第3話 ダンジョン酔い
ーーー西暦202☓年7月 新宿ラビリンス 第一階層ーーー
人工物と自然の岩が混ざった奇妙な印象の洞窟を、10人程の男女が進む。
彼らは『冒険者』資格試験の受験者と試験官兼護衛の冒険者だった。
「以外と明るいんだねー」
「異界の第一層はどこも過ごしやすい環境なんですよ。 なんでもより深層に人間を引き入れて戦わせる事自体が、異界強度の強化に繋がるらしくて。 モンスターも奥へ行けば行くほど強く、そして得られる魔石やドロップアイテムの量と質も増えてゆきますねー」
三班に分けられた資格試験の受験者の第三班として、武器と迷宮用のグレーの防護服を支給された紅蓮がポツリと呟いた疑問に、同行している試験官兼護衛の冒険者が朗らかに解説する。
「あー…そう言えば試験で勉強したした。あれ、でもそれだと冒険者か深層に沢山向かいすぎると危ないのー?」
「ですねー。なので協会が、ダンジョンに一度に潜る数や質を調整しているんですよー。下手に強化された異界は、この新宿ラビリンスみたいに討伐されても残滓がのこりますからねー」
試験官でもあるその女性冒険者は、やれやれと首を振る。
紅蓮も試験官も、お互いののんびりした語尾が感染して緊張感が無くなっている。
「まあそのお陰で、こうしてボク達みたいな新人を比較的安全に訓練できる訳だよ紅蓮君」
「流石し…銀羽、詳しいね」
「まあねー。というか、よくこの状況で呑気に会話してられるねえ君」
同じ班の銀羽が紅蓮をジト目で睨む。
第三班には百合子もいるのだが、今は迷宮の魔素に当てられて白皙の美貌に冷や汗を浮かべている。
他の者も、紅蓮と銀羽以外は似たりよったりの顔で、よろよろと異界の道を歩いている。
「ダンジョン酔いには個人差がありますが1時間程で慣れますよー。むしろなんでお二人は平気なんですー?」
「
「ボクは美少女だからね! 例え吐き気がしようが下痢してようが顔色は変えないよ♪」
「「その理屈はおかしい」」
後ろで
「というか、異界だとひっきりなしにモンスターが襲ってくるて話だったのに、全然来ないねー」
「ああ、私が持ってるこのランタンが魔除けの効果を発揮していますのでー。 第一層程度のモンスターなら近寄ってこないですよー」
「便利だねー」
などなど、殆ど紅蓮と試験官だけがほのぼのと会話して、1時間ほどダンジョン内を行ったりきたりして、他の受験者が魔素に慣れるのを待った。
「はぁ…思ったよりキツいですね」
「船酔いみたいなものらしいから仕方ないよー。 はいお水」
「ありがとうございます、紅蓮」
ようやく全員が魔素に慣れ、試験官の指示で一時休憩となったため、受験者達は水分補給を行っていた。
「おじ…銀羽は?」
「そこでグロッキーになってるよ?」
「ああ、やっぱり見栄張ってたんですね」
銀羽は壁によりかかり、表情を天使のような笑顔で固めてその場から1ミリも動いていない。
一見すると平気そうだが、実際は疲弊しているのを誤魔化しているだけだと、前世からの腐れ縁である紅蓮達は察していた。
「それではいよいよ最終試験開始となりまーす。 これから魔除けのランタンを解除しますので、あまり遠くに行かないようにしてくださいねー。 守れませんので」
最後だけ真剣な顔で、試験官が受験者達に注意を促す。
紅蓮と百合子は、二人とも真剣な顔になり、腰に佩いた自分達の武装を撫でる。
「ここで出現するのは主に
「っ…!!?」
壁によりかかり、吐き気と倦怠感に耐えていた銀羽は、突然の事に目を見開く。
「どうしましたー?」
「いい、いやいやなんでもないさぁ? ゴブリンだね、うんうん。 ボクにかかれば楽勝さ!」
よくよく見ればいつもより蒼い顔で、銀羽は気力を振り絞り元気そうに振る舞う。
「見栄張るからー…」
「肝心なところで締まらないんですよね」
紅蓮と百合子が小声で囁きあうが、銀羽の耳にはしっかり届いていた。
「まずい、ボクの尊敬度がどんどん下がってる…」
「どうしましたー?」
「な、なんでもないとも!」
可哀想なものを見る目線を背中で感じながら、銀羽は気合を入れる。
そうして数秒後、銀羽達の目の前に黒いモヤが集まる。
「皆さん警戒してくださーい。これがモンスターの現れる兆候ですよー!」
そして数呼吸の内に黒いモヤが晴れ、ついにモンスターが顕現する。
「ゴブゴブ」
現れたのは小学校低学年程の身長の二足歩行の小鬼だった。緑色の肌に粗末な腰蓑、手には何も持っていない。
「この場所で出るゴブリンは武器を持っていませんが、もう少し進むと武器持ちが現れるので注意してくださいねー。 では22番さん、どうぞ~」
「ノリ軽いなぁ…」
試験官が銀羽に道を譲る。
銀羽は自分の武器である、先端に装飾のついた杖を構え、ゴブリンと対峙した。
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