第5話 ホームラン!

ーーー西暦202☓年7月 新宿ラビリンス 第一階層ーーー 


 『冒険者』資格試験の最終試験は順調に進んでゆく。


 銀羽の次に呼ばれた守護者ガーディアン候補の男性は、少し腰が引けてはいたが、なんとか盾でゴブリンを殴り倒していた。


 そうして何人かの受験者がモンスターを倒し終わった後、ついに百合子の順番が来る。


明日香井百合子33番さーん、どうぞー」

「本当にノリが軽いですね…」


 試験官の緊張感の無い声に少し脱力しながら、百合子は自分の獲物を確認する。


「百合子は戦棍メイスなんだねー」

僧侶ヒーラーですので」

「僧侶ってそんな物騒なのー…?」


 先端に棘の付いた、ある意味で紅蓮の長剣や銀羽の魔杖より凶悪そうな武器を手に、百合子は微笑む。


「これでも高校生の時は薙刀部のエースだったんですよ?」

「……薙刀要素は?」

「…どんなモンスターも頭を潰せば死にますよ?」

「答えになってない!?」


 目を逸らす百合子に銀羽がツッコミを入れるが、百合子はさっさと、黒いモヤの前に行ってしまった。


 そして現れたゴブリンに対して、百合子はメイスを構える。


 左足を前に、身体を斜めにする。

 メイスは両手で根元を持つ。

 縦にしたメイスを顔の横へ、肘は閉じて、腰を軽く捻る。



「ゴフウウウ!!」


 ゴブリンは本能に従い百合子に襲いかかる。


「遅いですね」


 だが、その動きは百合子にとっては苦言を呈したくなるほど鈍い。

 目を血走らさて己に突進してくるゴブリンの頭を狙って、百合子はメイスを振り抜く。


「ゴブブフォ!!?」


 ”カッキーン“という効果音が聞こえてきそうな見事なフォームで、百合子はゴブリンの頭ボールを吹っ飛ばした。

 胴体から千切れ飛んだゴブリンの頭は、壁に激突し汚い花を咲かせ、首を失った胴体は血を噴き出しながら倒れ、黒いモヤとなって消えた。

 その跡には、小指の先ほどの大きさの赤い石魔石が転がっていた。


「おみごとでしたー」

「ありがとうございます」


 百合子は淡々と、自分を褒める試験官にお礼を行って集団に戻る。


「「薙刀関係ないじゃん!?」」

「……中学まで女子野球をやってまして」

「待って!? ゴブリンの頭はボールじゃないよ!?」

「アタマも似たようなものでは?」

「そうかなー…?」


 全力でツッコミを入れる銀羽と遠い目をする紅蓮から、百合子は少しだけ恥ずかしそうに目を逸らした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

名前:明日香井百合子

年齢:20歳

性別:♀

職業:僧侶ヒーラー

技能:治癒術Lv2

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