波さらった足跡
どうも長い滑り台みたく下って行った。
たどりつくところりんごの胃の中であった。
おそらく食われたのだから、そうなのだろう。
丸呑みのおかげさま欠けた壊れたなく生きている。
りんごの甘みがあたりいっぱいで、むしろ臭かった。
どうやら天井へ電灯の埋め込まれてあって、あかるい。
みるとそばでメクのいた。
黄金色の床や壁やらむさぼっている。
こちらをみるなり、頬袋ふくらませ、しゃべる。
「こここっこうここ」
「これけっこううまい、か?」
翻訳できていて、メクうなずいてまた食べはじめた。
顔へつけられたりんごの破片を袖で拭いた。
まあ悪くないと感想だった。
「というか、朝飯たいらげてよくそんな食えるな」
と苦言しつつあたりみまわした。
座布団とちゃぶ台のあった。
そこ座って長い白黒髪の爺さんが心静か茶の啜っている。
「なんで人?」
爺さんははぁあ。
そう温かい息の吐いて、湯吞をおいた。
で、着物の帯を正す。
「私はここの店長だ」
「あぁ、はい」
「私はここの店長だ」
「さようですか」
「私はここ……」
「もうわかったんでいいです」
「私は……」
しつこい。
だれも止めない目覚ましへ似た連呼だった。
するとメクから、また食べながらだった。
「しょれ、はたちのここのてっちょうごだ」
「それ、私はここの店長語だ。は? 言語なのこれ」
「ぎゅうごくしていたのでばかる」
「留学していたのでわかる? どこの国だよ」
「ちなびさっきのばたしはこごのでっちょうだ、どいた」
「ちなみにさっきのは私はここの店長だと言っていた? なんかこんがらがってきたぞ」
メクの頬袋のを呑みほしてから、
「がたしのじゃんべってみろう」
「私のしゃべってみよう? つかもうまともでしゃべれるだろ」
「あ、ごめん。あんまり長く咀嚼語だったから戻しにくい」
「それも言語なのか」
メクは店長へ対座する。
まずメクから、
「私はここの店長だ」
それへ店長、みぶりてぶり。
「私はここの店長だ」
「私はここの店長だ」
「私はここの店長だ」
「私はここの店長だ」
「私はここの店長だ」
すっかり同じことを言い合っているだけにしか聞き取れない。
で、メクの通訳が、升壱まで帰ってくる。
「なんだって?」
「いや、私はここの店長だしかわからなかった」
「それは俺もわかったけど」
「けど、みぶりてぶり語でなんとなくわかった」
「もう言葉でないけどな」
「このスーパーは侵略されたんだ」
「なにに?」
「エブってひとりのバイト」
「そういやりんごが、そう呼んでたな」
「給料あげなかったからだってさ」
「で、ここでれるのか?」
「出方はしらないらしい」
「まぁでなきゃつかまってないよな」
「けど、私は出方しっている」
言ったメクの指さした。
彼女がむさぼっていたところ、食われすぎて欠陥が小さくあいていた。
外のひかりらしいの、細くさしこまれている。
「どうやらでれるな」
安堵つかぬ間で、メクがはりきっていた。
「よし升壱、そのバイトの倒して、このスーパーのっとろう!」
いやな予感であった。
ただ升壱もそう消極な態度でない。
「まぁ、バイトの経営だと一円じゃなくなるかもしれないしな」
ここで店長が、立ち上がって泣いてよろこぶ。
「私が店長だ!」
ここだけ、なんとなくながら言語のわかった。
升壱はすこしアマテラス理論をこわく思いながら、
「そうだな。経営破綻してでも、一円で通してもらう」
とはしゃいで光めざすメクのあとへ続いた。
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