第14話 スパルタ

ーーー西暦202☓年7月 新宿ラビリンス 第一階層ーーー


 現代日本において、冒険者とは異界ダンジョンに挑みモンスターを狩り、そのドロップアイテムや魔石を回収する存在と定義される。

 ただし当然ながら、その中にも階級が存在する。


 最低ランク、試験を合格したばかりの『冒険者』はEランクから始めることになる。

 最高ランクであるSランクは未攻略ダンジョン攻略者に与えられる称号であり、これを例外とすればAランクが通常の冒険者の目指すべき果となるだろう。


 それぞれのランク毎に、挑む事の出来る異界ダンジョンの階層や時間に制約があり、未攻略ダンジョンの最下層まで自由に行き来できるAランクから、攻略済みダンジョンの第一層までしか進めず、更に挑戦できる時間も週に数時間程度なのが最底辺のEランクである。


 ちなみに、日本ダンジョン協会においては、冒険者のランクは強さや技能スキルのレベルに依存せず純粋なダンジョン協会への貢献度で決められる。

 即ちどんなに強力な技能スキルを持ち、ボスクラスのモンスターを倒せる実力があろうと、一定量の魔石をギルドに納入しなければランクは上がらない。

 逆に言えば、地道にコツコツと実績を積み上げるタイプの冒険者の方が、ランクはスムーズに上がることも多い。



 なので新しく冒険者となった三人パーティー”黒キ剣“もまた、こうして新宿ラビリンスの第一層で真面目にゴブリンを狩っている。


「ぜぇ…はぁ…ご、50体目…達成…」

「お疲れ様だねえ紅蓮。さあそこで型稽古10コースだよ!」

「お…鬼ぃ〜」 

  

 手足に10kgずつ、更に防刃ベストの下に合計30キロの重りを付けた紅蓮が汗だくになりながらゴブリンの首を斬り飛ばすと、彼の前世の師であり今生でも所属するパーティーのリーダーである銀羽・フェデリアがさらなる課題を上乗せする。

 紅蓮の怨嗟の声などどこ吹く風な銀羽は、憎たらしい程に美しく可愛らしい笑顔で容赦なく命令する。


「疲れているときほど基礎が大切になるんだよ? さあキリキリ動きたまえ」

「悪魔ぁ〜…りしゃーる〜」

「ほぅ、ボクの前世の名前は鬼や悪魔と同列なのかなぁ?」


 ヨロヨロとふらつきながら、しかし型をなぞるときは整った姿勢と動きになる紅蓮が、ほぼ無意識に銀羽を罵倒し、銀羽はニヤニヤと嗤いながら額に青筋を浮かべる。

 

「余計な口を叩くようなら治癒術の代わりにボクの魔法が火を吹くよ?」


 そう言って銀羽は、周囲に浮かせていた無数の蝶━━の形をした炎や魚━━の形をした水等々を紅蓮の周りにけしかける。


「お〜ぼ〜え〜て〜ろ〜…」

「疲労で大分意識が混濁してるねえ…百合子〜治癒術をかけてあげて〜。あ、打ち込みは止めないでね?」


 メイスを銀羽に打ち込み、その全てを左手に持った小枝でいなされていた百合子が、こちらも汗で髪を額に貼り付けながら頷く。


「ひ…治癒術ヒール…あ?」

「ほら集中しないと、ボクが回復しちゃうよ〜?」


 紅蓮にかけるつもりが、銀羽への攻撃に意識が向いてしまったせいで治癒術が銀羽を回復させてしまう。

 ムカつく程に肌艶の良くなった銀羽が紅蓮と百合子を煽る。


「そらそら二人共、そんな事だとすぐに強いモンスターに出会って死んじゃうよ〜?」

「ぜぇ…はぁ…その前に…師匠に殺される……」

「はぁ…ふぅ…同感…です……」


 結局この後疲労困憊になった紅蓮と百合子の代わりに、銀羽が出現したゴブリンを20体程倒し、ノルマを達成した三人はダンジョンを後にした。


 


 

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