に焼き鳥を食べている。


「お、紅蓮君に百合子ちゃん、ご苦労さん」

「二人共大変だね〜」

「おい紅蓮、銀羽ちゃんが元気なのに情けねえぞ!」


 そんな三人を、すっかり顔見知りになった先輩冒険者達が慰めたり煽ったり。


 三者三様にコミュ力が高いお陰か、それとも質の悪いナンパを身体を張って止めた紅蓮の勇姿のお陰か、早期に受け入れられた三人は、こうして酒場に来ると常連達がよく話しかけてくる。


「皆聞いてよぉ〜…銀羽がスパルタ過ぎるんだよぉ〜」

「常時…60キロの重りは…辛い……です」

「よく生きてんなお前ら…」

「いくら第一層でも気をつけないと協会から注意されるよ?」

「だがよ、銀羽ちゃんはケロッとしてるぜ?」

「「あれは規格外なので」」


 真顔になった紅蓮達に銀羽が詰られるまでが最近のワンセットである。


 そうこうしている内に紅蓮達の分の食事も届き、冒険者パーティー“黒キ剣”の反省会が始まった。


 

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