第12話 『黒キ剣』

ーーー西暦202☓年7月 都内某所ーーー


 ジュージューと肉の焼ける匂いと、ガヤガヤと騒がしい話し声の耐えない、若者に人気の焼き肉店。

 ジョッキに並々と注がれたビールを手に取り、三人の若者が祝杯をあげる。


「「「乾杯〜!!!」」」


 紅蓮、百合子、銀羽、一応今生でも20歳を越えている三人は、生ビールのジョッキを打ち鳴らし、互いの『冒険者』資格試験合格、そして紅蓮と銀羽の退院を祝う。


「あー、ようやく味気ない病院食からおさらば出来るよー」

「病院で貰うあの謎の栄養ドリンクってなんであんなに不味いんだろうねぇ」

「飲むだけで必要なカロリーと栄養素が摂れる優れ物なんですけどね」


 肉を焼きながらキムチを摘み、グビグビと飲み干し、紅蓮達は明らかに身体が悪そうな食事を楽しむ。


「しかし紅蓮、いい店知ってるねえ」

「バイト先だっただからねー、安くしてくれたよ!」

「紅蓮、アナタ確か工事現場と引っ越しのバイトしてるって言ってませんでした?」

「他にも色々やってるからねー…だから単位ギリギリなんだよー」

「だから冒険者になって『冒険者』枠で必要単位を減らそうとしてた訳か」

「まったく、理解できますが命懸けでやるのがそれですか」

「だってさぁ〜…」


 孤児院の先生との約束や将来の為にも大学に入ったはいいが、学費の為のバイトで危うく留年しかけた紅蓮が、大学から紹介されたのが『冒険者』になる事だったのだ。


「最近は冒険者も人手不足らしいからねぇ。人気はあるけど、どうしても生物を殺すのに忌避感を抱く人間は多いからねぇ」

「僕が言うのもなんだけど、お金持ちの銀羽や百合子がなんで資格試験うけたのさ」

「ボクは仲間探しだね。初っ端から前世の弟子と孫君達と出会えると思ってなかったけど」

「私も似たようなものですが、父や祖父もダンジョンに関わっていましたからね。昔から興味はありました」


 比較的(?)自分よりまともな理由に、紅蓮は不貞腐れながら焼けた牛タンを食べる。


「おう紅蓮、お前冒険者になったんだってな!

 こいつは店長おれの奢りだ、綺麗な姐ちゃん達と一緒に食ってくれ!」

「わーありがとう店長!」

「ありがとうございます」

「かなり良い肉だねこれ」


 バイトで世話になった店長が笑顔で様々な肉の盛られた皿を置いて去ってゆく。


「可愛がられてるみたいだねえ紅蓮」

「そう言えば病院で看護師さん達にも人気でしたね…」

「ねえ百合子、怖い顔で僕のお皿に野菜置かないで? あと茄子は百合子が嫌いなだけだよね!?」

「気の所為です、代わりにこのハラミは私が受け持ちます」

「それ僕の育てた肉ぅ!!」


 容赦なく肉を徴収された紅蓮が情けなく叫び、銀羽はビール(二杯目)を飲みながらケラケラ笑う。

 お皿に盛られた肉はあっという間に消えてゆき、飲み干されたジョッキがハイペースで入れ替わる。

 全員、前世でも今生でも変わらず酒豪だった為か、どれだけ飲んでも少し顔が赤くなる程度でほとんど酔うことはなかった。


 そうして、一通り肉をお腹に入れ終えた三人は、シメのお茶漬けを啜りながらについて話し合う。

 

「さて二人とも、この間のボクの提案、考えてくれたかな?」

「僕は良い案だと思うよ。まあ銀羽師匠の案だから間違いなく裏に何かあるだろうけど、少なくとも僕と百合子には被害はないだろうし」

「私も概ね賛成です。 実力はもとより、互いに信頼出来る相手ですしね」


 紅蓮も百合子も、特に気負いなく頷く。


「フフ、じゃあ決まりだ。では今日から、僕達三人はチームだ。宜しく頼むよ?」

「こっちこそ。また鍛えて貰わないとね、師匠?」

「お願いします。なんだかんだで言って銀羽の腹黒さはこれから冒険者として稼いでゆく中で大きな武器です」

「なんだかちょっと酷いこと言われた気がするけど…まあいいか!」


 そして銀羽が、お水の入ったジョッキを掲げる。


「では今日より、冒険者パーティー『クロツルギ』活動開始だ!」

「おー!」

「お、おー!」


 紅蓮と百合子もそれに合わせて、改めてジョッキを打ち鳴らした。


クロツルギ』、それは紅蓮、生前はグラッパ・ザーレと呼ばれた英雄が振るいし愛剣の銘。

 これから『冒険者』として活動する中で、彼らのを引き寄せるための広告塔として、紅蓮が提案しパーティー名に採用された。






「ところで、紅蓮が振るった武器なら、やっぱり正式名称の『ブラックメテオールグランドクラッシャー参式』に「「却下」」なんでですか! カッコいいのに!!」


 むくれる百合子を紅蓮が必死に宥める間、蚊帳の外に置かれた銀羽リーダーはちょっとだけ淋しそうにお冷やの氷を噛み砕いていたとかいないとか……。





~後書きのようなもの~


 本作を読んでいただいた皆様、このおよそ2週間、誠にありがとう御座いました。

 ストックとアイデアが底をついたので、紅蓮達の物語はここで一端〆とさせて頂きます。

 またストックと作者のモチベーションが上がって、ついでに仕事に一段落着いたら再開させて頂きたいと思います。

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