せんぷうきの右回り

 こうして徒歩、近場のスーパーへ。

 自動扉が開く。

 作られ溜まった清涼のながれてくる。

 いっしゅん体が浮かんだような気分だった。

 天井で電灯がどこまでもならんでいく。

 品々が、こぎれいにまとまってとりとめもなく豊かで明るい。

 こんななかにメクはわいわい入っていく。

 升壱のあとからついていく。

「勢いできたものの、買うものなんてないな」

 涼みで冷やかしであった。

 しかし一緒に来たのはそうでないらしい。

 メクは成果物で埋まった棚からりんごのとって、齧ろうとする。

 さすがに諫めた。

「よくないぞ」

「でも一円だぞ?」

「まだ払ってない」

「じゃあ払っといて」

 なお赤く熟れたの齧ろうとする。

 すると齧るまえから、りんごみずからぱっくりひらいた。

 牙の峻険で、山あり谷ありおそろしい。

 おそろしいの膨らんで、大口。

 そうしてメクをひと呑み。

 で、こじんまりりんごへもどれば満腹らしい吐息。

「おいメク!」

 床に落っこちたりんごへ呼びかける。

「なんだね、にいさん」

 メクでなく、また口のひらいたりんごが答えた。

 ちょっとずる賢そうな語感であった。

「いや、あの。さっき食べたもの返してくれないか?」

「なんでだ。この世は強食だ」

「だから食われるがわだろ」

「もううんざりなんだよ。そういった固定観念は」

「まっとうな評価だと思う」

「価格、一円だぞ!」

「それはまっとうでないけど」

「ここまでコケとされて黙っていられるか!」

「で、いま喋っているわけか」

 升壱はちかごろこの世の理解がすすんでいた。

 刺激しないようあくまで浮き沈みなく話そうと試む。

「問答無用、我ら間食も辞さないエブ軍よ」

 しかしりんご、さっきに同様で肥えていく。

 容赦なく口あんぐり開いた。

 よって、升壱も呑まれてしまった。

 やはりこの世界ようわからん。

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