第2話 新宿ラビリンス



 西暦1999年、南極に落下した隕石は、世界にこれまで存在しなかった架空元素、通称魔素エーテルをばら撒いた。そしてヒトの信仰と結合した魔素は、その果実として現実の自然や建造物を取り込み、新たな空間━━異界ダンジョンを生み出した。


 西暦2000年、世界で最初に出現した異界ダンジョンは、新宿駅を取り込み、銃を含む近代兵器を無効化するモンスター蔓延る迷宮として、その威容を世界へと示した。



 当初この危機に対応した自衛隊は早々に、近代兵器の通用しないこの異界━━『新宿ラビリンス』の攻略に行き詰まる。

 幸い死者こそ出ていなかったものの、異界ダンジョン発生から2週間、異界ダンジョンの入り組んだ構造とモンスターに多くの負傷者を出し一時撤退に追い込まれた。


 それでも、モンスターを倒した事で技能スキルを得た自衛隊員の力や、ダンジョン内で得られたドロップアイテムを分析し、自衛隊及び時の政権は異界ダンジョンを攻略する糸口を得た。



 一つは、銃や火砲など近代兵器はモンスターに通用しないが、逆に刀剣類等は有効であること。そしてそれらの武器は、工場で大量生産された物よりも、一流の職人が丹精を込めて創り上げたものであればあるほど、より威力を発揮するした。

 また、モンスターを倒すことで人間は魔素を取り込み、様々な技能スキルを獲得できること。

 さらに、モンスターを倒した際に得られる魔石は、石油資源に代わる新たな資源の可能性を秘めていること、そしてドロップアイテムとして得られるポーションや魔物素材もまた、技術革新を促す可能性が高い事を。


 ここで、自衛隊を指揮する時の内閣は決断を迫られた。既に得られた情報は他国に流れ、『新宿ラビリンス』を国連が共同でするよう、他国から外交的な圧力をかけられ、果ては軍事的に手に入れようとする厄介な隣国まで現れた事で、異界ダンジョンの早期攻略及び、自衛隊の国境警戒への配置転換が求められたからだ。


 そこで、時の政権はある種の非常手段を選択した。


 自衛隊員だけでなく、一般人に異界ダンジョンの攻略への協力を要請したのである。

 これは、異界ダンジョンの解析に協力したとある大学教授とその息子の提案、そして若い官僚の尽力によるものとされている。


 大学教授の伝で、剣術の師範や怪しい自称陰陽術師、古流武術の継承者に格闘技のチャンピオン、有名スポーツ選手やオカルト研究家に売れない漫画家、果てはNinjaの末裔まで、時の総理が『よくこんな人材集まったな…』と呆れ返る面々が、民間協力部隊として異界ダンジョンに入り、そして異界ダンジョンを瞬く間に攻略してみせた。

 全5層、それが東西南北上下と複雑に絡み合う大迷宮は、発生から約2ヶ月で攻略され、ダンジョンボスは倒された。


 だが、新宿駅を取り込んだ異界ダンジョンの残滓は、未だに地下にその入口を残すこととなっり、新宿駅を駅として使用することは不可能となった。

 紆余曲折の末、旧新宿駅は新たに設立された半官半民組織日本ダンジョン協会の本部として建て直された。そして半休眠状態の『新宿ラビリンス』は、資源採掘及び新人『冒険者』の訓練所として利用される事となり、攻略完了から20年以上、数多の『冒険者』達を送り出してきた。




 そして今日もまた、新たな『冒険者』候補達が力を求めて地下への階段を下ってゆく。

 

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